第26話 Re:Re:【進行中】秋の黄昏作戦

 アルテミス宙域では回廊を閉塞するように薄く広がったロアルド艦隊が猛烈に帝国軍の第一梯団に火力をぶつけていた。

 しかし第一梯団を超越するようにしてブルゴン伯爵の率いる第二梯団が無理やり宙域に入り込んできた。


「提督! あらたな重力源発生! ごっ50000隻以上の敵艦隊です!」オペレーターが叫ぶ。

「ちっ! やはり来たか。質量弾はどれくらい残っている?」

「……現在、各艦隊27%ほどです」

「思ったより使ったな、まぁいい、残り全部を一気に新たな敵艦隊に向けてぶつけろ!」

「はっ!」

 

 ロアルド艦隊はほとんどの砲門を第二梯団の先頭に向けた。

 そして射撃。

 30000隻近い艦隊の大群が一斉に質量弾をあらん限りの数吐き出した。

  

 リアクト機関が続く限りは光線と違い質量弾は数に限りがある。

 その代わり威力も大だった。

 猛烈な数の砲弾が第二梯団戦闘に叩きつけられ、先行していた艦艇の障壁を貫き、装甲をひしゃげさせ、無音の破壊へと駆り立てた。

 そしてたまたまだったが、第二梯団の先頭集団に旗艦を置いていた司令官ブルゴン伯爵の乗る戦艦に僚艦の破片が突き刺さり、機関を破壊、声を上げる間もなくブルゴン伯爵は宇宙空間に肉体ごと四散した。


 そのことをロアルド提督は知る由もない。

 リシャール公の旗下にある軍人たちは非常に勇猛で優秀で、時に「味方の士気が上がる」という理由で先頭集団に旗艦を置いて陣頭指揮を執ることもあった。しかし戦場における死は平等に降り注ぐ。

 偶然がブルゴン伯を戦死させてしまったのだった。

  

 第二梯団は混乱した。

 すべてを握る司令官がいきなり戦死したのだ。

 まして第二梯団は寝返ったばかりの選帝公ミッテルライン、リシャール公の腹心ブルゴン伯、地場貴族のプロヴァンス伯などの集成部隊だ。司令官を失った今、逃げる艦、反撃しようとする艦で陣形が乱れた。

 さらに苦戦中の第一梯団もようやく戦闘隊形を整えようとし、アルテミス宙域は混乱の坩堝となった。


「よし今だ!」

 ロアルド提督が立ち上がって叫んだ。

「反撃ですね?」

「いや、全力で逃げるぞ。全艦隊斉射3連、然る後に退却だ、退却の順番は第8、第10、我が第2艦隊だ。我々がしんがりを勤める」

「た、退却ですか?」

「もう一度言おうか?」

「いえ……」


 実はロアルド提督はスズハル提督との話し合いの結果、最初からこの宙域は放棄するつもりだった。

 敵が大軍でやってきた場合、可能であれば一撃して離脱する。出鼻をくじくことにもなり、かえって安全に退却できる。


(さすがスズハル提督だ……殆ど予想通りになったな)

 ロアルド提督は矢継ぎ早に指示を与えながら順次、退却の準備を整えていた。


 第8艦隊、第10艦隊は一斉射撃ののちに回頭して逃走を開始した。

 ロアルド提督の第2艦隊は隊形を整えて退却の準備をした。


 その時、敵の第一梯団から猛烈な射撃が行われた。

 一瞬で前衛に置いていた戦艦、重巡洋艦の群れが蒸発する。


「なんだと!?」ロアルドが再び提督席にて立ちあがる。

 ヴァッレ・ダオスタ公が思ったよりも早く混乱を収束し、第一梯団の一部で攻撃を開始したようだった。


「反撃だ!」

 その間にも猛烈な射撃でこちらの被害が増加していった。

 応戦するにしても質量弾は使い果たしている。

 幸い強くスズハル提督が戒めた結果、ロアルド提督は自艦隊の奥深くに旗艦を置いていたため味方全体の混乱は避けられた。しかし重装甲の味方が次々に轟沈している。


「提督! 新たな重力源!」

「どうした!? 敵か?」

「いえ! 味方です! こっこれは!」

「……?」

「スズハル提督です! スズハル提督の防衛艦隊が現れました。その数……52000隻!?」

「50000隻以上だと? そんな戦力がどこに…… いやありがたいが……」ロアルド提督は驚愕の表情を隠せなかった。


――スズハル提督こと涼井は自身の戦艦ヘルメスの提督席に座り不敵な微笑みを浮かべていた。

「間に合ったようだな」

「全くです」とこれは初老の首席幕僚バーク。

「これから大反撃ですね!」と副官のリリヤ。


「会戦が始まった時には8割がた勝っていなければならない……商談と同じだな」

「商談?」

「……こちらのことだ。敵はロアルド艦隊が痛撃して出鼻をくじいている。一時的にも数でこちらが有利になれば押し返せる。行くぞ、全艦突撃、ロアルド艦隊を救助するぞ」

「はっ!」


 涼井の艦隊は猛然と帝国軍の第一、第二梯団に襲い掛かった。

 秋の黄昏作戦の第二幕が切って落とされたのだった。

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