【緊急】傭兵艦隊ヤドヴィガが侵略してきます

 意外にも共和国艦艇そのままの姿で海賊惑星ランバリヨンに着陸しても誰も注意を向ける様子がなかった。よくよく駐機している艦艇を見ると、旧式のアルファ帝国軍艦艇を改造したもの、というような海賊船も結構あり、そもそもそういう風土なのだろう。


 大気は十分にあるようなので予備の気密服以外は持たずに涼井、ロッテーシャ、ロブ中佐の3人、そしてロブ中佐が油断なく監視している前提だが、海賊のアイラ、と護衛の陸戦隊員数名が外に出た。副官のリリヤは念のため残りの憲兵隊員や陸戦隊員と留守番だ。いつでも飛び出せるように武装は整えている。


 いわゆる動く歩道などがなく、トラムに乗って移動するところは惑星ヴァイツェンなどと同じだった。しかし宇宙港の入管につくと妙に騒がしい雰囲気だった。

 ばたばたと銃器火器らしきものを抱えて走っている者などもいる。


 その中の1人に顔見知りがいたのかアイラが呼び止めた。

「おーい、オガサじゃないか?」

 体格が良く鉱山作業服の上から飾りのついた革のコートを羽織った男が振り向く。40代半ばくらいだろうか。左目には眼帯をしており、無精ひげがいかにも海賊だ。共和国なら各惑星の入管で尋問されてしまうだろう。


「お、アイラの姉御じゃねぇですか、そちらさんたちは新しいお仲間で?」

 オガサと呼ばれた海賊はアイラには敬意がこもった視線を向け、涼井たちにはじろじろと遠慮のない視線を送ってきた。

「まぁそんなもんさね、どうしたんだいバタバタと」

「ああそうだ、それどこじゃないんですよ、どうやら例の銀河商事の連中にこの惑星の座標がバレたみたいで傭兵艦隊ヤドヴィガがこっちに向かってるらしいんですよ」

「そりゃ大変だね」アイラの顔色が変わる。


「アイラの姉御がいるなら心強い、ちょっと寄合に顔出してくれませんかね? 話は遠しとくんで。オレたちはとりあえず女子供とか、武装のない開拓船なんかを先に逃がしてるんで」

「わかった」アイラはちらりとこちらを見る。「いいだろ?」

 涼井は無言で頷く。


「姉御、寄合はいつもの酒場の最上階でさ。オレはちょっと急ぐんで、またあとで姉御!」とオガサは走って行ってしまった。

 

 周囲を見回すと、海賊たちは皆血相を変えている。

 そんな中、特に疑われることなく涼井たちが着陸できたのは2隻とわずかな数だったからだろうか。


「いつもの酒場ってのはこっちさ」

 入管と書かれたブースはあったが、そこを素通りしてアイラは宇宙港に隣接した背の低い建物に案内する。どこか帝国風の装飾の建物で看板には「踊る仔牛亭」と書かれていた。

 入口では拳銃をベルトに差した海賊風の男が睨みをきかせていたが、アイラの顔をみると笑顔になりすぐに通してくれた。


 アイラとローランはそれなりに海賊星では”顔”として通っているのだろう。

 すぐに二階に通され、奥の個室に入ると長テーブルに海賊たちが深刻そうな表情で座っているのが見えた。


 彼らがこちらに気付くと口々に「レゼダのアイラじゃねぇか」「ローランは今日はいねぇのかぁ?」のように話しかけてくる。


 その中の1人、金髪に丁寧にヒゲを整えた初老の男が涼井を値踏みするような目つきで見た。

「こちらさんは?」

「貿易商のサカモトさんだよ。商売したいってんで武装商船団を案内してたのさ」とアイラ。こちらにぱちりとウィンクする。「あの金髪の男はランバリヨンの首長で海賊のメスデンさ」と続けた。


「初めまして、ペルセウス・トレーディングのサカモトです」と涼井は折り目正しい御辞儀をしながら名刺を配る。


 先ほどのメスデンが露骨な警戒心を顕わにする。

「その感じ、まさか銀河商事の社員とかじゃねぇだろうな」

「違いますよ、ただライバル企業の者です……とだけ名乗っておきましょうか」


「おっペルセウス・トレーディングじゃねぇか。グレッグのおっさん生きてたのか」海賊の1人が驚いたように声をあげた。

「もちろん元気です。惑星ペルセウスを発つ時に一緒に飲みましたよ」と涼井。

 内心、老舗の貿易会社を買収したことは正解だったと思っていた。


「グレッグには随分いろんなもの仕入れてもらったからなぁ。共和国の弾薬横流しとかでだいぶ助けてもらったぜ。おいメスデン、こいつらは信用できるよ。"こっち側"だ」その一言でメスデンの表情はだいぶ和らいだ。反対にロブ中佐が渋い顔をしている。


 涼井はペルセウス・トレーディング社の悪事の暴露に対しても表情を変えず、笑顔を浮かべて海賊たちの輪に入るようにした。


「で、ヤドヴィガの連中がやってくるんだって?」

 アイラが言う。

「そのようだな。数百隻なのか、数千隻なのか……」メスデンが口を開く。

「いつ来るんだ?」


 メスデンはテーブルに置かれたジョッキを手に取り飲み干した。

 酒臭い息を吐きながら言う。

「もう3日ってとこだ」


 銀河商事の傭兵艦隊ヤドヴィガが、もう僅かの距離にまで迫っていたのだった。

 



 

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