Re:【緊急】傭兵艦隊ヤドヴィガが侵略してきます
傭兵艦隊ヤドヴィガ。
開拓宙域で勢力を伸ばす老舗の商社である銀河商事が治安維持のために雇っている民間軍事会社。
民間ではあるものの沿岸警備隊クラスの武装した船艇に加え、一部は軍艦構造の艦艇も持つ強力な軍事力を持っていた。
かつて涼井達が制圧したフォックス・クレメンス社も2000隻前後の艦艇を所有していたが、傭兵艦隊ヤドヴィガはそれよりも多い。
現在は完全に銀河商事の子会社となっており、開拓宙域全体の治安維持につとめている……という触れ込みである。
銀河商事ヴァイツェン支社のトムソンは提督席にふんぞり帰ってメインモニタに映し出された立体的な宇宙空間を眺めていた。
海賊惑星ランバリヨンに向けて進撃している艦隊は600隻。
銀河商事の支社長であるトムソンはヤドヴィガの三等船団長として待遇されていた。
「ヴァイツェン鉱山の連中が予定の地点に現れないからな……何か手柄を作っておかねば」
金髪を短く刈り込んで清潔感を出したトムソンは爪を噛みながら独り言をつぶやいた。
漆黒の塗装を施した海賊船が数隻ほど水先案内をつとめている。
黒旗海賊団だ。
その青白く光る航跡を見ながらトムソンは意地の悪い微笑を浮かべた。
黒旗海賊団は容赦のない凶悪な海賊団だ。トムソンのヴァイツェン支社が、直接ではないが実質的に契約を結んでいる。黒旗海賊団に襲われた開拓民や輸送船団は文字通り宇宙の塵となる。
そして黒旗海賊団が暴れれば治安が悪くなり、ヴァイツェン支社が独自に販売している割高の保険が飛ぶように売れるというわけだった。
しかしその保険を行使する者はいない。
保険はあくまで開拓宙域に単身やってきた開拓民や貿易商などに売りつける。
その開拓民や貿易商で実際に黒旗海賊団に襲われて被害が出たとしても、契約者は宇宙の塵になっているので誰も保険適用を申請しない。
この間会ったペルセウス・トレーディングのように本社が外国の場合は、保険を申請してくる可能性があるのでそもそも勧めないのだ。
もちろん普通の海賊に襲われて被害が出れば素直に払うが、今のところ損害保険事業のコンバインド・レシオは非常に好調だった。
そして社長自ら護衛船団を指揮して出発したジャクソンのヴァイツェンン・マイニング社も標的だった。ヴァイツェンの入管とも提携しているのでいつどの船がどこに向かうのかは全て分かる。
保険は都度都度の場合もあるので、その時は規模や輸送物まで分かる。
それを襲って得た物資を黒旗海賊団と折半すれば、保険料とあわせて二度美味しい。それがトムソンが開拓宙域の辺縁部で作り上げた黒い収益構造だったのだった。
しかし何故かジャクソンは、黒旗海賊団が待ち受けていた航路に現れなかった。探らせたところそこから離れた座標で僅かな戦闘の痕跡はあったが、ジャクソンはいなくなっていた。
黒旗海賊団の密告で海賊惑星ランバリヨンの存在と位置は知っていたが、そこに逃げ込んだのではとトムソンは考えた。
もしかすると黒旗海賊団との関係も露見したのかもしれない。ならば黒旗海賊団に案内させ、ランバリヨンごと制圧すれば手柄になる。そして余計な海賊勢力を潰しておけば、よりトムソン達がこの開拓宙域の辺縁部をコントロールしやすくなる。そう思ったのだった。
トムソン率いる船団は暗礁宙域を抜けつつあった。
水先案内をつとめる黒旗海賊団の海賊船が数隻飛び出していく。
ここから減速していき惑星軌道上を制圧するつもりだった。
そして暗礁宙域を抜けた黒旗海賊団が全て爆発した。
「何だと!?」
何が起こったか分からずトムソンは目を見開いた。
次の瞬間。
「攻撃を受けています! 多数の高速移動する重力子を感知!」ヤドヴィガのオペレーターが叫んだ。
その言葉が終わらないうちに船団の側背から猛烈な射撃を受けた。
次々に光線が撃ち込まれる。
「何だ! 何が起こっているんだ!?」
トムソンが絶叫する。
トムソンが支持も出せないうちに無数の小口径から中口径くらいの光線が船団に突き刺さる。さすがに巡洋艦や駆逐艦クラスの
破片がばらまかれる。
図体の大きな商船の船橋が吹き飛び、トムソンの乗る巡洋艦の鼻先をかすめた。
「いかん! とにかく前進しろ!」
業を煮やしたヤドヴィガの三等船団長が命令をくだすとどうにかこうにかヤドヴィガの艦隊は前進を始めた。
暗礁宙域を抜けると、今度は前からも攻撃を受けた。
「てっ敵です! 海賊船多数!」
「どういうことだ!?」
メインモニタには多数の輝点が映し出された。
そこには暗礁宙域の出口を防ぐように大きく旋回機動しながら攻撃を浴びせかけてくる多数の海賊船が表示されていたのだった。
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