【社史】開拓宙域の銀河商事

 とらえた海賊のアイラとローランの話を総合すると、こういうことだった。

 開拓宙域は現在、特定の勢力の下にあるわけではない。

 ただしその代わり開拓宙域の物流や、帝国や共和国などとの交易をおこなっているいくつかの企業がある。


 そして、既存の国から溢れた者、はぐれ者たちが人生逆転や一儲けを狙ってたくさんの開拓者がやってきていた。そして正規の艦隊がいないがゆえに海賊行為なども横行していた。

 

 正当な商流で儲けようとするものがいれば、それを奪った方が得だと考える者が出てくるのも当然だった。共和国や帝国では戦争のさなか、治安維持や拠点確保のために艦隊が常時うろうろしているため、そこからはじき出された海賊も多いようだ。


 それらを押さえるために企業群は傭兵……いわゆる民間軍事企業を雇い治安維持につとめてきた。一方で海賊側も様々な勢力があり、アイラとローランの海賊船団はどちらかというと「金持ちから奪う」「女子供は殺傷しない」「相手が降伏するならそれで済む」というポリシーを持って秩序だった行動をしているとのことだった。


 彼女たちは、同志的に動く船もかき集めれば300隻ほどの武装商船を擁しておりそれなりの戦力を持っているようだった。


「だけどよぉ、変なんだよな」とアイラ。

「アタイらがやってない海賊行為までアタイたちの仕業だと報道されてるみたいなんだよねぇ、アタイたちはあんな虐殺はしないし奪える相手から奪えるだけをもっていくヴィタバレ・デ・ヴィ・キャンタのが信条だ」腰に手をあててアイラは胸をはった。


「あたしたちレゼダ海賊団の心意気を見せるために今回襲ったの。ヴァイツェンマイニング社の輸送船団でしょ。あいつら銀河商事に納品してる連中だから、奪えるものだけ奪われても仕方がないよ」ローランが補足した。

「随分銀河商事のことを嫌ってるんだな」涼井が問う。


 アイラが鼻を鳴らした。

「当然さ! 銀河商事は開拓宙域のかなりの部分を仕切ってる! 傭兵艦隊ヤドヴィガが押さえて、開拓民を搾取してるのさ」


「姉さんの言ってることは本当で、例えば開拓民が恒星間開拓事業公社から開拓船と開拓資金借りるでしょ。それで鉱山とか農場を経営するわけ。でそれを銀河商事が生産物を買い上げるかわりに、公社のリース料とかを肩代わりするんだけど……手数料やら何やらかんやらをとって、開拓民は実質一生返せない借金を背負うような状態になるんだよ」

「つまりこの世界の・・・・・銀河商事が開拓移住者をうまくカタにはめこんで搾り取ってるわけだ」

 涼井は自嘲気味に口元をゆがめた。


 自身が心臓発作に至った経緯。

 銀河商事のとある役員の不祥事。架空発注にキックバック。国内の企業を買いたたいてさらに営業手数料まで搾り取っていた。その調査や告発で涼井は逆に追い詰められ倒れたのだった。


「この世界?」ローランは不思議そうな表情を浮かべる。

「あぁ、いや、開拓宙域の銀河商事という意味で言った」涼井が弁解する。

「まっとうな海賊は開拓民には手を出さないよ。アタイたちが乱暴を働かないように見張ってるしね」


 涼井はアイラとローラン、海賊の幹部たちを士官の捕虜待遇に変更するようにロブ中佐に指示して自室に戻った。


 提督室の椅子に深く腰掛けて天井を見る。

 天井はややクッション性を帯びた金属で出来ており、ほんのりと温かい光を放っていた。


 アイラとローランの話を本当のことだと仮定すると、「なぜアイラとローランの仕業」とヴァイツェンの自治政府が断定しているかということになる。

 

 銀河商事はヤドヴィガという傭兵艦隊を雇っているとのことだった。

 平行してロブ中佐に調べさせた結果、ヤドヴィガは相当多数の商船構造の戦闘用のフネを多数持っているらしく、その勢力は開拓宙域全土で10000隻を超える可能性がありそうだった。


 少なくともそれだけの資材や人員を帝国・共和国双方から送り込んでいるらしい。

 開拓宙域がどれだけ広くとも、涼井たちがこの宙域に到達したとき、何度か哨戒線に引っかか課って尋問を受けた。ということはそれだけきちんと張っているということだ。


 にもかかわらず正体不明の海賊行為が起きる理由は何か。

 もちろん色々な勢力や人が入り乱れているのでアイラやローランの知らない海賊が活動していてもおかしくはないのだが、涼井はどうしても、銀河商事の整然とした様子にそぐわない現象が心の中の小さな針のように引っかかってしまうのだった。

 

 そしてこの違和感は涼井が地球の銀河商事の不祥事を調べていた契機となった違和感に極めて似ていたのだった。





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