おっさんが戦略的に戦う件

第50話 【新規案件】新たな作戦

 革命的反戦軍の動乱が落ち着いてしばらく経過した。 

 アルファ帝国はリシャール公を失って以来動きがあまりなく、ヴァッレ・ダオスタ公を捕らえたことから内部的な策謀も落ち着いているように見えた。


 共和国はその間に艦艇を生産し、あるいは旧型艦艇を現役復帰させ、戦力を整えることに注力していた。

 特に兵站ロジスティックを重要視する人物が大統領のエドワルドを動かし戦略的に陣容を整えることにしたらしいと軍内部でもささやかれていた。

 その人物はもちろん涼井本人だった。


 共和国艦隊は時間をかけて再編成され、先のアルテミス宙域での作戦でノートン大将と共に戦ったニールセン大佐の昇進や、思想的にはリベラルなチャン提督の復帰など話題も豊富で連日、新聞を賑わせていた。


 アルテミス宙域で防衛艦隊を率いているロアルド提督の3個艦隊を除くと共和国艦隊は以下のような編制になった。


第1艦隊 ノートン大将(続投)

第3艦隊(再編) チャン提督(復帰)

第4艦隊(再編) ニールセン提督(少将)昇進し参謀職から艦隊司令官へ異動

第5艦隊(再編) ファヒーダ提督 第11艦隊から異動

第6艦隊 ルアック提督(続投)

第7艦隊(再編)シュナイダー提督

第9艦隊 スズハル提督 

第13艦隊(新編) ストラーダ提督 

第14艦隊(新編) ハヤシ提督


第11艦隊(治安維持)管轄替え 沿岸警備隊へ

第12艦隊(治安維持) 管轄替え 沿岸警備隊へ

沿岸警備隊(治安維持)


 治安維持のための艦隊が沿岸警備隊配属になるなど細かな調整も行われた。

 戦力はあまり均一ではなかったし軍工廠からおろしたてで公試を急いでいる艦艇もあったが、とにもかくも陣容は整ってきたのだった。

 12個艦隊10万隻を超える戦力だった。


 アルファ帝国は特に戦力が低下しており地方の貴族の分離独立の兆しもあったが、依然として国境付近の重力観測によってある程度の規模の艦艇が貼り付けられていることは共和国の情報部によって把握されていた。


 そんな中、涼井は大統領エドワルドに個人的に呼び出され、首都惑星ゼウスの大統領官邸にいた。

 大統領官邸の応接室は広く小ぎれいだった。決して贅沢すぎはしないが舐められない程度の調度品が部屋の一体感を演出していた。


「スズハル君、わざわざすまないな」

 エドワルドは来客用スーツに身を固め、涼井に酒を勧めた。


(……正直焼酎でも飲みたい気分だが……)

 涼井は地球の赤ちょうちんを思い浮かべたが打ち消した。


 ドライシェリーのような酒を軽く飲み、大統領が話し始めるのを待った。

 彼はどうも何かを躊躇っているように涼井には思えた。


「……スズハル君、わざわざ来てもらったのは……」

「選挙ですか?」

「!」


 エドワルドは一瞬だけ驚いたような表情を見せたがすぐに何ともいえない表情に変化した。

「その通りだ、君ら軍人からみるとさぞかし愚劣だろうが……」


 涼井は足を組みなおし真っ直ぐエドワルドを見つめた。


「私はそうは思いません」

「……」


 大統領としてのエドワルドは4年という任期の中、たびたび来襲する帝国軍に対して政治的にはよく支え、革命的反戦軍やリベラル勢力から叩かれても防衛体制は維持してきた。

 よく軍部を信頼しており、それがここ一連の帝国軍の攻撃を防いできたひとつの要因であると涼井は考えていた。


「大統領閣下、我々軍と政は左右の車輪のようなものです。特に民主主義国家においては協力が必要でしょう。選挙が近くなれば一定の成果をと思うのは当然ではないでしょうか」

「スズハル君……君は変わったな」


 ふっとエドワルドは微笑を浮かべた。

 エドワルドは選挙対策で軍事上の一定の成果を求めているのだ。

 これまでアルテミス宙域やヘラ・ハデスなどでは結果として大きな犠牲を伴い、有権者からのウケは非常に悪かった。一方でこのままの雰囲気では、次の大統領選挙ではリベラル候補が勝つ可能性がありそうなると軍にも微妙な掣肘が加えられそうな状況ではあった。

 

 前回のリベラル政権では無茶な艦隊削減や軍人の待遇悪化があり、帝国軍との戦争ではかなり苦戦を強いられたという話を涼井は把握していた。

 正直に言うと宇宙軍として考えるのであれば大統領エドワルド続投のほうが望ましいシナリオだったのだ。


「何か犠牲を伴うような作戦や、危険なものでなくて良い。必然性がない作戦もダメだ。何か必然性のあるものでしかも分かりやすい成果が出そうなものを検討してくれ」

「かしこまりました」


 普通の軍人に対してはエドワルドはおそらくこういうオーダーはしないだろう。

 ジャパニーズサラリーマンだからこそこういう時はイエス一択だ。涼井はふっと皮肉な笑いが浮かんでくるのを感じたのだった。

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