第49話 Re:Re:【決算】フォックス・クレメンス社の正体

 フォックス・クレメンス社との攻防は終わった。

 接収からすでに3週間が過ぎた。

 憲兵隊のロブ少佐を中心に主計官まで入れてフォックス・クレメンス社の登記簿、株式、株式構成、役員、財務諸表など全てを調べていた。重要な書類は涼井も閲覧できる。


 涼井は今、もともと予定していたアフロディーテ宙域に移動していた。

 アフロディーテ宙域の恒星は主系列星で力強く、その第2惑星である惑星アフロディーテは非常に地球に似た惑星だった。

 ただ惑星全体がリゾートとして開発されており、特に赤道付近の多島海アーキペラゴは共和国中から観光客がやってくる有名なビーチリゾート群だった。


 涼井はその中のとある島で軍高官用の保養地をセキュリティを理由に借り切っていた。

 ホテルパライソはその中心になる施設で巷間の4つ星~5つ星ホテルと比べても遜色はない。

 従業員は訓練を受けた軍属で、さらにロッテーシャ大尉の陸戦中隊を配置して護衛している。


 沖合には涼井の艦隊の駆逐艦が海上に数隻停泊していた。 

 その威容はまるで海中から突如出現した古代の要塞の遺跡のようだった。


 涼井は力強い光線を受け、ビーチチェアに寝っ転がりロブ少佐の資料を端末で読んでいた。

 小テーブルにはアルコール度数が強めのカクテル。


 正直言って最高の気分だ。

 波は穏やかでこの小島の小さな山も豊で強い緑に染まっている。

 この惑星の特徴は多少の改造はしているが天然の海、天然の太陽がウリなのだ。


 涼井は昼近くまで睡眠をとり、朝食兼昼食をゆっくりと取り、こうして仕事がてら寝っ転がる日課を送っていた。

 もちろん大統領エドワルドの勧めもあるが、ストレスを解消し疲労をとるのも仕事の一種ではある。


 フォックス・クレメンス社は帝国派のアテナデイリータイムスよりも真っ黒だった。

 よりによってCEOのジェスター・クレメンスなる人物は正確には存在せずヴァッレ・ダオスタ公の変名であることが分かった。


 ヴァッレ・ダオスタ公は未だに捕虜収容所に収容されているが株式から何から何まで帝国の息がかかっていた。

 しかし正確にはヴァッレ・ダオスタ個人のものであって、彼はそこから得られる軍事情報や共和国の情報を自在に操りアルファ帝国内での権勢の強化に使っていたことが分かったのだった。

 

 実際にアテナ宙域では騒乱が起きた。

 幸いアテナ宙域の騒擾も完全に鎮圧し、カンなどを含む革命的反戦軍の幹部もあらかた捕獲し終わっていた。


 涼井はため息をつき、カクテルを呷った。

 何のフルーツかは分からないが酸味と甘みがよく溶け合った良質の酒だった。


「提督―! 泳ぎましょー!」

「ははは提督ー! 楽しいですぞー!」

  

 波打ち際で水着姿のバークとリリヤが遊んでいるが涼井はとりあえずそれを無視した。


 涼井暗殺計画を含むかなりの部分が解明され、革命的反戦軍もほぼ帝国側が作ったことが分かった。

 平和や共生をうたい文句にし、実際には共和国の軍事力を抑制し帝国に資するための組織だったのだ。

 さらに内部分裂を誘い帝国へ情報も流す。

 涼井がかつて居た地球でもよくある光景だ。


 ただ帝国といってもこうした闇は選定公などの帝国の中枢にいる貴族たちによって構築されたもので、涼井にはあのリシャール公すら振り回されていたように思えてもくるのだった。


 ただひとつ気になる情報があった。

 チャン・ユーリン提督という人物がいる。

 彼は20代後半で非常に若いが、チャン提督が居た第三艦隊は昔の作戦でほぼ上級指揮官が戦死したことがあり、人手不足もあって20代で中将にまで上り詰めた男だ。


 彼はとある事故で負傷し第3艦隊をサンダース提督に譲った。

 そのままサンダース提督はアルテミス宙域での会戦に参加しゲーテ提督、サジマ提督などと一緒に戦死したのだ。


 それまでの第3艦隊は非常に強く涼井の前身である・・・・・・・・スズハル提督に勝るとも劣らぬ、いや、それ以上の活躍をしていたことがあるらしい。


 スズハル提督以上に厭世的で軍上層部への悪口雑言もはばからないが戦闘では強くしばしば帝国艦隊を撃破し武勲も赫々たるものがあった。


 しかしそのチャン提督が実は帝国の協力者である可能性が浮上しているのだった。

 時折、撃破した相手に情けをかけ、むしろ共和国の上層部を嫌い、反戦的革命軍のフロントとなる議員などにも同情的だったのだ。

 

 そしてそのチャン提督が復帰しすでに再編成されつつある第3艦隊の司令官に補職されたという。

 涼井はもう一杯カクテルを呷った。


 資料を読み込む内にいつのまにか太陽は沈み、夕焼け時になっていた。

 確かに美しい、美しいがどことなく寒気のするような風が吹き込み、涼井の髪をなぜていくのだった。



 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る