第46話 Re:【半期決算】天地同時の攻防
首都惑星ゼウスから派遣されたササキ艦隊が革命的反戦軍の艦艇群を蹴散らしていた頃。
そして惑星アテナの中央庁舎で憲兵隊とデモ隊が抗争を繰り広げている最中。
不穏な気配が惑星アテナの都市部に漂っていた。
目深に帽子をかぶりコートの襟を立てた数名の男たちがアテナレジデンスホテルに向かっていた。
全員カーキ色の古びたコート姿で黙々と歩く姿は異様だった。
アテナレジデンスホテルは中心部から少しだけ離れ、大きな公園にも面したシティホテルだ。
要人が宿泊することもある。
そしてここに共和国宇宙軍第九艦隊司令官のスズハル提督が宿泊しているという情報を彼らは掴んでいた。
この男たちは革命的反戦軍の中でもブライト・リン宇宙軍少将にして反戦的革命軍の労働組愛委員長の最大の秘策を担う者たちだった。
彼らはブライト・リン自ら育成した暗殺などの汚い仕事を請け負う連中だった。
すでに数名の保守派の人士を殺害したことがある。
軍人ではなかったが暗殺には特化した連中だった。
そして狂信的なまでに革命的反戦軍の思想を信じ切っていた。
目付きは鋭く澱んでおり、しかし油断のない歩き方から只者ではないことは見て取れる。
彼らは数日前からホテルの従業員を買収し、清掃業者になりすまして入り込み、スズハル提督が公園に面した最上階に宿泊していることまで掴んでいた。
そして懐に拳銃とナイフを忍ばせ真っ直ぐホテルに向かって街路を歩いていた。
人工雪はとっくに止んでいたが路上が少々凍り付いていた。
それを踏みしめるように彼らは前進する。
いつもは行きかう人々もいるのだが今日この日は中央庁舎における大規模場騒擾のために殆どのアテナ市民は外出を控えていた。
男のリーダーはモイといって浅黒く日焼けした無精ひげの男だった。
彼はこれまで数名の軍人、ジャーナリストを暗殺したことがある。
彼に向ってジェームズ・リン労働組合委員長は言ったものだ。
――どんなに戦術的に優れた将帥でも暗殺には弱いものだ。戦闘に強くて指揮能力が高くとも本人はただの人間だ。奴を排除してしまえば我々の革命はより前身するだろう――
モイは3人の部下と公園に差し掛かった。
近道のために公園に入り込み、ホテルの裏口を目指す。
そこからであれば異様な風体でも入り込みやすいのだ。
すでにホテルのバックヤードを担当する女性を買収してこの日は裏口には警備員が立たないように仕組んでいた。
緑っぽい髪の毛のさっぱりした女性だったが数百共和国ドルで買収できた。
公園の樹木のあたりを過ぎたあたりだろうか。
ふと何かの音がした。衣擦れのような、葉がこすれるような。
ふとモイは振り返った。
「ジョーンズはどうした……」
突如として一人消えていた。
彼は混乱した。
その瞬間、樹木の影から1人の男が飛び出しモイの部下を背後から羽交い絞めにし疾風のような速度で部下ごと茂みに引きずり込んだ。
モイは気づいた。
襲撃されている。
「だっ誰かいるぞ! 銃を抜け!」
モイはあわてて拳銃を懐から取り出した。
残された1名の暗殺チームの男もナイフを抜く。
スズハル提督に突き立てる予定だったナイフだ。
その瞬間、暗殺チームの男の右手がはじけ飛び血しぶきをまき散らしながらナイフが宙に舞う。
モイは本能的に地面に伏せた。
その瞬間、モイの背中に何かがのしかかってきた。
拳銃を蹴り飛ばされ複雑な形で右腕を極められる。
「な、な、何事……」
「おとなしくしたほうが良いわよ」
低い女性の声で囁かれる。
かろうじて視線を向けると緑がかった髪の毛の短髪の女性がこちらを冷たい目で見降ろしている。
「お、お前は……お前はホテルの……」
「罠にかかったようね」
その女性……陸戦隊のロッテ―シャ大尉は容赦なくモイを締め上げた。すでにその他の暗殺チームを全員拘束し終わった彼女の部下が現れモイも拘束する。
モイは何か叫ぼうとしたが陸戦隊員が黙らせ連行した。行き先は憲兵隊のロブ少佐の尋問室だ。
ロッテーシャ大尉は端末を取り出した。
「はい、暗殺チームは確保しました。引き続き警戒します」
――報告を受けた涼井はにやりと笑った。
彼はホテルには既にいなかった。
広々とした舗装された地面が延々と続く。
ところどころにレーダーなどが並び巨大なドックが並んでいる。
アテナ宇宙港だ。
涼井は既にホテルを隠密裏に離脱し惑星アテナの宇宙港に戻ってきていたのだった。
傍らには副官のリリヤ、そして彼を迎えにきたのは首席幕僚のバークだ。
「さていよいよ大掃除だな」
涼井のこの時の表情をもしも革命的反戦軍のカンやリンが見たら卒倒しかねない迫力があった。
そして涼井はこの機会に共和国内部の大掃除をするつもりだったのだった。
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