第44話 Re:Re:Re:【会計監査】革命的反戦軍の策謀

 アテナ宙域の中央庁舎には数千人のデモ隊が詰めかけバリケードや壁を乗り越え火を放ちブロック片を投げつけていた。

 警察隊は発砲しながら防衛ラインを縮小していたが、はぐれた警察官はデモ隊に絡めとられ集団で鉄パイプを振り下ろされていた。

 おそらく怪我だけでは済まない警察官もいたであろう。


 仲間の死傷に激昂するところだが、あまりに相手が多く、いかに難燃性の物質で出来た建物とは言え引火性の液体をかけられ火をつけられればさすがに炎上する。


 黒煙がいくつも上がり、それは都心部からであればどこからでも観測できた。雪の都市に黒煙はあまりに似つかわしくなく異様な光景だった。それは騒擾の現場から聞こえる銃声や怒声と相まってかなりの惨状を呈していた。


 さらに惑星アテナに接近しつつある艦艇の集団があった。

 共和国の艦艇のシルエットではあったが、それぞれが派手な極彩色に塗られ何かのスローガンが書き殴られている。

 革命的反戦軍唯一の艦艇部隊だった。


 艦艇はとても陣形を組んでいるというような隊形ではなかったが、それでも惑星の衛星軌道に侵入し、内火艇を惑星アテナにおろした。内火艇は大気圏に突入し、徐々に速度を緩めながら中央庁舎の真上にやってきた。


 内火艇といっても全長30mはある、短距離用とはいえ立派な宇宙船だ。

 それが無理やり庁舎の屋上に乗り付け、そこからわらわらと工事用のヘルメットをかぶり手に手に銃や鉄パイプのようなものをもった革命の戦士たちが躍り出てきた。


 その中の一人が汚いノボリを打ち振るった。

 共和国のマークに赤いバツ印をつけたものだ。


 デモ隊から歓声があがった。

 

 とかく革命戦士たちは庁舎に立て籠る警官隊と熱心な銃撃戦を始めた。

 訓練を受けているものはあまりいなかったがそれでも人数は多くこの距離なら素人が撃っても運悪く・・・当たってしまう者もいる。

 

 警官隊はたちまち劣勢になった。 

 デモ隊は熱狂しますます破壊活動を続ける。


 その様子をデイリーアテナタイムスの残党の記者は少し離れたビルの屋上で撮影している。

 カメラ役が1名、レポーター役が1名。

 

 こういう報道記者は大抵の場合こうしたカメラマンとレポーターの経験があるものだ。

 

「おお! 我らが革命的同志の援軍です! 援軍がやってきました! 大統領エドワルドの忠実なる戦士たちです」

 レポーターが叫ぶ。


「ご覧ください! アテナ州政府の知事カーンです! カーンを捕らえたようです!」

 涼井を宇宙港で出迎えた知事のカーン博士が革命戦士に捕らえられた様子をカメラは捉えていた。


 カメラが庁舎にフォーカスする。

 カーン博士は革命的反戦軍の戦士に両脇を固められ連行されていく。

 彼は額から血を流し怯え切った様子だった。


 足元には数名の警察官が倒れている。

 どうみても普通ではない量の血を流して呻いている警察官もいた。


「見ろ! 我らが同志の勝利よ!」

 その映像を机の上の空間に投影している人物がいた。

 革命的反戦軍のジェームズ・カン書記長だ。

 キツネのような狡猾な表情を浮かべ、今は暗い喜びが全身から溢れ出しているかのようだった。


 その場にいる革命的反戦軍の幹部たちは「おぉ……」と感嘆とも同意ともつかぬ声をもらした。

 ジェームズ・カン書記長は空中の映像を掴み拡大した。

 

 項垂れたカーン知事は、興奮したデモ隊の群衆にからめとられ、吊し上げられている最中だった。

 罵声を浴びせかけられ、ありとあらゆる人格否定をされ、今にも本当に観葉樹にでもロープで吊るされんばかりの勢いだった。人民裁判だ。


「素晴らしい! 帝国主義的・・・・・な俗物は処断するべきだ!」

 カン書記長は邪悪な歓喜をみせた。


 画面の向こうのレポーターもまさに熱狂の頂点で実況しており、今にも革命歌でも歌いかねないほどだった。

 そして突然画面は途切れた。


「何事……?」

 カン書記長は熱狂を途中で醒まされ冷水を浴びたような表情になった。


 その時。

 カメラマン役の記者からちょうど撮影端末を取り上げた人物がいた。

 カメラマン役の頭には威嚇のため小銃が向けられている。


「おっとっと、撮影はここまでにしていただきましょう」

 憲兵隊のロブ少佐だ。

 礼儀正しくにこやかな笑顔だが目は笑っていない。


 手慣れた手つきで端末を没収し電源を切る。

 ビルの屋上に現れた憲兵は一個小隊ほどもいるだろうか。

 きびきびとした動作でレポーターも制圧して拘束する。


「さて.……まずは提督の読み通りになっていますな」

 彼が眺める中央庁舎では、デモ隊に暴徒鎮圧用

の装備をした憲兵隊が殴り込み、特に過激な連中の制圧と検挙を行いつつある最中だった。デモ隊は憲兵隊のシールドと警棒で押さえ込まれ、銃を持った革命戦士は発見次第、即射撃で制圧されていった。

 

 革命軍の内火艇は事態を察して逃れようとしたが、どこからか撃たれたミサイルで推進部を破砕されふらふらと都心から離れた位置に向かって高度を下げ始めていた。

 ロブ少佐はにんまりと笑顔を見せ、部下にさらなる指示を下しはじめた。

 

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