【予算削減】大統領オスカルと同志たち

「何だと!?」

 ブライト・リン大将・・が血相を変えて立ち上がった。つい何週間か前までは少将の階級をつけ、軍事刑務所に収容されていた男だ。

 

「おいおぃー……そんなに焦るほどのことかい?」 

 のんびりした様子なのは新大統領のオスカルだ。

 彼は自分の執務室の大統領専用のデスクに脚を乗せてのんびりとくつろいでいた。


 大統領府の執務室。

 全体的に古風だが天然の木材を使った豪華な内装、本物の繊維で作られた一点ものの国旗などが飾られている。


 大統領府の大統領執務室では豪奢なデスクと、ちょっとした打ち合わせが可能なソファとデスクの組み合わせが設置されている。


 そこには新国防大臣のジェームズ・カンと新宇宙艦隊司令長官になる予定のブライト・リン大将が揃っていた。統合幕僚長のノートン元帥も呼んだのだが、彼は体調不良を理由に欠席していた。


「どうしたもこうしたも、スズハルが脱出したというではないか! こちらの要望を飲んだという話はどうなったのですか?」ブライト大将が興奮して唾を飛ばす。

「そりゃあキミたちはアテナ宙域でやられてるから……」

「あのあとフォックス・クレメンス社からヴァッレ・ダオスタ公まで辿り着かれたんですよ。あの男は尋常ではありません」

「気にしなくてもいいんじゃないの? 行く先なんてないでしょ」

 大統領オスカルは虚勢なのか、本当に気にしていないのか判然としない表情で手元の酒瓶をぐいっと傾けた。


「あのチャン・ユーリンの反乱まで抑え込まれたんですぞ」ブライト大将はたたみかけた。

「まぁーよく考えたらあの男、1言も承諾したとか言ってないし、口頭の話だから辞表も出てない、今の段階ではまだ宇宙艦隊司令長官もあの男なわけでしょ、なら今、訓練で移動しますを止める方法もないし。たかだか3000隻なんだからどっかの惑星にこもったりしても何とでもなるよね」

「まぁ……それはそうかもしれませんが……」


「我々はアテナ宙域で散々な目にあったのですから、ブライトの言ってることもわかりますがな。たしかに3週間という期限をもらっておきながら2週間目で艦隊を率いてゼウスを出ていくとは思いませんでしたが……厄介払いができたんじゃないですかな」

「それよりもいま重要なのは艦隊の削減計画だよね」大統領オスカルが酒瓶をもう1口傾ける。


「進捗はどうなってるんだい?」

「それはですね‥‥」


 現在、国防大臣となったジェームズとそのスタッフが国防予算の削減計画を作成中だった。初年度は艦隊の廃棄などにかかる予算や、退職する即応予備や現役の軍人たちの退職金がむしろ予算は膨れ上がるが、次年度からは固定費用も減るので10パーセント削減目標は達成できそうな気配だった。


「良いじゃない」オスカルは上機嫌だった。

「その予算を社会保障費の増額に回すんだ。もちろん我々の支持母体……革命的反戦軍やその他偽装リベラル団体が納得するような形でね」

「国防予算を10%削減したところで国民にはそれほど回っていきませんがな……」ジェームズがぼそりと言う。

「いいんだよ、ポーズだよポーズ。最終的にマスメディアなどがボクたちを盛り上げてくれる。同志はそこら中にいるんだからね」大統領オスカルは楽しそうだった。


「いずれにしても帝国とは和平済み、ロストフ連邦も事を構えるとしてもせいぜい遠征でやってくるのは数個艦隊のはず。艦隊数は10どころかもっと減らしてもいいんじゃないかな?」

「今現在、8まで減らす案が出ていますし、すでに艦艇廃棄でなかなか良い条件の見積もりもきてます」

「アンテナ高い業者もいたものだね」オスカルはくっくっと笑った。


「ペルセウス・デモリションとかいう長年ペルセウス宙域でやってきた解体業者が特に良い値段を出してますね。開拓宙域をオフショアで使うから安くできるとか。ただ調べたところ、ここの代表のグレッグは密輸業で摘発されたことがありますな。不起訴になってますが」

「良いんじゃない。それくらい。まずは軍備を削減する公約を守らないとね。我々が政権を維持し続けるために必要だよ」

「では進めます」

「はいはーい」


 ブライト・リンとジェームズ・カンは退出していった。

 大統領オスカルはにやにやと笑いながら彼独自の構想を練っていた。


「大統領閣下、"V通信"です」

 首席補佐官のエリザベスの声が端末から響いた。


「ありがとうー繋いじゃって」

「はっ」


 その通信を繋ぐと、目の前に映像でその人物が出現した。

 よく肥えた体格。野心なのか欲望なのかが混ざったギラギラとした視線。

 正直、オスカルは彼のことは苦手ではあったがこのタイミングでは重要な人物だった。


「ヴァッレ・ダオスタ公」

「ブハハハハ! 捕虜収容所というのも暇なものでしてな。そろそろ出してもらえるんですかな?」


 通信相手はかつて帝国を引っ掻き回した、旧六大選帝公の1人、ヴァッレ・ダオスタ公爵だった。


 

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