第34話【内部監査】革命的反戦軍

 『緊急放送! 緊急放送! 国籍不明船が接近中! お客様はシートベルトをお締めください! 我々は共和国艦隊に救援を求めています!』


 ブザーが鳴り響き、乗客たちが動揺している。

「海賊かもしれませんね」


 ロッテーシャ大尉が眉をひそめシートベルトを外す。

 ほぼ同時にエコノミークラスにいたと思われる制服姿の陸戦隊員が数名、拳銃を持って飛び込んできた。

 

 その様子にビジネスクラスの乗客に安堵が広がる。

 ピンチの際に武装した味方の姿を見るというのは安心感を生むのだろう。


「ふむ、艦隊を要点に置いたのが原因かもしれないな。哨戒が薄くなって暴れる者が出てきたか」

 涼井もシートベルトを外して通路を歩き始めた。


「提督、どちらへ?」

「機長のところだ」


 涼井はスタスタと歩き、ロッテ―シャは一瞬迷ったものの部下を連れて後を追った。

 操縦区画のガードマンに話すとすんなりと区画に通してくれた。

 

 このタイプのシャトルは操縦区画は二重隔壁になっていて、居住区画、操縦区画にそれぞれ何があっても安全をある程度保てるようになっているようだった。

 

 操縦区画は武骨な金属が向きだしになっており、そこらじゅうをコードの類が走っている。

 メインモニタの前に機長と副機長らしき男が座っている。

 機長が立ち上がってこちらに向いた。ベテランなのか初老の男性だ。


「おぉ……スズハル提督ですな。私はヒュー機長です」

「何が起きているんだ?」

「どうも国籍不明船が追跡してきているようなのですが……」


 ヒュー機長が副機長に合図すると、メインモニタの前の空中に画像が浮かび上がった。

 見た感じは共和国の掃海艇や警備艇に使われるPB-30HXタイプのように見える。

 シャトルのセンサーはそう高級なものではないが、ぼんやりとはその形状が分かる。その国籍不明船はどうやら武装しているように見えた。


「……共和国の艦艇ではないんだな?」と涼井。

「はい、どうも敵味方識別上は不明となっています……」

 機長の表情が硬い。


 そうこうしているうちに民間シャトルを上回る推力で国籍不明船は接近してきたようで、通信が入ってきた。


『こちらは革命的反戦軍虎狼部隊の戦艦である!繰り返す、こちらは革命的反戦軍虎狼部隊の戦艦である!』

 

「……」

「……」

 

 その革命的反戦軍虎狼部隊の『戦艦』はなおも接近しながら通信を送ってきていた。

 どうみても駆逐艦の主砲で吹っ飛びそうな警備艇クラスだったが戦艦を名乗っている。

 近づいてくるとその全貌が見えてきた。


 その『戦艦』にはいろいろと赤やら青色やらいろいろな塗装がほどこされ、一言でいうと「汚い虹色」だった。

 特に軍用の低視認性塗装ではなく明らかに素人が塗装したようなものだった。

 武装らしきものはついているが、どうも対人用の機銃を乗せただけのように見える。


 さらに接近されると先方の映像つきの通信が入ってきた。

『私が革命的反戦軍虎狼部隊の艦長、革命的反戦主義者のワイルダー将軍である!』


 40代くらいのでっぷりとした男性が出現した。

 工事用ヘルメットをかぶり軍服というより作業服を着用している。

 その背後には同じく工事用ヘルメットをかぶりマスクをした男たちが10数名ほど並んでいる。


 数名が拳銃で武装しているようだったが、ほとんどは何かの木の棒を持っている。


『残念ながら我らが革命の大義に基づいてそちらのシャトルを接収させていただく! 相対速度をゼロに保っていただきたい!』


 こちらの映像は映っていない。

 涼井はヒュー機長に「問題ない、従え」と小声で指示した。

 ヒュー機長は震える手でコンソールを操作し相手の『戦艦』との相対速度、相対角度を合わせる。


 涼井はロッテ―シャを呼び、何事かささやいた。

 彼女は小さく敬礼し、部下を連れて操縦区画を出て行った。


 その数分後、革命的反戦軍の『戦艦』はこちらのシャトルに接舷した。大きさはともかくシャトルと警備艇の全長はほとんど変わらない。


 ズズン……というような振動が伝わる。

 そして。

 先方からの通信から射撃音が聞こえるようになった。

 ウワーとかヒエーという叫び声も入ってきた。


 連続的に射撃音が響き、散発的な銃撃も聞こえる。

 その間にもギャーとかいう声が聞こえてくる。

 そしてすぐに静かになった。


『……提督』

 『戦艦』の通信からロッテ―シャ大尉の声が入る。


『制圧完了しました。相手の将軍とやらを捕らえております。検分されますか?』

「すぐに行こう」


 涼井は震えて呆然としたままのヒュー機長の肩に手をぽん、と置いてから操縦区画を出た。

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