Re:【商談】開拓宙域の海賊姉妹

 ちょうど新たな海賊事件の報告がもたらされたのは数日後だった。

 ヴァイツェンの自治政府の広報官が無表情に読み上げていたが、開拓宙域の辺縁部であるこのあたりからもう少し奥まったあたりにあるエール宙域に向かう途中で護送船団コンボイが襲われたというニュースだった。


 ホテルの会議室に投じられたホログラム上で陰鬱な表情で読み上げられるニュースには、他に映像の類はなかったが、そのためかえって不気味だった。


 ロブ中佐とその部下たちが散って情報収集をしてきたが、それによるとこのような経過だったらしい。


 アルファ帝国からフォアールベルク侯国に向かった民間の交易船数十隻が、開拓宙域に向かう前に惑星ミードで武装商戦を数隻と武装舟艇を雇った。

 ところがそのグループは開拓宙域辺縁部からエール宙域に向かう途中で海賊の襲撃を受けて武装商戦ごと相当数が破壊され、積み荷や降伏した船ごと連れ去られたという。


「ヴァイツェン自治政府も情報を集めきれていないのか、現場をみた施設警備兵などとの証言とは食い違う部分も多いのですが……」ロブ中佐はコーヒーを飲みながらいう。


「治安が悪くなれば海賊行為が多くなるのは当然ではあるが……」涼井はつぶやく。

「そして海賊行為の主犯として名前をあげられているのがこの地域では有名らしいのですが、アイラとローランという姉妹が率いている海賊団だそうです。神出鬼没で海賊旗をかかげ、もともとはよく銀河商事の警備隊を襲っていたそうですが最近凶悪化したそうです」

「伝聞情報が多いな」

「……申し訳ありません、何しろ共和国は開拓宙域のことを殆ど知りませんからな……」

「だからこそ我々が探査する必要がある……。すまない、言葉選びを間違ってしまった」涼井は素直に頭を下げた。

「とりあえずもっと深く調べるためには、こちらも護送船団コンボイでも構成するか……しかし時間がかかりそうだな」


 その時、ちょうど自治政府の広報が終わり、地元の企業などが出す広告がホログラムに投影されていた。

 そこにはヴァイツェン宙域の鉱石を運ぶ輸送船団の護衛を依頼する船主の広告が映っていた。


『ヘリウム3が豊富なヴァイツェン宙域特産レゴリス輸送専門会社! 株式会社ヴァイツェンマイニングがこの度大規模輸送を実施するにあたり護衛の武装商船を募集いたします! 先着10隻まで! 詳細はお問い合わせください』


 涼井とロブ中佐は顔を見合わせた。


 2週間ほど後、ヴァイツェン2の惑星軌道上に集合した輸送船と護衛を引き受けた武装商船10隻は惑星軌道を何度か周回するうちに隊形を徐々に整え、ヴァイツェンマイニング社が所有する武装商船「レゴリス1」を先頭に、雑多な輸送船50隻とそれを護衛する新規雇用の武装商船が10隻はエール宙域に向け出航した。


 輸送船団は複縦陣となって伸び切り、さまざまな形をした武装商船はそれを包むようにして進んだ。それぞれのリアクト機関から放出される青い光の数々がドーントレーダーの船橋のメインモニタに映し出される。ドーントレーダーは水平面からみてやや後上方を占位していた。


 大艦隊に比べると規模は小さいがなかなか壮観だった。


『いやぁ助かったよ!』メインモニタには黒髪で乱雑に切りそろえた口髭の男が表示されていた。しわだらけの顔は鼻のあたりを中心に前だけが真っ黒に日焼けしていた。気密服焼けだ。彼はヴァイツェンマイニング社の社長のジャクソンと名乗った。


 聞けば10年前に入植し苦労して鉱山会社を作り今や輸送船も10隻以上自社保有しているという。鉱石を売るだけの仕事から流通へと発展しつつある若い会社だった。


『どうも胡散臭い連中が多い中、あんたがたのような会社保有の武装商船はありがたい。信用できそうだ。今回は当たりだな。後から入ってきた連中にまともなフネが多い』そういってジャクソンはガハハと笑った。電子タバコのようなものを片方の鼻に差し込んでいる。


『次の惑星に到着したら一杯おごるぜ』

 そう言って通信は終わった。

 涼井たちはあの後、広告に応じてジャクソンと面談して護送船団コンボイに加わることにしたのだった。実態調査をするためには現地で実際に護送船団と行動してみるのは有力な手と考えられた。

 

 しかし海賊の実際の襲撃があった直後だったため集まりが悪く、後からやってきた新参の武装商戦を何隻か加え、ようやく出航できたのだった。

 もちろん海賊の勢力がどんなものかは分かりづらかったが、輸送船自体も機銃くらいは備えており、この間襲われた船団よりは武装商船の数も多い。リスクは比較的低そうだった。


「……奥の手もあるしな」

 涼井はモニタを見ながらつぶやく。


 モニタは丁度、涼井達の乗る交易船「ドーントレーダー」の火器管制を表示していた。外に見えるように設置している40mm機関砲はあくまで許可を得た通常の交易船しての武装だったが、ドーントレーダーは偽装船隔を離脱さえすれば、実態は共和国宇宙軍の偵察艦だ。76mm速射砲を始め、積み荷に偽装して若干の質量弾も積んでいることがモニタには表示されていたのだった。


 




 


 

 

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