【増資】ヘルメス・トレーディング社の拡大

 元・海賊惑星ランバリヨンは本格的工事の真っ際中だった。

 涼井が惑星ゼウスに戻っている間も宇宙港の工事は進んでいた。

 ヘルメス・トレーディングが雇っている傭兵艦隊マトラーリャの一部、200隻ほどが常時警備につき、海賊たちも寄港地としてランバリヨンに戻りはじめていた。


 それらを目当てに飲食店や、密輸業者も戻ってきていた。


 その中で辺境宙域では謎の海賊集団がヴァイツェン宙域とピルスナー宙域が占領されたことや、ロストフ連邦の正規艦隊が侵入し、銀河商事と一体となって惑星モルトが占領されたことなどが話題になっていた。


 モルトでの戦闘に参加した武装短艇乗りの生き残りの中でランバリヨンまで次の仕事を求めてやってくる者たちもいたのだった。


 銀河商事は公式発表としてはあくまでモルト宙域の反社会的組織による暴動を鎮圧するためとしていたが、銀河商事による搾取に苦しむ開拓民や海賊たちで、信じた者はいなかった。


 そんな折に、涼井が率いる100隻ほどの艦艇がランバリヨンに帰ってきた。辺縁部で合流した海賊ローランの船団が先導している。


 ちょうど保養地としての地下型のリゾートの建設がだいたい終わりつつある時期だった。


「提督!」

 ロブ中佐、リリヤが整備されたばかりの宇宙港で涼井を出迎える。涼井と一行を乗せた短艇が衛星軌道から降下し高強度炭素タイルが敷き詰められたランディングポイントに着地した。


「留守中、ご苦労」

 涼井は敬礼しにやっと笑ってタラップを降りた。

 続いてぞろぞろと薄汚いコートを羽織ったロアルド提督やアリソン、ロビンソン涼中将、弱々しい足取りでマイルズ大佐、ロッテーシャ、バークなどの一行が降りてきた。


「おぉーこれが海賊惑星ランバリヨンですか」

 快活な声をあげたのはササキ少将。


「いやはや懐かしい」

 ニヤニヤと笑った豪快な髭の男はリアン准将。以前、寄せ集めの艦隊を海賊的な戦術で指揮し、ノートン大将と共に戦った男だ。


「ふん! なかなか面白いところのようだが帝国と比べるとまだまだではないか」文句を言いながらも興味深そうに周囲を見回しているのはリシャール公だ。


 その後からもぞろぞろと士官や下士官たちが降りてくる。


「あれ、なにやら暑苦しい上にむさ苦しくて薄汚い一行ですね、それに何ですかあの歌劇団の俳優みたいな人は」

「大尉、シーッシーッ」

 ロブ中佐が顔を全く動かさずにリリヤの暴言を静止する。

 

「メスデンの船団がありったけの工作船をつれてきたので辺縁部で合流してね。順次、偽装がすんだ艦艇からこちらに送っている。ヴァイツェンやピルスナーも偽装船団でもう陥落させた」

「動きが早いですな」とロブ中佐。

「銀河商事と傭兵艦隊ヤドヴィガを追っ払ったら諸手をあげて歓迎してくれたよ」

 涼井がメガネの位置を直す。リリヤの突き刺さるような視線を感じるが、気のせいだろう。

「表向きは新しい海賊勢力が手を組んだ形だが、これで我々は海賊惑星ランバリヨンに加え、ヴァイツェン、ピルスナーの各宙域を抑えた。共和国と帝国のアルテミス宙域からこちらへのルートは遮断したようなものだ」

「銀河商事がすぐに反撃してきませんか」ロブ中佐が疑念を口にした。

「連中はロストフ連邦とモルトを鎮圧したばかりだろう。すぐには動けないと思うが、どうだろうか」

「確かにまたモルトの残党が暴れていて鎮圧には苦労しているようですな……」


「それはさておきランバリヨンの改装もだいぶ進んでいるようだな、ありがとう、助かるよ」

 ロブ中佐は涼井の褒め言葉に破顔する。


 何もかも人手不足な中で、ロブ中佐やリリヤは様々な手配に追われていたのだった。宇宙艦隊の工作資金が元手だったため資金はたっぷりあったが、なにぶんにも開拓宙域で手に入る資材や工作機械などは規格がバラバラだったり古かったり、そもそも偽物も結構あったりと大変だったのだ。


 海賊たちの協力で、密輸業者がむしろ高品質なものを納品しはじめたおかげでだいぶ仕事は楽になった。さらに噂を聞きつけた建設などの技術をもった開拓民が移住しはじめ、ずいぶんと工事は進んだのだった。


 さっそくこうした整理が得意なバークが共和国脱出組への宿舎の割り当て、艦艇の停泊場所の決定、補給の手配などを始めた。艦艇を動かす将兵もあわせればかなりの人数だ。ランバリヨン側にも受け入れの体制が完璧に整っているわけではないのでよりハードルは高かった。

 

 さらに民生対策も行う必要があった。

 例えばヴァイツェン宙域などには採掘業者が数多くいるのだが、それらをかなり酷い価格とはいえ銀河商事は買い取ったり輸送の手配をしていた。それで僅かとはいえ賃金を得ていた業者を飢えさせるわけにもいかなかった。


 涼井は暫定的に軍政に近い形ではあったが統治機構を作る必要があった。

 それは以下のような組織になった。


 ヘルメス・トレーディング社

 代表 サカモト(涼井)

 秘書 / 副官 リリヤ大尉

 社内警備担当 ロッテーシャ大尉

 経営企画 / 執行役員 兼ペルセウス社代表 グレッグ


 内務部門統括 / 執行役員 バーク少将

 軍事防衛部門統括 ロアルド大将、その他アリソン、ロビンソン中将

 民生部門統括 リシャール中将(暫定)/ササキ少将

 運輸部門統括 リアン准将 / グレッグ(兼務)

 資料調査部門統括 ロブ中佐


 それぞれにオフィスやスタッフを割り当てる。

 リシャールも長年の暇のために力が余っていたのか、ササキ少将を手下にして、思ったよりも素直に勢力的に動き始めた。もともと開拓宙域のような混沌とした場所での仕事は性に合っているのかもしれない。


「さて……表向きの体制は整ってきたが、後は資本と戦力だな」

 涼井はリアン准将とグレッグを呼んで何やら指示を下し始めたのだった。

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