Re:Re:【商談】開拓宙域の海賊姉妹
「重力子感知! 複数……数隻の不明な船艇と思しき物体! 距離120000!」
交易船「ドーントレーダー」の船橋でオペレーターが声をあげる。ちょうどヴァイツェンマイニング社の社長のジャクソンの乗るレゴリス1を先頭に船団が出航して数日の距離だった。
ドーントレーダーの船橋は狭い。すぐに関係者が集まってきた。
「まとまっているので正確には分かりませんが……本艦と同じくらいの大きさなら10隻ほど、もう少し小さいならもっといるかもしれません……」オペレーターが複合干渉レーダーとテンソル計器に表示される数字をAIの補助のもとににらみつけるようにして確認している。「国籍、登録番号共に不明です」別のオペレーターが続ける。
「我々を除いて他のフネに気付いた様子はあるか?」と涼井。
「……いまのところ特段動きはないようです」
涼井達の乗る交易船ドーントレーダーの実態は共和国の偵察艦だ。かなり高度なセンサー類を積んでいる。
「海賊船ですかね……」とロブ中佐。
「ふむ、とりあえず戦闘準備……念のため偽装船隔もパージできるようにしておいてくれ、それと機関砲の準備」
乗組員たちはそれぞれ配置についた。陸戦隊員や憲兵も万一の時の船内での戦闘に備えて小銃などを取りにいった。
それから数時間、ようやく他の船も気づいたらしく、輸送船団が動揺したような動きを見せた。先頭に立つレゴリス1のジャクソンからは叱咤の声が飛ぶ。
『おめぇら! 動揺してんじゃないぞ! こちとら荒くれの鉱石屋だ、仮に海賊なんて追い返せばいいんだよ!』
効果があったのか、輸送船も自衛用の機銃などを相手方に向け始めた。
10隻ほどのヴァイツェンマイニング社が雇った武装商船もそれぞれ輸送船団を囲むように隊形を整えなおした。
『気付いてるだろ?』
ジャクソンから涼井に通信が入る。
涼井は黙って頷いた。
『相手の動きの感じは海賊だ。まとまってこちらの横っ腹を攻撃できるような感じで来ていやがる……問題は輸送船団よ。あれが落ちたら洒落にならねぇ。俺の
のレゴラス1と、何隻かで迎撃するから、あんたがたのフネは輸送船団を護ってできるだけ遠くに離れてくれ。後で追いつくからよ』
そう言ってジャクソンはニヤっと笑った。
自らを囮にして輸送船団を逃がすつもりのようだ。
「いえ……お言葉はありがたいのですが……」
涼井は眼鏡の位置をくぃっと直した。後ろでリリヤが身もだえしている気がするが、おそらくは気のせいだろう。
「
「我々?」
その間にも国籍不明船はメインモニタの映像上で確認できる距離まで近づいてきた。黒々と塗られた船隔、武装商船としては明らかに違法なサイズの砲塔を積んでいるのた見て取れた。軍艦ではなかったが明らかにこちらの船団に対する攻撃の意図を持っていると思われる機動を行っていた。
数は18隻。こちらの武装商戦の倍近くいる。
それぞれが威嚇のためか光線を当たるか当たらないくらいの空間に叩き込んできた。攻撃意図は明白だった。
「全艦偽装解除!」涼井が指示をくだす。
ヴァイツェンマイニング社をとりまいていた武装商船のうち、ドーントレーダーを含む5隻が突如爆発したようにジャクソンには見えた。
ばらばらに船隔が吹き飛ぶ。
それをレゴリス1のモニタで見ていたジャクソンは頭を抱えた。涼井たちがやられたと思ったのだ。
ところが、その5隻は健在だった。健在どころか共和国の紋章をつけた軍艦として突如出現した。大きさは偵察艦や哨戒艦だったが、それでも小型の海賊船よりも大きく装甲は分厚かった。
5隻の共和国艦は76mm速射砲から質量弾を発射した。
その砲火が海賊船団の先頭をとらえた。船体に質量弾がめり込んだ海賊船団はあっというまに破壊され真円上の白熱した輝きとなって爆発四散した。
つづいて火線にとらえられた海賊船団が数隻炎上、破砕された。
残りはあわてて減速しつつ方向転換を試みたようだった。
ついでにもう2~3隻破壊しつつ涼井の指揮の元で共和国の艦艇群が突進する。
減速し方向転換をしたばかりの海賊船団の中心にいたひときわ大きい海賊船に光線を放ち障壁を吹き飛ばした。
特に足の速いドーントレーダーは海賊船の指揮艦に接近し相対速度・相対位置を合わせて横づけした。その間にも残りの共和国艦艇は生き残った海賊船を追い回し武装解除させていた。
『いや……まさか……軍艦だったのか……?』
茫然とした表情のジャクソンの声がドーントレーダーの船橋に響く。まだ通信はつながっていた。
涼井はくぃっと眼鏡の位置を直して微笑んだ。
海賊の指揮船に乗り込んだロッテーシャから、海賊姉妹のアイラとローランを発見し捕虜にしたとの報告が入ったのはそれからわずか数十分後の出来事だった。
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