第38話 Re:【会計監査】調査のため出張します
デイリーアテナタイムス社は都心部にある。それなりの喧騒の中だ。
時刻は夕刻。
ちょうど仕事帰りの人々が行き交っていた。
この時代、人類は宇宙空間に広く広がり居住している。
その為どの惑星も人口密度は高くない。
それでもさすがに首都惑星ゼウスの近隣の宙域の惑星の都心であって、それなりの喧騒だった。
その中、どっと現れたMPの腕章をつけ、警棒を握った黒い制服の憲兵隊の大群に行き交う人々はぎょっとして足を止めその光景を眺めていた。
建物の正面の数名の警備員を排除しあっという間に100名ほどの憲兵隊はビルの中に吸い込まれていく。
「提督、こちらへ……」
ロブ少佐が涼井を誘う。
涼井はロブ少佐に導かれて既に憲兵によって確保されているビルの裏口へ向かった。
こちらの憲兵は拳銃と小銃で武装し周囲を厳しく警戒している。
ロブ少佐と数名の憲兵に囲まれて涼井はビルの裏手に入った。
ビルの中では怒号が沸き起こり、激しく争うような声も聞こえてきた。
ジャーナリストといえばこの世界でも闘争心の激しい職種の人たちでもある。
スーツ姿で憲兵と揉み合う姿も散見されたが、制圧役の憲兵が彼らを押しとどめている間に、ケースを持った憲兵たちが入り込んで次々に物品を押収していた。この世界でいうパソコンにあたる端末もどんどん回収されている。
ロブ少佐と数名の部下は事前に清掃員に姿を変えてこのビルをくまなく探索しており完全に構造を把握していた。
ロブ少佐は喧騒を避け非常階段からさらにビルの上に向かう。涼井も続いた。
最上階では完全武装の憲兵が小銃を構えすでにフロア全体を確保していた。
憲兵に混じって陸戦隊の制服もちらほら確認できる。ロッテーシャ大尉の部下だ。
「提督、見つけました」
「うむ……」
デイリーアテナタイムス社の役員室。
そこは通常の会社よりも厳重なコンクリートのような素材の壁に囲われ、まるで金庫室のような状態にも見えた。
この世界でもやや特異な印象だ。
「提督、我々はこの最上階からのみしか利用できないいくつかの非常階段も見つけています。すべて確保しました」
「ふむ」
「まるで有事の際に安全に脱出できるように設計されているとしか思えませんな」
「
「ですね」
ロブ少佐と涼井は役員室に入った。
そこではスーツ姿の男たちが数名確保されており、一人は抵抗したのか足を撃たれて蹲り、応急処置を受けていた。血痕がカーペットにドス黒く広がっていた。
部屋の中にはロッテーシャ大尉がおり、数名の憲兵に囲まれた大柄でよく太った男が椅子に座った状態で手錠をかけられていた。
「提督!」
「無事に済んだようだな」
ロッテーシャ大尉は拳銃をおろし敬礼した。
「はい、この通りです。一名は
「ふむ……」
涼井は椅子に座り手錠をかけられた男に向かい合った。
「さて、色々聞きたいことがある」
「……」
その男は頰肉を震わせ恨めしそうに涼井を睨みつけた。
「ヴァッレ・ダオスタ公、皇帝を選出する選帝公ともあろう方がこのような所で囚われの身とはどのようなお気持ちですかな?」
涼井はあえて氷点下の声色で冷徹に威圧した。
「ブ……ブハハハハハ!」
男––ヴァッレ・ダオスタ公は哄笑した。
「いつから気づいていたのかね? スズハル君」
「このデイリーアテナタイムス社が帝国による工作活動の拠点になっていること自体は容易に判明しましたよ。その上で帝国の重要な関係者が出入りしていることもね。少々焦りすぎましたな」
「フン……」
ヴァッレ・ダオスタ公は怒りというより値踏みするような表情を浮かべ涼井を睨めつけた。
涼井は続けた。
「伺いたいことはたくさんあります。まぁ憲兵隊本部でじっくり伺おうじゃありませんか」
その間にも憲兵たちはせわしく出入りしながら様々なものを押収していくのだった。
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