第51話【新規案件】選挙にあわせた作戦の是非
選挙になると戦争が起きる。
正確には任期終了近くになると大統領としては実績がほしくなる。
これは一見、汚い行為なのかもしれない。
しかし帝国軍と対峙していて、もし押し負けると共和国が消滅してしまうことは事実ではある。
戦力が回復しているのだから軍事上の要件としても対峙するだけではなく相手を叩くことで撹乱することも意味はある。
またかつてのアルテミス宙域などにおける一連の帝国からの攻撃の際のように、これだけ幅広い宙域で対峙していると攻撃側のほうが有利にならざるを得ない側面もあった。
涼井が過去のデータを分析する限り、共和国は民主主義政権であるがゆえに、リベラルも保守派も大統領に選ばれることがある。リベラル政権になった際は多くの場合、軍事費の削減を謳い、帝国に対する友好的な政策をとろうとして失敗し防衛が危なくなることがしばしばあったようだった。
「うーん……帝国との問題になるのはやはりアルテミス宙域とヘラ-ハデス両宙域だな」
会戦の数が多いのは圧倒的にアルテミス宙域ではあった。
ヘラ-ハデス宙域は辺境も辺境で、危険な宙域も多く侵入しづらいようだった。
「要塞……か?」
涼井は先日、心臓発作を起こして一瞬地球に戻った際にノートPCを持ってきたのと軍事関係・防衛関係の書籍を大量に購入した。サラリーマンならではの仕事としての学習によって書籍を読んだだけではあるがそのあたりの知識も多少は増えてきていた。
「アルテミス宙域に要塞というか要塞線を構築してはどうだろうか……?」
しかししばらく考えたのちにこの方法は放擲した。
ひとくちに「宙域」といっても非常に広大な宇宙空間の一角にすぎない。
機動力のある艦隊がお互いを探して戦うというのはこの世界の技術では可能だが、何光年にもわたって行動を妨害する要塞は構築のしようがなさそうだった。数億kmといった建造物はあっても光年単位のものは途方もない資材・工数がかかり涼井が生きている間は実現は不可能そうだった。
では惑星サイズの要塞を作り数光年にわたる攻撃力を持たせてはどうだろうか。
涼井はしばらく考えたのちにそれも放棄した。
この世界において艦隊戦が主流なのは、重力の変動を感知し、お互いの存在をある程度見つけ出すことができるのが前提にある。
相手を発見したら接近し攻撃する。
逆に言うと接近せざるを得ない。
もちろん数百km単位というような極至近距離ではないが、何光年も先の物体を攻撃する技術は現在のところまだなさそうだった。
また要塞や防衛線を作って意味があるのは地形に依って戦う地上戦の世界の話であって、艦隊機動が中心では迂回されたり、要塞を封鎖されたりする危険性もあり意味がなさそうだった。
とはいえアルテミス宙域に警戒用の艦艇を多めに配置する、艦隊のドックを拡張しておく、あらかじめ物資を集積しておく、それらを防護しておくといった戦略的な処置は有効そうに見えた。
驚くことにこの世界ではあまりそうした間接的な業務が重要視されていなかった。
そこで涼井は惑星アルテミス、惑星ハデス、惑星ヘラにおいて監視・捜索のための艦艇の分艦隊をいくつか編成して送り出すこととし、ちょうど治安維持のために拡張したばかりの沿岸警備隊にその任務を負わせた。
さらにそれぞれの惑星の艦艇用ドックの拡張整備、惑星防衛のための陸戦隊の増加、事前の物資集積などの処置をとった。これらはどちらかというと軍政の分野だったため大統領エドワルドの許可をとり国防大臣のエドガーと進めた。
単なる第9艦隊の司令官としての職責を大幅に越えていたが、大統領エドワルドの厚い信頼があったからこそ可能なことであった。
それらの処置が進み始めたのち、涼井はあらためて帝国攻撃のための作戦の検討に入ったのだった。
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