Re:Re:【敵対的M&A】ロストフ連邦の侵攻

 ロストフ連邦の侵攻は10000以上の艦艇の残骸や撃破された艦艇そのものを残して共和国側の勝利に終わった。ヴォストーク元帥とラッソール中将は逃してしまったが今回の戦闘でロストフ連邦の情報が手に入ったのは大きかった。


 涼井は集めた4個艦隊をそれぞれ駐留拠点に戻した。

「いやはや帝国とリオハ条約で停戦になったと思ったら今度はロストフ連邦ですか……」と幕僚長のバーク。

「そうだな……」


 何かんだと共和国もかなり停戦後に一息はついていたのは確かだった。

 そのため何らか別の勢力が蠢動することは予想していたもののそのスピードは思ったよりも早かった。そしてその規模も思っていたよりも大きかった。


「ロストフ連邦は開拓宙域に勢力を拡大していたのかな?」涼井は誰にともなくつぶやいた。


 帝国と共和国は間違いなくこの世界の二大勢力だ。

 その勢力と領有している惑星の場所や数などはお互いにおおまかには把握している。アルファ帝国皇帝となったリリザの戴冠式に来ていた他の勢力はその周辺に存在していて取るに足らない勢力のはずだった。


 しかし開拓宙域はノーマークだったかもしれない。

 惑星ミードという中立的な色彩の強い惑星がある。ロストフ連邦やクヴェヴリ騎士団の大使館もあるが、開拓宙域の開拓を一手に担っている恒星間開拓事業公社も惑星ミードに本社がある。


 涼井と前国務大臣のアレックスが戴冠式に向かう間に確認した複数の情報によるとその開拓宙域とは公表されているよりも遥かに大きいのではないだろうか? 複数の惑星を開拓中どころか数十の惑星が開拓中だったのかもしれない。

 

 そして帝国と共和国が戦争を続けている間に他の勢力が素知らぬ顔で領有する惑星を増やしていたとしたら。


「ロストフ連邦が全力の捨て身で侵攻してきたとは思えない……」涼井はつぶやく。

 いくら共和国が傷ついていたといってもあの程度の戦力で蹂躙したり領土を切り取るのは難しかっただろう。当然後続は予定されていたはずだ。

 帝国を上回る勢力になっているとまでは思えなかったが、かなり勢力を増やし自信をつけてきたのではないだろうか。


「提督、提督」

 相変わらず副官をつとめているリリヤがこちらを覗き込んでいた。

「やけに真剣な表情してますけど」


 涼井は思わず微笑を洩らした。

「いや……大丈夫だ」


 考えることは大量にあった。

 大統領として長らく戦時体制を支えてきた大統領エドワルドは停戦をもって退陣した。戦時内閣ということで議会も半ば権限を停止されていたが今後は選挙も改めて動き出す。共和国の大統領の任期は平時なら4年。4年で方針がころころ変わることになる。

 エドワルド自体は次の大統領が決まるまではしばらく業務は続けるのだが選挙が終われば内閣も変わる。閣僚も入れ替わる。

 次は反動でリベラルな大統領になるという噂もあった。


 ひとまず涼井は沿岸警備隊に負傷者の救出や残骸の始末を任せることとし、首都惑星であるゼウスに帰投することにした。


 惑星ゼウスの軍港では猛烈な歓迎を受けた。 

 涼井は第9艦隊司令官であった時から乗っている戦艦ヘルメスを衛星軌道で遊弋させ、内火艇で地上に降り立った。軍港には共和国の主要メディアのプレスが待ち構え、涼井に対して声援を送る人々で溢れていた。


 この話は知らされていなかったため、内火艇の機密扉が開くと同時に涼井の護衛であるロッテーシャ少佐もさすがに顔に緊張を走らせ涼井をかばうような形で割り込んだが、さすがの涼井も驚いた。


 人々は口々に「英雄」スズハル提督を称えていたのだった。

 もちろん軍港であるからセキュリティチェックはされ武器の持ち込みは難しいと思われたが、涼井も手を振って応えたものの急いで憲兵隊の装甲車を呼び、それに乗ってホテル「トライアンフ」に向かった。

 

 ここ一連の帝国との停戦からロストフ連邦との戦闘と大事件が立て続けに起こり、それに対応する動きで疲れ果てていた涼井は、ごつごつした兵士用のシートに揺られながらもいつしか眠りに落ちていったのだった。


 

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