Re:【社史】開拓宙域の銀河商事

 涼井一行は共和国艦艇の偽装船隔の回収を終わったが、さすがに取り付けることはできないため、偽装船隔をどこかでくっつける必要があった。スピード優先で、補給船や輸送船を連れてこなかったのは手落ちだったかもしれない。

 とはいえ共和国の所属を露骨にしたまま移動するわけにもいかなかった。


「アンタたち共和国の兵隊なんだって? なら偽装とかそういうのやってくれるとこ知ってるよ。海賊の楽園、"海賊星ランバリヨン"さ」と言い出したのは海賊のアイラだった。ちょうど昼時の尋問の最中で、アイラの先祖たちの壮大な海賊史の話にロブ中佐が根気よく付き合っている時だった。


 話を聞いてみると、どうやら海賊たちが船のメンテナンスや武器弾薬の調達、乗組員の休養のための惑星があるらしかった。


「海賊以外には秘密なんだけどね! 特別だよ」

 と胸を張るアイラ。

 どことなくロブ中佐が疲れた表情をしていた気もするが、海賊のための惑星という話に涼井は興味を惹かれた。


 その惑星では海賊に限らず、あぶれた者たちも集まる無法地帯ということで、逆にいうと帝国だろうが共和国だろうが、正規の艦艇であったとしても誰も気にしないとのことだった。というよりも船などの識別や登録の確認などもしないそうだ。


 軍需工場から横流しされた艦艇も流通していることがあるらしく、部品や質量弾の正規品まで売っているそうだった。


「それは面白いな」

 涼井がつぶやく。


「もちろん未使用の横流し品は高いよ! だけど戦闘で破壊された船とかそういうのは安く売ってることもあるよ。不発弾とかも多いけどね」アイラがにっと笑う。


 海賊星ランバリヨン。

 その惑星は何と、いわゆる属する恒星をもたない浮遊惑星とのことだった。

 浮遊惑星ではあるが、銀河に対して直接公転しており、その座標がおおむね開拓宙域の銀河に対する公転と一致しているため、位置上は安定しているとのことだった。


 涼井一行はジャクソンの武装商戦と輸送船に3隻の共和国艦艇を残して護衛とし、1隻だけ艦艇を伴ってランバリヨンに向かうことにした。

 念のため国際法上はよくないのだが船の登録や共和国旗を隠し接近する。

 

 ちょっとした暗礁領域を抜け、やや複雑な重力分布で小型のブラックホールなどの傍もすり抜けながら向かった。普通なら航行しづらいので航路に選ばれづらいし、恒星をもたないので航路図などにも表示されない。そんな地形上の利を生かした場所にランバリヨンは存在するのだった。


 海賊船ランバリヨンは岩石惑星だったが恒星が存在しないため漆黒の宇宙空間から忽然と武装商船……共和国艦であるドーントレーダーのメインスクリーン上に現れた。かなり輝度を調整しないとスクリーンにも表示されないくらい暗い惑星だ。

 

「かなりの熱源を感知……反応炉と核融合炉が複数存在するようです」とオペレーターが告げる。「人工的な大気も存在しますが、障壁を赤道付近に張って酸素を閉じ込めているだけのようですね」とオペレーターが続けた。


 どうやら恒星からエネルギーを得られにくい代わりに反応炉と核融合炉を複数地中に埋め、熱源としているようだった。


「とりあえず降りてみようか」

 一時的に捕虜の身分を解除した海賊のアイラとローランが監視つきではあるがこの艦橋に出入りし、水先案内人として航路や着陸地点を説明していた。


 惑星軌道上に共和国艦を1隻残し、ドーントレーダーは降下する。

 赤道付近からゆっくりと高度を下げ、やや重い大気を抜けるとかなり立派な宇宙港が見えた。煌々と明りが並び、数百隻以上の宇宙船がズラりと並んでいる。


 そのどれもが違法ギリギリの40mm機関砲や、もっと口径の大きい砲を積み、違法改造したと思われるリアクト機関を備えた、民間船としては重武装な……いわゆる海賊船のようだった。


「どうだい、これがランバリヨンさ」

 とアイラ。

「いや凄いな……ほかにも宇宙港があるのかい」涼井が何気なく聞く。

「そうさ、ここには何か所も……」「姉さん」ぺらぺら喋りかけたアイラをローランが静止する。その様子にロブ中佐が何気なく注意を向けているのが感じられた。


 本当に宇宙港が複数地表に建設されているのであれば、同時に1000隻以上もの船が着陸していることも可能かもしれない。そして見つかりづらい浮遊惑星上の宇宙港。

 これらは涼井に対しても軍事上の示唆を与えてくれそうだった。


 そうこうしている内に着々と着陸のプロセスは進行し、様々な色彩や形の宇宙船が並ぶ宇宙港の一画に、ドーントレーダーはゆっくりと着地したのだった。

 

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