Re:【第一週】開拓宙域安全保障ビジネス
涼井たちのヘルメス・トレーディング社の提供する護衛サブスクリプションは格安という程ではなかったが実効性はあったため、かなり開拓宙域で売れはじめていた。
逆に銀河商事に納入する輸送船団などはよく海賊に襲われた。
海賊の中には銀河商事の搾取に苦しんだ元・開拓民が数多くいたため攻撃は積極的に行われ、輸送船が略奪されることが多くなってきた。
銀河商事は傭兵艦隊ヤドヴィガを使って護衛させたが、開拓宙域全体ではどうしても密度が薄くなり、護衛のない船団が被害を出すようになってきた。
一方、仕返しにと銀河商事側についた海賊も略奪行為をしようとしたが、海賊の水先案内人は襲われそうなタイミング、場所をよく分かっているのもあってルート選定が上手く、なかなか功を奏さなかった。
対海賊プロジェクトのリーダーとなったトムソンは焦っていた。
結局は銀河商事代表のロンバルディアの鶴の一声で保険金ビジネス自体は消滅した。しかし傭兵艦隊ヤドヴィガをどう使っても海賊たちの尻尾はなかなか捕まえられず、また海賊惑星ランバリヨンのようなわかりやすい拠点もなかなか存在しないようだった。
惑星ドゥンケルの環境もトムソンの好みではなかった。
ある程度、人間が生活できるように環境が改善されていたヴァイツェンと異なり、ここはダイヤモンドなどの採掘のために惑星全体は居住可能なように改造されておらず、半地中に建設された艦隊の拠点の中に居住棟が存在するといった形式になっており、最低限の店などはあったが、まるで満足のいく空間ではなかった。
ロンバルディアはどういうわけか惑星ミードではなく、ここ惑星ドゥンケルにほぼ常駐しており、そのせいで役員の一部や総務、経営企画などの部門も惑星ドゥンケルに拠点を移しており、彼らの視線を常に感じていることもストレスだった。
二等船団長扱いで支社長の中でも上級の待遇を得ており実際に昇給もしたのだが、与えられた半オープンスペースのオフィスや、子会社である民間軍事企業のヤドヴィガから出向してきている対海賊プロジェクトのチームメンバーともうまく行っていなかった。
居住旨の中にあるオフィス区画、そのまた一角の半オープンスペースにはトムソンをはじめ、10名ほどのスタッフが机を並べていた。
トムソンは何とか海賊船を拿捕・撃沈することにこだわり投影型のホワイトボードに色々と図を書いていたが、時折ストレスに追い詰められていることもあって部下を怒鳴ったりしていた。
傭兵艦隊出身者は元軍人も多く、黙って聞いている者も多かったが評判はさんざんだった。
ちょうどトムソンが成果が上がらないことをなじっている時に、彼の背後から冷徹な声が響いてきた。
「私もその話を聞きたいな」
銀河商事代表のロンバルディアだった。
ロンバルディアはちょうど別の区画から帰ってきたところで通りがかったようだった。
「いや……これは……」
「どうしたのかね?」
「……すみません……」
ロンバルディアはじっとトムソンの目を見つめた。
「君もずいぶんと熱意がある男だ。この事業にも思い入れがあるのだろう。その気持ちはよく分かる」
「はっ……」
「しかし伝え方を考慮しなければ、君の情熱は伝わらないだろう。おそらく与えられた権限や資材に不足があったようだな。君が必要とする分だけ後で申請してくれ。邪魔してすまなかった」
ロンバルディアは配慮のある言い方をした上で、さっとその場を去っていった。
冷静になったトムソンは改めて自身の計画の見直しを始めた。
しかし、その場を離れてオフィスに向かうロンバルディアは皮肉っぽく口元をゆがめた。
「トムソンは対海賊には向かない。ヘルメス・トレーディングなる新参企業が今勢力を伸ばしつつあるという。この僅かな日数でだ。少々強引だがトムソンを捨て駒にして威力偵察をしてやろう……」
彼は邪悪な笑顔を浮かべた。
決して秘書や部下には見せない表情だ。赤色巨星の光が窓ごしに入り、彼の表情に悪魔めいた陰影をつけていた。
「ちょうどよい機会だ。完成したばかりのギャラクシー級戦艦を試す良い機会だ。帝国でもなく共和国でもない。新たな勢力が開拓宙息を支配する。奴らは知らない。開拓宙域は連中が思っているよりも遥かに可能性に満ちているのだ」
ロンバルディアは自身のオフィスに到着すると、机上の通信ボタンを押した。
秘書の顔が空間に浮かび上がる。
「ヴォストーク元帥に繋げ。そろそろ時期が来ると。ギャラクシー級の出番だとな」
「かしこまりました」
ロンバルティアは棚にしまっていたブランデーを取り出し、その琥珀色の液体をグラスに注ぐと一気に飲み干した。
「私だけの帝国を作り上げてやる。そのための金は十分にあるのだ。開拓民から搾取した十分な資本がな」
その数秒後にロストフ連邦のヴォストーク元帥の像が空中に現れた。
ロンバルディアは彼自身の計画を元帥に話し始めたのだった。
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