Re:Re:【緊急】傭兵艦隊ヤドヴィガが侵略してきます

 暗礁宙域を縦列で抜けようとしていた600隻の傭兵艦隊ヤドヴィガの船団は側背と前方から猛烈な射撃を受けていた。

 何とか暗礁宙域を突破した船団は、しかし暗礁宙域出口を旋回するように機動しながら射撃を浴びせかけてくる海賊船団に一方的に攻撃されていた。


「よーし! どんどん撃て!」

 オガサが操舵室で叫ぶ。

「こっちも撃ちまくれ! いやそれにしてもサカモトさんの船の火器管制は見事だな」とあごひげをしごきながらメスデンが言う。


 この海賊の大船団は複数の海賊船団から構成されていたが、大きく5つほどの集団に分けられ、それぞれの集団の中に涼井の艦艇5隻が1隻づつ混じっており、その5隻が火力を指向する先を指示していたのだった。


――3日前、海賊星ランバリヨンは逃げる者、逃げる者を守ろうとする者、迎え撃とうとする者でごったがえしていた。メスデンからおおよその事情を聴いた涼井は、ペルセウス・トレーディング社が持っている艦艇は全て軍用品ミリタリーグレードであることを告げ、協力を申し出たのだった。


「げ、元帥……共和国元帥閣下ともあろうお方がよりによって海賊に協力するなど……」

 話を聞いていたロブ中佐は後程ドーントレーダーの会議室で目を白黒させた。

 

「しかしアイラやローランに対する尋問の結果、不殺とまでは言わないまでも、いわゆるまともな海賊たちは実質的に開拓民の側に立った一種の義勇兵のような状態になっていることは分かったはずだ。彼女たちのフネの記録でも裏はとれている」

「しかし……」

 

 涼井は眼鏡の位置をくぃっと直した。


「ロブ中佐、開拓宙域は辺縁部でもかなりの広さがある。そしてどこの国のものでもない。つまりどこの国の法律が課せられるわけでもない。その中で共和国の法律をもって犯罪か犯罪でないかを断ずることなどできないはずだ」

「それはそうですが……」

「少なくともある種の不文律の下で行動している海賊たちよりも、銀河商事のほうが信用できない。現にトムソンなどもかなり怪しかったはずだ」

「確かに……」


 惑星ヴァイツェンで護衛船団に加わるまでの間、憲兵たちはかなり丹念な情報収集をした。その結果、銀河商事はかなりグレーな商売をやっていること、少なくとも一部の過激な海賊と繋がりがあることは断片的にではあるが浮かび上がってきていたのだった。


「銀河商事が雇用している傭兵艦隊ヤドヴィガの動向も怪しい。いま海賊たちに協力して彼らを拿捕して情報を手に入れることにはかなりの価値があると個人的には・・・・・考えている……ロブ中佐の見解を聞きたい」

「うーむ……ちょっと考えさせてください」

 ロブ中佐は腕組みをして考え込んだ。


 もちろん涼井は共和国の元帥の階級にあり、宇宙艦隊司令長官という立場からロブ中佐に命令を下すことは容易だ。しかしジャパニーズサラリーマンでもあった涼井はできるだけ相談という形をとり、追い詰めすぎないように時間の余裕を与え、必要に応じて懇々と説得をするというスタイルを貫いていた。


 結果、ロブ中佐も納得した。

 確かに開拓宙域において今後の情報ということを考えると、銀河商事と組むか海賊たち、あるいは別の勢力と組むかという選択肢は存在する。


 しかし銀河商事は帝国を由来とする商社であるし、現在は開拓宙域でややグレーな戦力を持っていることも分かってきていた。

 そうなれば海賊たちと組むというのは、かつて涼井のいる地球でも紛争地帯の民兵と組むのと同じ感覚であり、普通のことではあった。特に涼井の地球では海軍がほぼ海賊という国は実際に歴史上無数にあった。


 3日という日数をかけて涼井はどんなに小規模な海賊でも自ら頭目と会い話をした。最初は胡散臭そうに見られていたが、アイラとローランも協力を条件に捕虜から解放され、積極的に説得に参加したために話は比較的早かった。


 そこでまず戦場になるリスクがあるため、海賊星ランバリヨンの酒場、夜のクラブ、売春宿などの従業員や、戦えない者たちを優先的に逃がす計画を立てた。

 そこはこうした整理に慣れた共和国の士官・下士官を出して脱出計画を遂行させた。


 一方で戦うための戦力については、武器弾薬を整え、海賊、密輸商人、武器商人など戦えるフネを集め、陣形を組んだり複雑な作戦をとる余裕はないとみて、暗礁宙域のあたりで"適当に"攻撃することにしたのだった。


 複雑な作戦はできないがゆえに大小数十の海賊の集まりを5つの集団にわけ、共和国の艦艇が先頭に立つ。その艦艇にとにかくついていく。

 200隻ほどは暗礁宙域の、特に重力を感知しづらい小惑星帯などに潜みヤドヴィガの船団がおおむね通り過ぎたら各個に撃つ。

 それ以外の600隻ほどの海賊船は5つの集団に分かれ、共和国艦艇に追随しつつ、指示された方向に闇雲に撃つ、ということにした。


 非常に単純だったが、これ以上複雑なことはできないこと、ヤドヴィガはまさか海賊船がある程度統制された行動をとってくるのは予想外だったこと、そしてろくなセンサーがなくとも共和国の艦艇の指示に従ってだいたいの方向に撃てばそれなりに脅威になってしまうこと、これらが全て状況的な奇襲となった。


 威力は低めの機関砲などでの攻撃が中心ではあったが、ヤドヴィガの船団がようやく反撃らしきものを始めた頃には数十隻の船艇を失っていたのだった。


 

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