第75話 Re:【敵対的M&A】ロストフ連邦の侵攻

「間に合ったな」宇宙艦隊司令長官かつ大将の涼井は戦艦「ヘルメス」の艦橋でメインモニターを眺めながらつぶやいた。ヘルメスの周囲は52000隻もの共和国艦艇がとりまいていた。

「ですな」と宇宙艦隊幕僚長となったバーク。


 涼井は警戒を緩めていたわけではなかったが、ある程度まとまった数の艦隊がこのタイミングで侵入してくるというのはさすがに予想外だった。

 ただかつての体制であればヘラ・ハデスの1個駐留艦隊が立ち向かったであろうが数的劣勢は著しく簡単に撃破されてしまっただろう。軽快な沿岸警備艦隊だからこそ被害軽微の状態で逃走し、ロストフ連邦の艦隊による侵攻の報告もできたのだった。


 涼井はロストフ連邦侵入の報告を受け、すぐに機動的に運用するつもりだった艦隊のうち3つを集め、宇宙艦隊司令部直轄の艦隊とあわせて4個艦隊ですぐに辺境へ急行した。そしてハデス宙域を掃討しつつあったヴォストーク元帥と、ヘラ宙域に残っていたラッソール中将の艦隊の間に割り込むような形で展開したのだった。


 明らかにロストフ連邦の艦隊は分断されて動揺していた。

 そこでまず涼井は自身で2個艦隊を率いて24000隻ほどとなったヴォストーク元帥の艦隊と対峙。その間に新任のアリソン中将とロビンソン中将の2個艦隊でロストフ連邦の分艦隊を攻撃させた。


「弱いほうから確実に潰す」

 涼井は眼鏡の位置を直しながらつぶやいた。

 

 ラッソール中将の艦隊は完全に恐慌状態だった。

「馬鹿な! 馬鹿な! 馬鹿な!」

 ラッソール中将は艦橋で絶叫した。

 まさかこんなにも早く戦力を集中させた共和国艦隊がやってくるのは予想外だったのだ。

 ラッソールはヴォストーク元帥を諌めたが結果としてやっていることは単なる消極策と自ら戦力を分散したに過ぎなかった。8000隻では戦略的に集中した52000隻もの相手を引っ掻き回すのも難しいと思われた。

 

「重量感知! 敵おおよそ2個艦隊です! 距離180!」オペレーターが叫ぶ。

 そして彼の8000隻の目前にはアリソン中将の第3艦隊、ロビンソン中将の第4艦隊が現れた。


「後退だ! 後退しよう!」

 ラッソール中将は必死に叫んだ。

「高速移動する質量体感知! 質量弾による攻撃を受けています!」オペレーターの悲痛な声が艦橋に響き渡る。


 ロストフ連邦は共和国の哨戒艇や沿岸警備隊を攻撃して敵意を露にしてきたのもあり共和国も遠慮なく臨戦体制となっていたのだった。

 ラッソール中将の艦隊は密集隊形をとり重厚な装甲を持ったロストフ連邦自慢の戦艦部隊を前面に出して抵抗を試みた。しかし3倍以上の共和国艦隊の質量弾は無慈悲に艦列に突き刺さり、戦艦群の装甲にめり込み、あるいはリアクト機関を直撃した。


 一気に戦艦部隊の2割以上が白や青の爆発を起こし撃破された。

 さらに大半も傷つき、リアクト機関も停止し慣性のまま宇宙空間を彷徨う艦艇もいた。


「もう……ダメだ……」

 ラッソール中将はどっと倒れ込み、そして逃走するようにかろうじて指示を出した。ラッソール艦隊は陣形を見出して逃げ散り始めた。


「逃げたか、運がよかった」

 涼井は報告を受けながら言った。


 もし降伏されたら収容の手間がかかる。1個艦隊は張り付けになるだろう。

 そうすればこちらに戻せる艦隊は1個艦隊だ。3個艦隊39000隻ほどとロストフ連邦のヴォストーク元帥の艦隊24000隻ではもちろん優勢ではあるがダメ押しがほしいところだった。


 一方、ヴォストーク元帥も荒れていた。

「ああー! しまった! ラッソールが離れていった時に無理にでも引き止めるべきだったわい! 共和国の反撃を甘く見た!」

 彼も彼とてすっかり頭を抱えていた。


 結果論だが、ラッソールの諌めに反して、ヴォストーク元帥の言う通り早期にまとまってヘラ・ハデスをそれぞれ攻撃していれば共和国艦隊の現れる前にそれぞれは切り取れたかもしれなかった。そしてまとまって時間稼ぎしつつロストフ連邦からの増援を待てば領土をとれた可能性があった。


 しかし今となってはどうしようもなかった。


「やむを得ん! このままではどうしようもない。もはやこれまで一気に敵を攻撃して退路を作る他はなかろう」

 ヴォストーク元帥は決断した。

 決断すれば彼は早かった。

 

 24000隻の艦隊は一丸となって遮二無二に涼井の2個艦隊に突進した。

 涼井の指示で質量弾を猛烈に浴びせかける。

 

 ヴォストーク艦隊は狙いもろくにつけずに質量弾を乱射して速度優先で殺到した。

 涼井は艦隊を前進させ、すれ違い様に横腹から攻撃した。

 

 質量弾がさらにヴォストーク艦隊に突き刺さる。

 しかし完全に破壊された艦艇はともかく、ダメージを受けたり撃破された艦艇を収容も援護もせずヴォストーク艦隊はひたすら前進する。


 涼井は猛追したがヴォストーク艦隊は凄まじいスピードで逃走を開始した。

 防御も捨て逃走に徹したため、やがて隊形を組んだままの涼井艦隊を引き離すことに彼は成功した。

 その後には10000隻に及ぶロストフ連邦の艦隊の残骸と、撃破されて宇宙空間を漂う艦艇が残されていた。


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