第62話 Re:【追加発注】増援

 涼井は元々の計画に従って、各任務艦隊と連絡をとった。

 哨戒艦を多数放った結果、リシャール公とチャン提督の艦隊は帝国領のさらなる奥にあるカヴァ宙域の方面に逃走したことが判明した。


 涼井は体制を整えてから追撃というやり方は取らなかった。

 多少の戦闘で物資を消費したルアック提督の第2任務艦隊を後方に下げ、代わりに後詰を担当していたロアルド提督の第1任務艦隊を前線に送り、すぐに追撃させた。

 

 さらに昇進したニールセン大将が率いる第3任務艦隊は国境付近まで進出させ、5個艦隊のうち3個艦隊をリオハ、バローロ、ヴュルテンブルクの各宙域に展開し残敵掃討を開始させつつ、大艦隊の移動の交通整理を実施した。


 これだけの大艦隊が移動と作戦を行うため、輸送船も含めて大量の艦艇が行きかうことになり、その交通整理だけでも物凄い仕事量となったのだった。さらに共和国艦隊とチャン提督艦隊の艦艇の区別、リシャール公についた貴族とヴァイン公についた貴族の艦艇の区別もつきにくく、その膨大な業務量については、国防省だけでなく別の省庁からも応援の人手を出し解決を図っていた。


 その間に同盟を結んでいる帝国のヴァイン公率いる艦隊はノートン大将の直轄艦隊の付近まで移動し合流した。

 お互い多少の再編成をし、共にカヴァ宙域に向かうこととなった。故障したり傷ついた艦艇はいったん旗下の第14艦隊を離脱させ、第14艦隊が健在な艦艇を他の艦隊に供給し、傷ついた艦艇を掌握した上で、ニールセン大将の任務艦隊が収容するよう涼井は処置した。そのため数は減ったがほぼ完全編成の艦隊が前線に赴くことができた。


――カヴァ宙域の恒星は若い主系列星で、強く白色の輝きを放っていた。

 かろうじて虎口を逃れたチャン・ユーリンとリシャール公はここで再度決戦をするべく陣形を整えていた。

 

 かなりの艦艇が離脱し傷ついていた。

 しかしリオハ宙域での会戦からトラン・フーが脱出して合流してきた。

 一方、老将エメット提督はトラン艦隊を逃すために後衛を引き受け全滅していた。


「この戦いは相手の司令部を強引に破壊することで勝利を得るしかない」

 チャンはぎりぎりと唇をかみしめた。


 解放軍は恒星カヴァを背後にしてゆっくりと惑星軌道を遊弋しながらリシャール公の率いる28000隻を中央に布陣した。

 リシャール公の艦隊は中央を彼自信が指揮し、右翼艦隊を負傷から癒えたランドック伯爵とルーション伯爵の5000隻に任せた。

 左翼には戦死したミッテルライン公の地位を引き継いだ弟のフランツ・ミッテルラインと共和国に捕縛されたヴァッレ・ダオスタ公の叔父ベルナーレ・ヴァッレ・ダオスタ伯爵の7000隻が配置された。


 とっておきの矛としてチャン・ユーリンは残った解放軍の9000隻の艦隊を直卒してやや艦隊群の背後に自身を配置。

 遊撃としてトラン・フー自身の艦隊とエメット艦隊の一部を編合した5500隻をリシャール公の背後に。

 そして解放軍のあのブライト・リンが革命的反戦軍の持っていた艦艇とフォックス・クレメンス社の残党をかき集めた最後の予備兵力の1200隻を率いていた。


 連続する会戦でほぼ質量弾は底をついていた。

 かろうじてリアクト機関をフル稼働させ推進剤と光線のための再充電をする時間だけはあった。


 チャンは戦艦ヘリオスの司令官席に座り、スキットルに入れた安酒を煽りながらメインスクリーンを見つめていた。

「重力子増大感知! 敵が来ます!」と叫ぶオペレーターの声もどこか遠くから聞こえるかのようだ。


 メインスクリーンには艦隊が感知しうる範囲に敵が出現し始めていることを示す表示が無数に出現した。

 見覚えのある表示もいくつかはある。


「敵出現! 少なくとも20万隻! そのうち1/3は新手のようです!」

 チャンは舌打ちした。

 

 どうやら前線に現れる艦隊が交代したのだろうと思われた。

 元気いっぱいで物資も大量に積んでいる敵だ。手ごわい。


 拙速を尊び、ほぼあのまま全艦隊で現れてるとチャンは考えていた。

 だからこそそこにスキが生まれ、敵の司令部を破砕するチャンスがあると考えていたのだった。


 その上奇策に頼らず正面から堂々と出現した。

 敵の数はこちらの5倍以上だ。

 何の奇策もなく突っ込んでこられても、ただ消耗戦になって終わる。

 そしていつもの奇策が通用しない相手なのだった。


「これで終わりか……おのれスズハル……しかしまだチャンスはある……」

 

 メインスクリーンに表示された大艦隊は移動用の隊形から素早く戦闘隊形に切り替え早くも前進を開始した。

 20万隻の強圧がまさにいまチャンとリシャールを襲おうとしているのだった。

 

 

 

 


 

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