第35話 Re:【内部監査】革命的反戦軍
涼井が乗っていた民間シャトルと接舷した「革命的反戦軍」の汚い虹色の「戦艦」は、わずか数分の戦闘で完全に制圧された。銃火器で武装しているのが2~3名、後は鉄パイプのような棒で武装していた。
唯一脅威になる可能性があった対人機関銃は「戦艦」の外に出されておりしっかりとボルトで固定され外せる状態ではなかった。
ロッテーシャ大尉は5名ほどの部下を率いてあっという間に彼らの抵抗を排除し、ワイルダー「将軍」を捕らえていた。
涼井はそこかしこで後ろ手に小指を拘束された「革命的反戦軍」とというやや矛盾した連中を横目に、「戦艦」の艦橋に向かった。
「提督!」
ロッテーシャ大尉が敬礼する。
艦橋には完全武装の陸戦隊が2名。あと3名は掃討と武装解除を進めているようだった。
ワイルダー将軍は何か額のあたりに大きなたんこぶを作り椅子に拘束されていた。
涼井が近づくとカッと目を見開く。
「き、貴様は……う、右翼の親玉、スズハル提督ではないか!」
「ほう……私を知っているのかね?」
涼井は殊更に冷酷な表情を作りワイルダー将軍に近付く。
ワイルダーは頬を紅潮させこめかみに青筋を立て、掴みかからんばかりだった。
「右翼の親玉! 右翼大統領のエドワルドの忠実なポチ! それが貴様だぁ!」
「光栄なことだな」
涼井はふとこの世界に飛ばされる前に勤めていた銀河商事の入り口で、よくああいう団体がこういう文言の踊る機関紙を配っていたのを思い出した。
なおもワイルダーは激しくののしろうとしたようだが、ロッテーシャが耳元で「黙れ」とささやくと一気に押し黙った。顔色をなくして怯えたような表情になった。涼井がやってくる前に何かあったのだろう。
その後の尋問で、ワイルダー「将軍」は反戦的革命軍の将軍で反戦的革命軍第一艦隊(そして唯一の)の艦長だと言うことが分かった。乗っていたのは革命的反戦軍の臨時編成革命軍の一部とのことだ。
「……」
頭が痛くなってきた涼井だったが、何はともあれ状況を大統領エドワルドに通信でメールを送った。
その上で正式にこの戦艦を接収。
シャトルはそのまま経由地のアテナ宙域に護衛をつけて送ることとし、涼井は近くの共和国軍に支援を要請した。
さすがに涼井とロッテ―シャでこの船は動かせない。
共和国軍は駆逐艦を2隻派遣した。
駆逐艦のうち1隻は革命的反戦軍の「戦艦」を曳航した。「戦艦」のわりに駆逐艦よりもだいぶ小さい。後でわかったことだが確かに共和国の警備艇「PB-30HXタイプ」だった。製造番号は架空のものだったというのも後から分かった。
残った駆逐艦に涼井たちは乗り込んだ。
二隻の駆逐艦はいったん涼井がアフロディーテ宙域に向かう前の経由地としていたアテナ宙域に向かった。
さっきまで搭乗していた民間シャトルを護衛するような陣形を組んでいる。
幸い他の妨害は無く、あっという間にアテナ宙域に到着した。
共和国の首都星ゼウスから数光年と最も近く、白色矮星がぼんやりとした光を放っている。
非常に小さい恒星だが質量は主系列星と同等だ。いったんは赤色巨星になった恒星の名残だった。
不足している熱源を補うためかなり近い位置の第一惑星で核融合炉を運用しているほか、かなり恒星の近くで生活が可能なため、小さめのダイソン球を作る計画もあったそうだ。しかし戦費の高騰で計画は頓挫しているとも聞いた。
駆逐艦は第二惑星のアテナの宇宙港に降り立った。
第二惑星も大きくないのもあり比較的推力が要らず駆逐艦でも十分惑星表面の宇宙港を利用できた。
涼井一行が宇宙港に降り立つとマスメディアが待機していて一斉に撮影された。
「提督! 反戦団体の幹部を拉致したというのは本当ですか!」
「提督!」
「市民には言論の自由がないのですか!」
いつもと違う様子にただならぬ気配を涼井は感じた。
下手に発言するのは危険だ。そう直感が囁きかけてくる。
「ノーコメントだ」
一言、涼井は言い残して囲み取材を抜け、地上移動のための軍用車両に乗り込む。
その様子をマスコミはカメラで追った。小さなカメラだ。中にはスマートグラスらしきもので撮影している者もいる。
そしていつものマスコミと違いどこか無表情なのが涼井の精神に、水面に落ちたひとかけらの金属片のように波紋を広げるのだった。
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