おっさんが英雄になる件
【敵対的買収】占領下の共和国
ロストフ連邦は現在共和国の主要惑星系を支配下におさめていた。
リマリ辺境伯領の艦隊もロストフ連邦とともに進駐した。
首都惑星ゼウス以下、アテナ、アフロディーテ、アレス、ディオニソス、ペルセポネなどの中心部の惑星群、ヘラ、ハデス、ポセイドン、アポロン、タナトス、エリス、ニケ、ペルセウスなどの辺境惑星群、リマリ辺境伯側の辺境であるカイロス、アフロディーテなど合計25の惑星が無血開城後に完全に制圧された。
ロストフ連邦はさっそく軍政を敷き、大統領府を解体。
占領地行政を行うためにゼウス総督府を設立した。
共和国の残りの惑星には共和国の宇宙軍や海軍艦艇、沿岸警備隊の残党が逃げ込み、陸軍などが深い陣地を掘って徹底抗戦の構えを敷いてた。
リオハ条約によって帝国と共和国が共同で管理していたあたりには帝国艦隊が出没し、アルテミス宙域も事実上占領されてしまったため、それ以上の行動はできなかった。
とはいえ、ロストフ連邦は、開拓宙域付近と辺境から中心部と首都惑星など主要部を11個艦隊を動員することで制圧に成功し、共和国の政府は消滅するという大勝利をおさめたのだった。
ゼウス総督府にはリマリ辺境伯自ら祝いのために訪れ、銀河商事からもロンバルディアが表敬訪問のためにやってきていた。
現在はバルカル大将が臨時総督となり、ゼウス総督府艦隊司令官はヴォストーク元帥が就任していた。
ヴォストーク元帥は艦隊を率いて不在だったが、バルカル臨時総督は上機嫌でリマリ辺境伯とロンバルディアを自ら旧大統領府で出迎え、そのまま迎賓館へと導いた。
「おめでとうございます、元帥……いや気が早すぎましたな。ついに共和国を占領した英雄となられましたね」
ロンバルディアが満面に営業スマイルを浮かべ、ワインをバルカル臨時総督のグラスに注いだ。
迎賓館のテラスからは、戒厳令の状態にある庁舎街が一望できた。
そこらじゅうにロストフ連邦の宇宙軍歩兵の漆黒をベースに白いデジタル迷彩の入った完全武装の兵士が立って警戒していた。
「まさに
バルカル臨時総督が大笑する。
リマリ辺境伯は白髪の老人だったが、彼も嬉しそうにグラスを傾けた。
「銀河商事も傭兵艦隊を総動員し、開拓宙域に対する野心をむきだしにしていたスズハル一党を釘付けにしました。当然彼らは共和国の意思を受けていたものと思われます。我々のこの功績に免じて例の約束は……」
「もちろんだ。この占領地および開拓宙域における物流や、領域をまたぐ通商は銀河商事が独占する」バルカル臨時総督はぐぃっとワインを飲み干した。
「銀河商事の所有する開拓宙域や惑星モルトのカジノからあがる収益でロストフ連邦は戦力を整備できたのだ」
「ありがとうございます」ロンバルディアがすっと一礼した。
「これから共和国もすべて制圧して共存共栄ですな」リマリ辺境伯がグラスを掲げた。
「その通り、我らは一蓮托生ですな」
その様子をロンバルディアは張り付いたような笑顔を浮かべて眺めていた。
彼の目からは一瞬、尋常ではない熱量の何かがほとばしったが、すぐに表情を消し、バルカルの空になったグラスにワインを注ぎに行ったのだった。
「いたるところロストフ連邦の連中だらけだねぇ」
ひょこっと惑星ゼウスの街角から顔を出して様子を確認した人物がいた。
「姉さん、あんまり目立っちゃ」
「お二方、とにかく移動しましょう」
一見、ふつうの市民風だが、黒髪の姉妹らしき2人と、やや恰幅のよい中年男性がまとまって行動していた。
「ロブさん、とりあえず統合幕僚本部に行ってみませんか」
「うーんそれよりは郊外の宇宙港を確認したいですなぁ」
「あっ装甲車が来るよ、隠れな、ローラン」
「はーいアイラ姉さん」
その人物たちは海賊のアイラ、ローランと憲兵のロブ中佐だった。
人気のない道路をロストフ連邦の宇宙軍歩兵所属の装甲車がゆっくりと通っていく。軌道上からも降下可能な装甲車連隊をロストフ連邦は編成していた。
装甲車は厳戒態勢というよりは、単に拠点から拠点に移動しただけのようだった。
その様子を確認した3人は大通りをさっと渡って路地裏に入り込む。そこからちらりと庁舎街大通りの様子を確認する。大統領府や統合幕僚本部、国務省などと迎賓館のあるあたりだ。迎賓館は白亜の壮麗な建物だった。
ほとんどの建物には人気がなかったが、3人からは迎賓館の煌々とした灯りが見えていた。
「ふーむなるほどなるほど、どうやらかなりの重要人物が集まってるようですな」
ロブ中佐が一瞬、単眼鏡で様子を確認する。
「じゃあ殺っちゃう?」アイラが目を爛々と輝かせた。
「いくらなんでもそれは無理でしょ」と、ローラン。
「まぁ暗殺も選択肢でしょうが、今はまずは情報を収集しましょう。スズハル閣下が首を長くしてお待ちです」
「じゃあ移動しよっか」
3人は夜の闇に消えていった。
ロンバルディアはふと、庁舎街のほうを眺めたが、そうした3人の姿はとっくに見晴らしのよい大通りからは消えていたのだった。
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