【株式取得】銀河商事の株式
涼井は地球のノートパソコンを閉じた。ぽかんと口を開けたリリヤと、ロッテーシャが執務室に入ってきたところだった。小脇に涼井のランチボックスと自分たちの食事を抱えている。
「株式ですかぁ?」とリリヤ。
「うむ……」
涼井は執務室のデスクに深く腰をかけた。
どういう素材でいかなる設計をしたのか皆目分からなかったが、長時間の作業でも腰に負担がこない。この世界の技術の優れたところの1つだ。
「銀河商事は未公開会社だからな。株式はいわゆる証券取引を行うことができる市場には上場されていない」
「つまり……?」
「売ってくれる人から直接買ったんだ」
「そうすると……?」リリヤがさらに突っ込む。
「……株式を33.5%ほど取得した。これで一定の議決権と、拒否権を確保したことになる」
「閣下、我々はそうした民間事業には知見がないので……」ロッテーシャがフォロー気味に発言した。
涼井は苦笑を浮かべた。
「そうだった、すまなかった。いずれにしても我々は銀河商事に物申せる立場になった」
「どうやって買ったんですかぁ?」
「未公開企業ではあるが、個人で株式を持っている人が結構いたんだ。ロブ中佐に調査させて判明した個人の投資家とかからコツコツ買っていたんだ。さっき大口を購入できたから、33%を超えたんだ」
(株式に関する法律が地球とかなり似ていて助かったな)という言葉は涼井は飲み込んだ。
「後は大口の株式を持つ法人から購入できれば、ひょっとすると過半数を目指せる。そうすればこちらが単独で特別決議を行うことが可能になる」
「そのホウジンって?」
涼井はにやりと笑った。
「傭兵艦隊ヤドヴィガだよ」
涼井はロブ中佐の指揮でグレッグ、海賊たち、流入してくる開拓民から徹底的に情報を収集した。その間に涼井のクビ、共和国の陥落、惑星エールでの睨み合いなど色々な事件が起きた。
そこで判明したのは、傭兵艦隊ヤドヴィガが親会社である銀河商事の株式をかなり持っているということだった。どうやら銀河商事がヤドヴィガの法人を子会社化した際に、さすがに2万隻近い艦隊をアセットとして持つ部隊ごと購入するには資金が足りず、一部を株式交換にしていたらしい。
「傭兵艦隊ヤドヴィガが我々に株式を売るとは思えませんが」ロッテーシャが疑問を呈する。
「簡単ではないだろうな」
「方法があるのですか?」
「無理やり売らせるのさ」
涼井はメガネの位置をくぃっと直した。
——開拓宙域の惑星エールでは、相変わらず傭兵艦隊ヤドヴィガと、ヘルメス・トレーディング社の所属となっているロアルド提督の艦隊と商業ギルド同盟の艦隊の連合軍が睨み合いを続けていた。
銀河商事は艦艇の密造を進行し、かつ惑星モルトのように勢力下に置いた惑星を増加させていた。この宙域にも増援が送られ、今や傭兵艦隊ヤドヴィガのエール派遣艦隊は7000隻にまで増加していた。
一方、ロアルド提督の艦隊は4000と変わっておらず、商業ギルド同盟も100隻程度を常時置いておくのが限界だった。
ヤドヴィガにはさらなる増援がなされ、ほぼミリタリー・グレードの艦艇がさらに1000隻増加した。
傭兵艦隊ヤドヴィガのエール派遣艦隊を指揮しているリット1級船団長はこれを好機と見た。しかもつい最近ギャラクシー級戦艦が数十隻も増加したばかりだ。おりしも銀河商事代表のロンバルディアから「可能であればエール宙域をとれ」との指示がきていた。
リット船団長の指揮する艦隊が動き始めたのは急だった。
これまで陣形を組み替えたり訓練めいた動きをするだけだったヤドヴィガが攻撃的な隊形を整え、一気に迫ってきたのだった。
「ヤドヴィガの艦隊、急速接近!」オペレーターが声をあげる。
「ようやく来ましたな」のんびりした様子でアリソン中将が言う。
「うむ、よし、全艦隊! 予定通りの行動をせよ!」ロアルド提督が鋭く指示を下した。
迫りつつあるリット艦隊を前にしてロアルド艦隊が急速に隊形を変更した。
そして商業ギルド同盟の艦隊ともども反転して逃げ始めた。
「な、何だと!?」
あまりに予想外の迅速な逃亡にリットは戸惑った。この世界の住人の傾向として、想像できない自体に陥った時にパニックになることがある。特に攻撃的な隊形をとっていたため、ロアルド艦隊を捉えそこねることになった。
しばらく戸惑っていたが、気を取り直し、追撃のために艦隊を再編成した。
高速の出る艦艇を中心に相手と同数の4000隻をまず先遣隊として発進させる。
残りは戦艦部隊などの足が遅い艦艇だったが、編成し直して先遣部隊の後を追わせた。
リット1級船団長は自ら先遣隊を率いていた。
エール宙域の惑星系を離れ、ロアルド艦隊はヴァイツェン宙域に向かっているようだった。このまま追えばヘルメス・トレーディングの持つ傭兵艦隊マトラーリャがやってくるだろう。しかしマトラーリャは全勢力をあわせてもせいぜい3000隻。警備のために散っているという噂もある。
もしかすると自分自身がランバリヨンを陥落させることもできるかもしれない。リットは妄想の勝利に浸った。
「重力の増大を感知! 敵の援軍のようです!」ヤドヴィガのオペレーターが注意を飛ばした。
「マトラーリャか? 思ったより早かったな。何隻だ?」
「……まだ解析中ですが……」
「概算でいい、どれくらいだ?」
「……さ、35000隻です……」
「
メインモニタには反転して迎撃の体制を整えようとするロアルド艦隊、そしてその背後に展開しているヘルメス・トレーディング社の艦隊35000隻が映っていたのだった。
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