第63話 Re:Re:【追加発注】増援
煌々と輝く若い恒星を側面に2つの艦隊は対峙していた。
一方は戦艦ヘリオスに乗るチャン・ユーリン提督の率いる解放軍艦隊43700隻。
もう一方は涼井を参謀長に擁した共和国艦隊と帝国貴族の連合艦隊である20万8000隻。
この宙息に展開する艦艇群としては過去最大だった。そしておそらく空前絶後となるのであろう。
解放軍艦隊は惑星の公転にあわせてじりじりと移動し、できる限り恒星を右側面に置いた隊形を崩さないようにしていた。一方で共和国と帝国貴族の連合艦隊は惑星系に入っても速度をあまり落とさず堂々と接近してきていた。
「よし、始めましょう。ノートン元帥、計画通りにお願いします」
「うむ、スズハル君。任せたまえ」
ノートン元帥は愚直な男で実務屋だった。
それがゆえに地味で、もしかするとチャン提督などから見ると「無能者」だったのかもしれない。
しかしこの不思議な世界であっても元帥にまで昇進した男であるし実務の能力は非常に堅実で高かった。
逆に涼井から見るとチャン提督は有能で優秀かもしれないが、組織全体からいうと制御不能なトリックスターだった。
涼井は今回の艦隊編成では確実に実務を実行できる提督を昇進させ、逆に粗削りな才能を持った小チャンのような提督は遊撃的な位置に置いた。共和国としても史上最大の作戦であるため確実に艦隊を意思通りに動かすことを重視したのだった。
ノートン元帥は着実に指示を飛ばし、配下の提督たちは彼の意図を理解しながら確実に艦隊を動かした。
共和国ー帝国貴族連合艦隊は大きく分けて3つの集団だった。
1つはノートン元帥と涼井が直轄する5個艦隊 60000隻(4個艦隊欠)
1つはロアルド提督の第1任務艦隊 4個艦隊 48000隻(1個艦隊欠)
最後がヴァイン公リリザのおおよそ6個艦隊10万隻。
この場にいない艦隊は後方で交通整理や傷ついた艦艇の収容や捜索、さらなる輸送の護衛などを担当していた。
貴族艦隊は小領主も多く艦隊の規模はまちまちでリリザとカルヴァドス伯爵が苦労してまとめあげていた。
数も多くリシャール公やチャン提督に対する復讐心から戦意は旺盛だがその分統制が取りにくく複雑な機動はできない。
そこで涼井は貴族艦隊をおおむねまとまって艦隊の右翼に置き、現役艦隊の多く機敏なロアルド提督の艦隊をやや後方に、そしてノートン元帥率いる直轄艦隊で正面から堂々とチャン艦隊を攻撃する作戦に出た。
60000隻もの艦隊が整々と前進してゆく様は圧巻だった。
涼井は今回は自身の戦艦ヘルメスは主席幕僚のバークに預けてしまっておりノートン元帥と一緒に戦艦ゼウスに乗り組んでいた。メインスクリーンではリアクト機関の反応をきらめかせながら前進していく艦艇群の様子が映し出されていた。
それにあわせて解放軍艦隊も動き出した。
中央に陣取るリシャール艦隊28000が迎撃のためかノートン元帥の直轄艦隊に正対して距離を縮めてきた。
迎撃のためにノートン艦隊は照準をリシャール艦隊に定めて前進する。
リシャール艦隊は質量弾を猛射しながら加速しノートン艦隊と激突した。
激しく砲火が交わされ真空中にいくつもの真円の爆発が生まれ煌めいた。
リシャール艦隊は2倍以上のノートン直轄艦隊と激突してはいたが、戦艦部隊を前面に出し、その間から駆逐艦や巡洋艦が斬りこんでいくという戦術をとった。駆逐艦や巡洋艦の被害は大きかったが効果も大きく、艦隊の規模のわりに影響力があり、その中でノートン艦隊の隊形がやや乱れた。
ノートン艦隊とリシャール艦隊の激突をみて貴族連合艦隊も動き出した。
彼らにとっては憎きリシャール公に一矢報いようとしたのであろうか。
特に血気にはやった小領主たちを中心として前線を押し進め、やや隊形が伸びた。
その先頭を切っていたのはブラックリッジ男爵という小領主だった。
衛星に領地を持ち、今回は14隻の艦艇を率いて参戦していた。ほとんどは魚雷艇レベルだったが旧式の駆逐艦が2隻混じっていた。彼は先のヴァイン公の乱に参加し部下を失っていた。
そしてそろそろ交戦距離というところで彼の旧型の駆逐艦のセンサーが新たな敵艦隊をとらえた。
リシャール艦隊の背後からぬっと5000隻のトラン・フー艦隊が出現したのだ。
トラン・フー提督は自身の艦隊をリシャール公に追従させ完全に背後に隠れていた。
勇猛果敢なタイプの彼にしては珍しく我慢に我慢を重ね、奇襲となりうるタイミングで一斉に貴族連合艦隊に襲い掛かったのだった。
質量弾こそ撃ち尽くしていたものの猛烈な砲火を浴びせながらトラン艦隊は突進した。
そして貴族連合艦隊の前衛を薙ぎ払った。
いくつもの小領主たちの艦艇が蒸発した。その中にはブラックリッジ男爵の艦隊も含まれていた。
カヴァ宙域会戦はまだ始まったばかりだった。
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