Re:Re:【第一週】開拓宙域安全保障ビジネス
戦艦アンダストラはギャラクシー級戦艦の1番艦だ。
全長650mもあり、涼井が量産した生産性重視の戦艦アテナ級の1.5倍近い大きさで、共和国の旧式艦ゼウス級に匹敵する大きさだった。
それは惑星ドゥンケルのドックに収容されていた。
それが今、新型の大型リアクト機関をふかしてゆっくりと惑星ドゥンケルの惑星軌道を離れていった。
これまで最大規模でも巡洋艦級の大きさの艦しか見たことがない銀河商事のトムソンには、それは圧倒的に巨大なフネに見えていた。流線形で艦体の形状も美しく、素材などにも様々な新機軸が盛り込まれていた。
居住性も重視され傭兵艦隊ヤドヴィガの
これらは共和国に制圧されたフォックス・クレメンス社の残党が銀河商事に雇用されることによって建造された密造戦艦だった。惑星ドゥンケルはダイヤモンドや六方晶ダイヤモンドの採掘だけではなく独自の艦艇の建造拠点にもなりつつあった。
それを運用するのは民間軍事企業としては最大の勢力を持つ傭兵艦隊ヤドヴィガだ。艦隊数は全体で18000隻に達する。もちろんミリタリー・グレードの艦艇はその内の1割程度に過ぎなかったが、軍事力の空白地帯である開拓宙域では最大最強の勢力だった。
トムソンは今、1600隻ほどの船艇を与えられ、その旗艦としてこの戦艦アンダストラを与えられたのだった。彼は興奮していた。過去最大級の船団を与えられたことは彼が重用されていることを意味すると考えた。
与えられた任務は先日送り出した輸送船団を襲うであろう海賊の撃退だ。
その輸送船団は銀河商事が直接雇用している輸送船会社で、大量の資材を積んでいた。そしてかなり大量の六方晶ダイヤモンドを積んでいて、そのことを開拓宙域のニュースネットワークに取材の形で配信していた。
海賊が襲う可能性の高い好餌だ。
その船団には護衛の武装商船が数隻ついてはいたが、300隻もの船団だ。
それなりの規模の海賊が襲いかかってくるとトムソンは考えていた。
輸送船団のとるルートはトムソンは完全に把握していた。
輸送船団自体は囮ではあったが、本物の物資を積んだ本物の輸送船だ。そして自らが囮であることは、開拓民出身である輸送船団のリーダーは知らされていなかった。
鈍重な輸送船団の背後、海賊船の積むセンサーであればぎりぎり探知されない距離を保ちながら輸送船団にトムソンの船団は追従していた。前哨船団はセンサー類が優秀で高速な船を中心に、本隊はミリタリー・グレードの艦艇を多めに配置し、後衛は予備の船を集めていた。
「重力子感知! 50隻ほどの船が高速で輸送船団に接近中! おそらく海賊です」
ヤドヴィガのオペレーターが声をあげる。
トムソンはほくそ笑んだ。かかった。
「よーし襲っちまうぞ!」
その海賊船団はバルバドス海賊団といった。
開拓宙域ではそこそこの勢力で、海賊惑星ランバリヨンに顔を出していたこともある。深部で活動することが増えていたが、定期的に銀河商事関係の輸送船団を襲っていた。
バルバドス海賊団50隻は猛然と輸送船団に襲い掛かった。
圧倒的な差に武装商船はあわてて逃げ散る。
海賊船は民間船を改装しリアクト機関を強化、違法の長砲身40mm機関砲を装備していた。景気づけに光弾が武装商船を1隻破壊する。
さらに輸送船団の先頭の数隻に光弾を撃ち込む。
機関部付近に命中団を受けた輸送船は推進力を失い慣性でふらふらとさまよいだす。
海賊船団は慣れた動きで輸送船団と相対速度をあわせてリーダーらしき船にも横づけした。これでリーダー船の船長を拘束し停船……といっても慣性のため停止できるわけではないが加速はできなくなる状態にすれば概ね海賊行為は完了だ。あとは物資を持てるだけ略奪して逃げ去るのみだ。
いつもの流れであれば。
バルバドス海賊船団のお頭は自ら拳銃を持ってリーダー船に乗り込んでいた。
それゆえに気付かなかった。
海賊船が1隻、高速で飛来する質量弾を感知した。
オペレーターが叫び声をあげる。
しかしその声は無駄だった。
ミリタリー・グレードの質量弾は海賊船を1隻貫き破壊し、わずかに弾道が逸れたもののそのまま海賊団の旗艦に突き刺さった。重要部分が完全に破壊されリアクト機関が爆発四散する。その白色の爆発は輸送船団のリーダー船も巻き込み、両方とも宇宙の塵と消えた。
「おっと守るはずの輸送船を壊してしまったな」
トムソンが笑い声をあげる。
それをヤドヴィガのオペレーターは嫌そうな顔で見つめた。
「続けてどんどん撃て。海賊船を質量弾で破壊するんだ」
トムソンが命令を下す。
船団長の命令はいかなる場合でも絶対だ。
ヤドヴィガの戦艦アンダストラはその203mm長砲身砲から質量弾を撃ち放った。
前衛に割って入った本隊の巡洋艦も続けて攻撃する。
それらは海賊船に次々に突き刺さったが、ついでに軍事用よりも小柄な輸送船を巻き込んでいった。
「よーしこれらは全部海賊船団がやったことだ。我々はそれを助けに現れたが残念なことになった。それでいこう」
トムソンは次々に破壊される輸送船を前に歪な笑顔を隠さなかった。
その表情の陰影は、戦艦アンダストラの艦橋に居たオペレーター達には、まるで正気のものではないかのように見えたのだった。
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