【増資】惑星ランバリヨンの新社屋
ロブ中佐とアイラ、ローランが惑星ゼウスの探索をしている頃。
惑星ランバリヨンではさらなる工事が行われ、ヘルメス・トレーディング社の新社屋も開拓宙域の資材を使ってほぼ完成していた。
地下施設を中心に、ある程度の防護力を持つように計算された低層の構造物が地表に建造されていた。ここが新社屋だ。
カジノ付きの保養施設、拡張された宇宙港、防衛拠点、街の中心部も地下の坑道で連結され、さらに地中の反応炉もかなり増やした。恒星がない浮遊惑星のため、基本的には反応炉でエネルギーを補っていたが、地下をかなり深くまで掘削し、地殻熱をエネルギーに利用できるようにした。
街の区画も整備し、猥雑だったランバリヨンの昔の雰囲気を残した路地、商業区画、社員や業者の生活する区画などが作られていった。
こうした居住区やドック、工場などの建設やそれに伴う労働者募集でかなりの数の開拓民が集まってきた。銀河商事の高利のローンで搾取される開拓民は、生産した農産物や採掘した鉱石の流通を人質にとられているため動けないが、ヘルメス・トレーディング社が代わりを用意することで逃げられるようになった。
さらにヘルメス・トレーディング社独自のファンドからの貸付や、借り替えも積極的に斡旋した。
傭兵艦隊マトラーリャはヘルメス・トレーディング社が子会社化した上で、警備や治安維持に使うことになった。希望者の一部はヘルメス・トレーディング社の正規艦隊に移籍した。
「おぉー、なんかすごいことになりましたね」
リリヤが地下工場のキャットウォークから下方を覗き込んで声をあげた。
「そうだな、毎日、ペルセウス・デモリションが廃棄したことにした艦艇が続々と密輸業者とか海賊のルートで運び込まれていて艤装されてるからな」
ロッテーシャが言う。
キャットウォークの下方は広々とした空間となっている。
下方は重力が低くなるよう設定されており、駆逐艦などの艦艇が何十隻も並んで艤装作業を施されていた。
「こういう地下工場はいくつも建設されているし、ランバリヨンの衛星軌道にもドックを建設する計画がある。スズハル閣下はすごい人だ」
「主にメガネがいいですよね」
「それは私にはわからんが……」
リリヤとロッテーシャは地下保養所に移動した。
ここもだいぶ拡張され、共和国軍関係者やヘルメス・トレーディングの社員であれば割安で利用できるカジノやジム、プール、ちょっとしたショッピングモールなども置かれていた。
「今までこういうちゃんとした給養ってなかったですよねぇ」
「うむ……惑星アフロディーテは保養惑星だったが、それくらいだったな。カジノはなかったし、スズハル閣下は割り切っておられる。いまは状況が状況だしな」
「あっ、バーク将軍がいた」
「閣下! スズハル閣下よりお届けものです」
ひょっこりと現れたのが首席幕僚で内務部門統括のバークだった。
リリヤとロッテーシャは彼を探し回っていたのだった。
「おぉー少佐に大尉」
「なんか新しいデータだそうです」
「通信だと送りにくいのかな? お、端末ではなく紙か」
この世界では紙は相当な貴重品だ。わざわざスズハルは製紙工房を設けて生産させていた。貴重品なので辞令や注意喚起などのタイミングでよく使っていた。この世界の住人には非常に効果があった。
「おぉ、なるほど、ふむふむ、これはありがたい」
「何て書いてあったんですか?」
バークはニヤっと笑った。
「それを言ったらセキュリティの意味がなくなる。閣下にはよろしく伝えてくれ」
「はーい」
リリヤとロッテーシャは連れ立って居住区画のほうに向かった。
居住区画ではかつてランバリヨンで飲食店を出していた業者が戻ってきており、かなり活気付いていた。
人口密度が小さい惑星が多い中、ランバリヨンは共和国の軍人、傭兵、海賊、開拓民、密輸業者、博徒、無法者のような雑多な人々が集まり、かつてのランバリヨンのようにそれとなく不文律で治安は保たれていた。問題を起こしてランバリヨンに入れなくなるよりは、大人しくするほうを選ぶ者が多かったのだった。
昼間でも薄暗いが、街の灯がきらめいている。
人通りもこの世界にしては多く、レストランなどに入るもの、テラス席で昼間から良い気分になっている者など雑多な雰囲気だ。屋台のようなものも出ている。
このあたりは営業許可をもらって運営されている店ばかりだ。
路地裏のほうに入ればもっと珍しいものも手に入る。
昼食用にロッテーシャとリリヤはそれぞれバケットサンドを買い、涼井のためにランチボックスのようなものを入手して二人は地下に戻った。
地下は適切な温度と重力に保たれ、いわゆる動く歩道も整備された。
こうした建築や人口の流入は開拓宙域を潤した。
もちろん工作資金が原資なのである程度利益を度外視にできるところもある。
そしてこのことは、銀河商事が抑えている領域から人が離脱し、物流が減少していくことも当然意味していた。
「提督ー、ランチボックス買ってきましたよ」
涼井の執務室は、艦隊のスタッフやヘルメス・トレーディングの社員をある程度見渡せる場所にあった。個室にはなっていたが透明な壁に覆われ、スタッフ達は端末や涼井が持ち込んだ地球のノートパソコンの画面は見ることができないが、涼井はこのフロアを見渡すことができるように設計されている。
「すまない、助かる」
涼井は画面から目を離さず返事をした。集中しているときにありがちだが、困難な状況でもよくその状態になっていた。
「何かありましたか?」
涼井は会心の笑みを浮かべた。
「銀河商事の株をかなりのパーセンテージ、取得することに成功した」
それは新たな激動の始まりを意味していたのだった。
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