第45話 【半期決算】天地同時の攻防
惑星アテナの中央庁舎付近では憲兵隊の一個大隊と数千人のデモ隊の騒擾は続いていた。
デモ隊はほとんどが別の宙域からやってきた活動家で、アテナ人はほぼいなかった。
拘束したデモ隊メンバーが増えるにつきその事は明らかになっていった。
それにつれてロブ少佐の対応はより苛烈になっていった。
一方でアテナ上空には数十隻の極彩色の塗装をほどこした革命的反戦軍の艦艇がおり、衛星軌道上を周回していた。
しかし隊形は乱れ艦隊とは言い難い雑然とした様相を呈していた。
そして彼らの一部は革命的反戦軍の同志であり共和国軍や沿岸警備隊の者もいたが、かろうじてパトロール艇の艇長や当直士官の経験者はいても艦隊指揮経験者はいなかった。さらに指揮官は革命的反戦軍の幹部で軍務経験もない者も多かった。
艦艇そのものの運用や維持はフォックス・クレメンス社から出向した社員が行っていた。
しかし彼らはあくまで顧客の試験航行を受注したと説明されており革命的反戦軍の戦闘部隊として堂々と反乱を起こしていることは知らなかった。
重力子探知装置の経験者も革命的反戦軍にはいなかったため、誰も敵を警戒していなかった。
ゆえに共和国首都であるゼウス宙域から駆けつけた第一艦隊の分艦隊、ササキ准将の艦艇群が接近してきていることにほぼ誰も気がつかなかったのは必然だったのだろう。
艦艇という巨大で高性能な武器を持ち、それを運用し、アテナ宙域の衛星軌道に到達して現地の政府側の戦力と比べると圧倒的に勝る状況になった時点で満足してしまったのだった。
ササキ准将の分艦隊は高速巡洋艦と駆逐艦だけで構成されており、通常の編成に比べると火力と装甲では劣ったが、機動力は一級品だった。
彼は巧妙にアテナ宙域に接近した。
探知されやすくなるリスクはあるものの、彼はリアクト機関を最大限にふかし最大の巡航速度で惑星アテナから見て恒星を挟んだ反対側から接近した。
アテナ宙域の恒星は白色矮星だ。
重力や恒星から得られるエネルギーは低い。
その代わりにアテナ宙域では第一惑星において補助的に核融合炉を動かしている。
それらの要素が艦艇が接近する際の欺瞞になった。
首都惑星ゼウスに駐留する経験が長かった第一艦隊はこの辺りでの訓練に慣れており、当然この特性も判っていた。
もちろん慎重なオペレーターがきちんと24時間警戒していれば攻撃の兆候は発見できる。
しかしササキ准将はあらかじめ「敵の迎撃の兆候がなくても罠ではない、安心して突撃しろ」という涼井の指示を事前に受け取っていた。
迷うことなく訓練ではよく使うルートで惑星アテナの衛星軌道にある革命的反戦軍の艦隊を強襲した。
ササキ准将はほっそりと背の高い男性で年齢の割には涼しい目をしている。
性格もどちらかというと陰鬱な性格をしているが、戦闘は勇猛果敢な指揮ぶりで知られていた。
「射程に入るか入らないかのところで質量弾を一斉に撃て」
その指示通りにササキ艦隊の200隻は整々と攻撃隊形を整え、革命的反戦軍のやや後下方から近づいた。
そして質量弾を斉射した。
宇宙空間を引き裂くような速度で質量弾の群が革命的反戦軍に突き刺さった。
いくつもの光芒が生まれ瞬間、1割の艦艇が破砕された。
もちろんこれはササキ准将の計算だった。
まともに照準すれば戦力差もあって瞬時にほぼ6〜7割は破壊できただろう。
しかしそうすると情報を得られない。
反戦的革命軍の艦隊は混乱するどころではなかった。
呆然としたかのように動きを止める艦艇、あわてたように艦首の向きを変えようとする艦艇、惑星アテナに降下しようとする艦艇など様々だった。
ササキ艦隊は、惑星アテナに降下しようとする艦艇には容赦無く光弾を叩き込んだ。
破砕された艦艇は残骸となって大気圏に降り注いだ。
そのほとんどは角度的に燃え尽き地表に被害はなかった。
ササキ艦隊は攻撃を仕掛けるとそのまま縦隊となって衛星軌道に入り、反戦的革命軍の艦隊の側面をすり抜けた。
その際に小口径の光弾を無数に叩き込み、相手の銃砲塔を潰した。
ほぼ一撃で無力化された反戦的革命軍をよそに衛星軌道を一周するとともに徐々に減速し速度をあわせた。
そして比較的無傷の艦艇に対して艦艇を横付けし陸戦隊が乗り込むとあっという間に反戦的革命軍の者たちやフォックス・クレメンス社の社員たちを制圧し拘束した。
ササキ艦隊にとっては、海賊対処訓練で慣れた状況だった。
この日、反戦的革命軍の唯一の艦隊は僅か数分で壊滅したのだった。
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