第36話【会計監査】革命的反戦軍についての報告

 涼井はマスコミの集団から離れ、地上車の座席にどっかりと腰をおろした。

 ロッテ―シャ大尉と数名の部下が同乗する。

 ボトルの水を飲み、彼はようやく息をついた。


「……革命的反戦軍……ね」

 地上車はこの惑星アテナの庁舎街に真っ直ぐに向かった。

 本来はこのSF世界でのビーチリゾートを楽しむつもりだったのだが、どうもそうもいかないらしい。


 惑星アテナの首長である州知事のカーン博士の出迎えを受け、涼井はこの宙域にある宇宙軍の庁舎に向かった。

 こじんまりとしたビルだ。ここの宙域には現在、常駐の艦艇は少数の警備艇がいるくらいで職員もあまり数はいない。

 先の帝国軍との戦いで沿岸警備隊も艦隊として全力を集めた弊害が出てしまっていた。

 治安が少し悪くなってきているのだ。


 このビルや惑星政府ビルの周辺にはデモ隊が出現し、人々が反戦平和を叫んでいた。

 その様子をまたマスコミが撮影している。

 

 帝国との戦争のため、どうしても数において劣勢な共和国軍は艦隊を集約して戦わざるを得なかったが、艦隊の常駐がなくなったり軍人の数が減った惑星でどうも反戦デモが多く発生しているようだった。


 惑星アテナに曳航してきた「革命的反戦軍」という組織名自体が矛盾した団体の艦艇の調査も涼井は依頼した。

 どうやら工廠で建造したものではなく、民間の軍需企業で建造したものが横流しされたようだった。

 これはかなり軍の内部に彼らの協力者が入り込んでいることを意味していた。


「思ったよりも闇が深いな……」

 涼井はアテナ宙域とその周辺という首都に近い地点で「革命的反戦軍」の艦艇が現れたことを危険視していた。

 あの一隻だけではなくもっといるのではないか?

 軍内部にも協力者がいるのではないか?

 疑問は尽きなかった。


 アテナ宙域の軍港や庁舎の視察をしていて気づいたことも増えてきた。その周囲にはよくデモ隊やマスコミがいて様々なアピールをしている。


 反戦デモや反戦団体の人々は多かれ少なかれ、革命的反戦軍の協力者か、あるいは心情的な協力者だった。

 彼らは「環境問題のため」などと銘打って庁舎や軍港を監視し、艦艇の出入りや地図の取得などを積極的に行っていた。


 艦艇の出入りや人の出入り、地図を丁寧に記録していけばやがてその基地にどのくらいの艦艇が入るのか、現在配備されている艦艇は何でどれくらいの数なのか。それらがおおむね判明する。


 ここまで調べた段階で涼井の胸中に「革命的反戦軍は帝国の回し者ではないのか」という疑問が浮上してきた。

 そういえば涼井が宿泊している短期出張者用の官舎の周囲にもデモ隊が出没しているが、どうもその中には諜報のためか撮影だけ四六時中している連中もいるようだった。


 表向きは環境のためや「知る権利のため」となっているが立派な諜報行為にしか見えなかった。

 さらにデモ隊や平和団体の中には過激派もいて、この間の革命的反戦軍と似たり寄ったりの連中もかなりいるようだった。


 涼井は大統領のエドワルドに諸々報告した上で、宇宙艦隊司令長官のノートン大将に頼んでゼウス宙域の憲兵旅団のうち1個大隊を派遣してもらうことにした。

 

 憲兵というのは基本的には軍事的な意味での治安維持、軍人の犯罪捜査を行う職種だ。

 時折、諜報活動や防諜活動を行うこともある。

 しかし驚いたことにこの世界では軍人の数のわりに憲兵が少なく、共和国の憲兵はせいぜい5万人ということだった。なお艦隊は一個艦隊だけで75万人ものクルーがいる。


 それでも涼井としてはこのアテナ宙域で起きている「反戦運動」に引っ掛かりを覚えており、その調査と、身辺の安全確保という意味でも憲兵を必要としたのだった。

 こうした蠢動を放置していてはいずれただのデモではなく暴動になり、暴動は低強度紛争になり、それ以降は破壊活動や大胆な諜報活動、そして暗殺などにつながると彼は予想していたのだった。


「提督、何か飲みますか?」

「そうだな……ボトルで水をくれ」

「かしこまりました」


 ロッテ―シャ大尉は部下と共に涼井の官舎に住み込み警護と世話役を買って出てくれている。

 将官のための官舎は十分に広く、寝室もバスルームも複数あり余裕があった。


 そして1週間後、ようやく到着した憲兵大隊とその指揮官のロブ少佐、そしてなぜかカンカンになって副官のリリヤがアテナ宙域にやってきたのだった。

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