第61話 【追加発注】増援
チャン・ユーリンの指揮する艦隊は完全に涼井が参謀として支えるノートン大将の艦隊群に飲み込まれた。
さらにチャン艦隊は質量弾を撃ち尽くしてしまっていた。
「全艦隊、光線を撃ちまくれ!」
チャンの率いる解放軍第1艦隊はすでにぼろぼろだった。
ここ一連の会戦ではうまく罠を食い破ったとはいえ、損傷していない艦艇はなく推進剤もだいぶ使い果たしていた。
チャンの乗る戦艦「ヘリオス」の周辺を固める艦艇にも次から次へと質量弾が命中していた。
すぐそばの戦艦BB-2341型の側面にちょうど質量弾が着弾し、障壁を貫通し装甲にめり込んで吹き飛ばした。
運悪く一撃で艦橋も粉々にし、まき散らされた破片がヘリオスの障壁にぶつかって人間の目には見えない電磁的な波紋を無数に造りだしていた。
相手の数のほうが圧倒的に多く、みるみる戦闘可能な味方艦艇が減っている。
チャンはふらふらと提督席にへたり込んだ。
奇策も通用しない、罠にも引っ掛からない、ただただ質と量だけで圧してくる相手がこんなに取り組みにくいとは考えてもいなかった。
絶望が彼を襲っていた。愛用している民生品のマグカップが人工重力に引かれて落ち、砕けた。
その時、メインスクリーンに投影されていた戦況図に突如味方の艦艇が出現した。
「チャン提督!」
重力子通信でテキストだけが届いたが、チャンには確かに音声が聞こえたように感じた。
「救援に来たぞ!」
その味方の艦隊は仮面参謀だった。
仮面参謀は白髪に近い銀の長髪を振り乱し、モニターに向って絶叫していた。
彼の率いる味方の艦艇は帝国領方面から出現した。
その数3万2000隻。決して多いとは言えないが、いままさにチャン艦隊を包囲するために薄く広く包囲隊形を作り始めていたノートン艦隊に対して突き刺さる槍としては苛烈だった。
もちろん共和国艦隊も速やかに反撃を開始し、仮面参謀の艦隊に反撃が突き刺さった。
随所で艦隊が破砕され爆発四散していったがそれでも仮面参謀の増援は猛然とノートン艦隊に食らいついた。
激戦の中、仮面参謀はその仮面を艦橋の床にたたきつけた。
顔に治癒しかけた火傷の跡。その顔は戦闘で行方不明となっていたリシャール公のものだった。
「全軍、チャンを救出せよ!」
彼は咆哮した。
「敵の増援!? このタイミングで!!?」
ノートン大将が旗艦「ゼウス」で絶叫する。
ノートン大将は思わず側に控える涼井の顔を見た。
涼井は思いのほか冷静だった。
「ノートン大将、包囲隊形を作るにあたって警戒に出していた哨戒艦から何か報告はありましたか?」
「……なかった……と思う」
「……現れたのが帝国領方面から、これは予想外でしたな。ヴァイン公に与する貴族だけではなかったということになりますな」
「どどど、どうしようスズハル君」
ノートン大将はすっかり精神的に涼井を頼っていた。
涼井は眼鏡の位置を直した。
それは一瞬考える時間を作るために間を持たせる際の涼井の癖でもあった。
「このタイミングで現れるのは予想外ですが、これくらいのリスクそのものは織り込み済です。何らかの奇策で罠が食い破られることも予想はしていました」
「そ、そうなのか?」
「これから敵の数が猛烈に増えるわけはありません。あれが彼らの最後の戦力でしょう。フェーズ1で捉えきれなかった敵はフェーズ2で捉えれば良いのです」
「おぉ……スズハル君……」
ノートン大将は崇敬の感情を全身に浮かべた。
リシャールの率いる増援はノートン大将の包囲陣の一角を崩し、解囲に成功した。
ぼろぼろになったチャン艦隊の旗艦と残余の艦艇をうまくまとめあげた。
そしてなんと4000隻ほどの決死隊を後に残し本隊は逃げ去りつつあった。
決死隊は全滅の覚悟で猛然と暴れまわった。
その最後の抵抗を見つめながら涼井は小さな声でつぶやいた。
「フェーズ2、移行開始」
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