【倒産】首都陥落

 アレス宙域はこれといって特徴のない宙域だが、首都惑星ゼウスに続く中心部に属する惑星系の1つだった。


 共和国宇宙艦隊司令長官のノートン元帥は何とかかき集めた5個艦隊71000隻を配置。

 一方、ロストフ連邦はヴォストーク元帥自ら先鋒の5個艦隊、後詰の6個艦隊の合計11個艦隊12万1000隻を率いて進撃してきていた。


 ヴォストーク元帥は5個艦隊を直轄、残り3個艦隊をバルカル大将が指揮して続行する構えとなり、あとはその辺の伏兵を警戒してか1個艦隊づつ分散して後方に布陣していた。かなり攻撃的で数を活かした厚みのある陣形だった。


 ノートン元帥は3個艦隊を指揮するルアック大将を前衛とし、サカイ中将の率いる1個艦隊を中核に置いた。もともと少将で暫定配置だったロジャー提督には半個艦隊を任せ後衛とし、自身は全体をみつつ8000隻ほどを最終予備として配置した迎撃の構えとなっていた。


「よーしここを突破すれば敵の首都まで遮るものはない! 前進じゃい!」

 ヴォストーク元帥が怪気炎をあげた。

 ロストフ連邦は連勝からくる精神的優位さがゆえか、果敢に前進した。

 

「来おるわい三流国家の連中め!」

 海軍に転任していたが無理やり復帰したルアック大将も剛勇型の提督だ。

 しかし彼は今回は慎重に布陣していた。


 ロストフ連邦の艦隊が射程に入る。

 ルアック艦隊は一斉に砲撃を開始した。と同時に左右に急速機動する。


「おおっ!?」ヴォストーク元帥がメインモニタの戦況を見て驚いた。

 ルアック艦隊は1個艦隊が猛烈な質量弾を浴びせかけるとともに、残りの2個艦隊はヴォストーク元帥の攻撃的な隊形を包み込むように光線で砲撃した。


 とにかく突進を止めることが目的だったため、中央に位置した艦隊が3個艦隊分の質量弾を装填していたのだった。


 ロストフ連邦の先鋒の中でも最先端の艦隊は猛烈な質量弾を撃ち込まれ突進が鈍った。


「ええい! 無理やり前進するんじゃい!」

 しかしヴォストーク元帥の指令で次に進む艦隊が、最先端の艦隊を盾にするようにして無理やり前進する。それも質量弾の火線に捉えられるが突進はやまない。


「あいつら無理やりすぎるぞ!」今度はルアック大将が驚く番だった。

 かなりの艦艇を喪失したがロストフ連邦の先鋒はルアック艦隊の至近距離に飛び込み、近距離から砲撃を仕掛けてきた。双方にダメージが大きいが、数が多い方が有利だ。


さらに陣形とかあまり関係なく後続のバルカル艦隊もルアック艦隊の両翼に突っ込んできた。強引で荒く拙速だったが、数は巧緻に勝った。さすがの歴戦のルアック艦隊も綻びがでる。


「む、いかん!」

 ノートン元帥はサカイ艦隊に指示して前進させ穴埋めをさせた。


「元帥! 敵の最後衛がこちらの側面に回り込もうと機動しているようです!」


 8個艦隊をルアック大将とサカイ中将が支えている間に、敵の1個艦隊が回り込もうと動いているようだった。そちらに対してはロジャー少将の半個艦隊を投入して手当をせざるをえなくなった。


 ロジャー少将は劣勢ながらぎりぎり戦線を支えた。

 しかしロストフ連邦は予備の2個艦隊も無理やり正面に突入させてきた。

 もちろん艦隊の密度が濃くなっても接触するなどそうそうありえない。しかし数個艦隊が狭い空間で同じ進路をとっていたため、戦艦と戦艦がぶつかる珍しい事故が数件起きた。しかしロストフ連邦の艦隊は止まらなかった。


 高まる圧力に屈しルアック艦隊の陣形が乱れ、サカイ艦隊が押し返された。

 ノートン元帥はサカイ艦隊を後方で再編させるとともに艦隊主力からはぐれた艦艇を収容させ、最終予備の8000隻を投入した。

 

 新手の8000隻はよく持ち堪えた。

 しかし左翼側ではロジャー少将が2個艦隊に押されて敗走した。

 ルアック艦隊はもう統制が取れなくなり、個艦がそれぞれ勝手に抵抗している状態になりつつあった。


 サカイ艦隊の再編成は間に合わずバルカル大将の艦隊がそのまま突っ込んできた。


「終わった……」

 ノートン元帥はがっくりと膝から崩れ落ちた。

 メインモニタには目の前で戦艦が1隻飛散するのが映し出されていた。


 これ以上は完全に殲滅されるおそれがある。

 ノートン元帥は白旗をあげるよう全艦隊に指示した。

 しかしロストフ連邦は簡単には矛を収めず、共和国の艦隊が戦力の70%以上を喪失するまで暴れ回ったのだった。


 ノートン元帥の降伏によって共和国艦隊は事実上壊滅。

 リマリ辺境伯と対峙していたファヒーダ中将はノートン艦隊壊滅の報を受けてその場を離脱。行方不明となった。


 首都惑星ゼウスまでほぼ妨害を受けずに進撃したロストフ連邦は、大統領オスカルに色々な条件をつけて陸軍やわずかながら宇宙艦隊をもっていた海軍を武装解除させ、全惑星を無血開城させた。


 しかしロストフ連邦の艦隊が進駐して以降はその条件は全く守られなかった。

 大統領オスカルだけは惑星から側近とともに逃亡し、ロストフ連邦軍政下で指名手配となったのだった。




 

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