Re:Re:Re:【緊急】傭兵艦隊ヤドヴィガが侵略してきます
40mm機関砲から発射される光弾が雨霰と降り注いだ。
ヤドヴィガの船団は何とか陣形を立て直そうともがく。
その間に、装甲が分厚く、出力の大きな障壁を持っているだけに光弾ではなかなか落ちないはずの駆逐艦級が数隻、轟沈したのを銀河商事のトムソンは知った。
「馬鹿な! たかだか海賊船に!」
トムソンはあまりのショックで思わず床に座り込んだ。
ヤドヴィガの三等船団長はそれを見て勝手に指揮を執りはじめる。
彼の指示でようやくヤドヴィガは統制を取り戻し、何とか集団で暗礁宙域を抜けた。
「包囲網を食い破るぞ!」
無事な船艇は舳先を揃え、後背からの攻撃を無視して海賊船の群の一画に突入しようとした。
しかし。
その方向にいた海賊船団はさっと隊形を崩してばらばらの方向に逃げ去りはじめた。
「あれっ?」
後退や撤退ではなく、本当に算を乱してばらばらに遁走している。
「よーしお前ら逃げろ逃げろ! 勝てそうにない相手から逃げるのは得意だろ!」
操舵室にどっかりと座って麦酒を飲みながら海賊のメスデンが怒鳴る。
海賊船はそれぞれの船の特性にしたがって思う存分逃げる。
ヤドヴィガ側があっけにとられている間に、別の方向の海賊船団が光弾を浴びせかけてきた。
慌てて陣形を転換してそちらに砲撃を開始しようとすると、そちら側の海賊船団も逃げ始める。
ヤドヴィガの船団長はすっかり困惑と混乱が同居したような表情で立ち尽くしていた。予想外の行動をされたときに固まってしまうことがある、この世界の軍人――ヤドヴィガの船団長は正確にはあくまで民間軍事会社の社員だが――としてはありがちだった。
それでもヤドヴィガの船艇の一部は隊形を整えて砲撃をし、海賊船を数隻討ち取ったが、何しろ少し本格的な攻撃をしようとすると蜘蛛の子を散らすように海賊船は逃げてしまうのでなかなか捉えづらかった。
ヤドヴィガの船団も多くは商船構造の船艇で、軍艦構造は僅かしかいない。
統制がとれた重武装の船団というだけで開拓宙域では十分な存在だったが、正規軍の艦隊と違って船ごとの性能差もあり、こういう戦いになってしまうとその組織力を発揮しづらくなってしまっていた。
そうこうしているうちに逃げ散った海賊船が別の方向で徒党を組み、光弾を浴びせてくる。そして時折思い出したように、駆逐艦や巡洋艦を狙って質量弾が飛んでくるのだった。
また1隻、巡洋艦が突然の質量弾による攻撃で複数個所に被弾し、後部機関部が完全に破壊され、リアクト機関の暴走による青白い光を四方八方に煌めかせながら誘爆し、四散した。
「どうやらうまくいったな」
涼井の乗る武装商船に偽装したドーントレーダーも戦場に居た。
涼井は提督席に座り戦況を眺めた。
今回の作戦は単純だった。
海賊船団は一部が暗礁宙域で側背から奇襲をかける。
残りの集団は、共和国の駆逐艦に従って行動する。
AからEまでの集団にわけ、暗礁宙域の出口を中心に旋回するようにして砲撃を行う。しかしいざ接近戦になったり砲撃戦になると、軍隊ではないので海賊船団は押し負けるだろうと涼井は考えていた。
そこでヤドヴィガがある程度まとまった反撃をしてきたら、逃げ散るようにしていた。
仮にAの集団が砲撃されればAは思う存分逃げ散る。
もしもヤドヴィガが分散して攻撃してきても逃げ散る。
逃げ散った後に、各集団の要となっている共和国の艦艇の元に再度集合する。
そしてまた共和国艦艇の指示する方向に向かって攻撃する。
偵察艦や哨戒艇とはいえ、それなりの口径の質量弾を積んでいるので、うまく攻撃を集中すれば巡洋艦も落とすことができる。共和国の艦艇はお互いに連携して相手を狙い撃ちにした。降り注ぐ海賊船団の光弾はうまい煙幕になった。
こうしてちくちくと攻撃しているうちにヤドヴィガの戦力はどんどん低下し、ついに破壊された僚艦を見捨てて後退を始めた。
海賊たちはそれを追いたがったが、涼井が頼み込んでそれを押しとどめた。
腐っても準軍事組織に近いヤドヴィガは後退しながらでも陣形を整え、反撃してくる可能性があったからだ。
こうした海賊惑星ランバリヨンにおける小規模な会戦は海賊たちの勝利で終わったのだった。
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