第48話 Re:【決算】フォックス・クレメンス社の正体
フォックス・クレメンス社所属の艦艇にスズハル提督から連絡が入ったのはすぐのことだった。
エメット退役少将宛に非常に丁寧なメールが入ったのだ。
それはエメット退役少将の赫赫たるかつての武勲を称賛し、非常に丁寧に具体的な事例に言及した上で、スズハル提督には何らの他意もないことを記載した文章だった。
これはいたくエメット退役少将のプライドを良い方向に刺激した。
エメット退役少将はスズハル提督の話を聞く気になり、通信上でだが映像を交えて会談を行った。
その数時間後には「フォックス・クレメンス社への監査が必要なことをエメット退役少将が理解し、さらに彼が望むならエメット退役少将の現役復帰を後押しさせていただく」との涼井の提言にすっかり感動し、2000隻ものエメット退役少将の率いるフォックス・クレメンス社の艦艇群は停船と武装解除に応じた。
その間に惑星ポセイドンの、岩石でごつごつした巨大な衛星に対して輸送船より陸戦隊が空挺降下を始めた。
艦隊の陸戦隊から二個機動降下旅団が使用されることとなり、隊員たちは降下用カプセルに入った。
降下用カプセルは1人用で、カプセルの機能で減速しながら衛星や惑星に降り立つことができる。
ロービジ塗装のため光もあまり反射しなかったが、漆黒の闇の中にカプセルが放り出されていく光景は、まるで恒星の光のない虚空を駆ける流星群のようだった。
カプセルから飛び出した機動降下旅団の兵士たちは次々に衛星上のフォックス・クレメンス社の施設を制圧していった。
予想に反し反撃などはなくほとんどの施設は無抵抗で接収されていった。
しかしフォックス・クレメンス社の所有物のひとつでは様相が違った。
艦艇の火砲を試験する試験場でそれは起こった。
フォックス・クレメンス社の幹部社員、労働組合員たちが本来は軍に納品するべき銃砲類を用いて激しく抵抗してきたのだ。
惑星ポセイドンの衛星には大気はない。
無音で射出される銃砲弾がバチバチと衛星の表面を削った。
機動降下旅団はその時点で広く散開しており、試験場の建造物の正面にいた中隊はその突然の攻撃に数名が蒸発した。
地形に伏せて反撃したが火砲の試験場の建造物は堅牢だった。
地上に試験のため設置されていた駆逐艦用の砲塔まで使ってきたのだった。
その報告を受け涼井は無血での占領を諦めた。
追加で機動野砲連隊のうち軽量砲大隊を降下させた。
フォックス・クレメンス社の試験場からは見えづらい位置におろし、
そこから一斉に砲撃を始めた。
もちろん艦艇からの砲撃も考えたがそれでは完全に試験場を潰してしまい占領できなくなることを恐れたのだった。
それより小型だが十分な威力のある砲弾は試験場の砲塔を吹き飛ばし建造物の壁を破砕した。
続いて軽量砲が煙幕を撃ち込むとほぼ同時に降下旅団の兵士たちが試験場に殺到し、一気に占領した。
それがフォックス・クレメンス社が保有する最後の施設だった。
涼井の艦隊が現れてからわずか半日でフォックス・クレメンス社の接収は完了したのだった。
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