第25話 Re:【進行中】秋の黄昏作戦

 アルファ帝国の第一梯団40000隻は帝国辺境を抜け、あっという間に共和国領となるアルテミス宙域に殺到してきた。

 リシャール公に臣従したばかりのヴァッレ・ダオスタ公とアルザス伯を中心とした艦隊だ。

 続いて後続艦隊も続行しているため勢いを弱めるわけにもいかない。

 ヴァッレ・ダオスタ公は必死だった。


 それに対し、アルテミス宙域を管轄している共和国のロアルド提督の艦隊が飛び出してきた。

 にらみ合うことなく即座に猛烈な戦闘となった。


 ロアルド提督は自身の共和国第2艦隊と、先の戦役で比較的無傷だった第8、第10艦隊の合計3個艦隊を統率している。

 しかしまだドックで修理中の艦艇も多くせいぜいが30000隻かそこらだった。

 それに対して帝国軍第一陣は40000隻、数の上でも不利だった。


「ええい! とにかく宙域の回廊全体に布陣して抵抗するぞ!」

 ロアルド提督は司令席でがなり立てた。

「薄くなっては不利では……」副官が具申する。

「まとまって抵抗すれば敵の続々とやってくる後続艦隊に飲み込まれるぞ。薄く広く布陣してねちっこく抵抗するのだ!」

「わ……分かりました!」


 ロアルド艦隊は艦隊を幅広く展開して待ち構えた。

 それに対してヴァッレ・ダオスタ公とアルザス伯爵は真っすぐに襲い掛かった。

 焦りもあったかもしれない。

 そのまま巡航隊形のまま戦闘を開始したのだった。

 

 宇宙空間を双方の破壊的な光線が飛び交い、質量弾が雨あられと降り注いだ。

 しかし結果論だったが、薄く広く展開したロアルド艦隊は密度が薄く、帝国の攻撃による被害が比較的少なかった。

 さらに帝国の第一梯団は巡航隊形のまま攻撃を仕掛けたため長蛇の列となっており火力の発揮がいまいちという形勢となった。


 全くの偶然だったがこの二つの状況がロアルド艦隊に光明を生んだ。

「……おや、なんだか思ったよりも敵の攻撃が薄いな……」

「こちらが広く展開しているのですり抜けていく弾が多いようですな。それに気のせいか数のわりに敵の火力がいまいちです」

「よし! この際だ。後先考えずに撃て!」

「はっ!」


 ロアルド艦隊は猛烈に撃ちはじめた。

 これまでのセオリーであれば薄く広く展開した艦隊に対しまとまった艦隊が攻撃を仕掛ければ、中央突破からの背面展開などが可能だった。しかし今回は様相が違った。


 長打の列で突っ込もうとする帝国艦隊に対し、ロアルド艦隊は広く広がっており、ほとんど全艦が火力を発揮できた。

 その猛烈な弾雨は帝国艦隊の前衛を叩きのめし、いくつもの真円状の爆発が広がっていった。

 さながら呻吟する大蛇のように帝国艦隊の第一梯団はのたうちまわった。


「ヴァッレ・ダオスタめ! 何をしているんだ!」

 第二梯団の司令官を務めるリシャール公の腹心、ブルゴン伯爵が呻いた。

 明らかに第一梯団は混乱をしており、アルテミス宙域で押し合いへし合いしているようだった。

 この状況で第二梯団を進めるのにはブルゴン伯としては気が進まなかった。

 彼の率いる54000もの艦艇が混乱の中に飛び込むのに躊躇したのだ。


 その時、ブルゴン伯の司令席に通信が飛んだ。

 白に近い金髪の美青年の顔が映像として浮かび上がる。リシャール公だ。

『ブルゴン伯よ……状況はどうなっているのだ? 一向に進まないではないか』

 思わずブルゴン伯が膝まづく。

「申し訳ありません、公爵閣下。……その、前線が思ったより苦戦しているようで……」

『言い訳はよい』

 思わず顔を上げるほど冷酷な調子のリシャール公の叱責がのしかかってきた。

『結果を出せ』

「……ははーっ!」


 ブルゴン伯は覚悟を決めた。

 混乱の気配が伝わるアルテミス宙域の深部に対して彼の率いる54000隻の大艦隊は進撃を開始した。

 それはさながら宙域全体を飲みこまんとするかのような勢いだった。

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