第24話【進行中】秋の黄昏作戦
秋の黄昏作戦は発令された。
帝国艦隊は帝国首都であるアンダルシア星域周辺に集結し、梯団ごとに怒涛の進撃を開始した。
第一梯団から第四梯団まで一列になって進む。
20万隻を超える史上空前の大艦隊である。
優美なフォルムの戦艦を押し立て、完全には家宰についたわけではない貴族たちを威圧するようにゆっくりと進軍した。
その有様はまるで星雲が大移動するかのようだった。
――帝国の大艦隊殺到す、との情報は異常な数の通信や重力の変動を察知したアルテミス宙域艦隊司令官のロアルド・ホーネット提督よりすぐにもたらされた。
「こ、こ、これは大変なことになった!」
宇宙艦隊司令長官のノートン大将はその巨大な腹をゆらしながら大統領府に駆け込んだ。
彼は焦っていた。
広大なホールを駆け抜けエスカレーターで大統領執務室を激しくノックする。
返事も待たずにそのまま飛び込んだ。
「だっ! 大統領! 大変です、有事ですぞ!」
重厚な机から大統領エドワルドも立ち上がりかけていた。
いつもエネルギッシュな彼だが、今日ばかりは顔面蒼白だ。
「さきほど国防大臣のエドガーからも同じ情報が入った。帝国軍の侵攻が始まったようだな」
「そ、そ、そ、その通りです。しばらく帝国領は内乱で荒れると思っておりましたが、予想よりも早くあのリシャール侯……公爵になったそうですが……あのリシャール公め、さっさと片を付けて矛先をこちらに向けたようです」
「困ったことになったな……」
先の第4次アルテミス宙域会戦では、スズハル提督の活躍で被害は局限できたが、それでも多くの艦隊が傷を負い、いまだ戦力回復中の段階だった。
まともに動けるのはロアルド提督に預けてある国境警備のための3個艦隊3万6000隻。
それからスズハル提督の24000隻+沿岸警備隊。
そしてノートン大将の第1艦隊のみだ。
「スズハル提督にも連絡済だ」
大統領エドワルドはもちろん政治的な意味もあるにしても、ここ最近のスズハル提督の尋常ならざる智慧にすっかり感服していたのだった。
「か、彼はなんと?」
「戦力をかきあつめてアルテミス宙域に増援すべし、と」
「そ、そうですか……」
ノートンはがっくりと肩を落とした。
「やるしか……ありませんな」
「うむ……」
ノートン大将はもともと実戦屋ではない。
後方幕僚を無難にこなし順当に出世してきた人物だ。
「エドガーと話して副司令官にニールセンをつける……それで何とかしてくれ」
ニールセン大佐は情報幕僚で先の第四次アルテミス宙域会戦にも参加した40歳のベテランだ。
海賊討伐など治安任務が得意で、いま生き残っているまともな幕僚・司令官の中では数少ない実戦屋だった。
ノートン大将は勝ち目のない戦いに気落ちはしたが、それでも急いで準備を整え、ニールセン大佐とともに第一艦隊を集結せた。
共和国の編制では一個艦隊は1万2000隻だ。
そもそも帝国に比べて数が少ないのは最小の戦略単位である艦隊の数を揃えるためだ。
帝国と比べて相対的に低い共和国の経済力も原因である。
ノートン大将は遊撃任務を負った第6艦隊、治安維持任務の第11艦隊にも連絡をとったが、どちらもかなり辺境のほうにいるようですぐの合流は難しそうだった。
やむを得ずドックにて修理していた艦艇の中で比較的損傷が軽いものをかき集め、不足している乗員については商船員や士官学校の学生や教育中の乗員、負傷の軽いものまでかきあつめ4000隻の艦隊を新編した。
さらに武装商戦のボランティア参加を求め追加で1500隻調達した。
ノートンは必死だった。
こうして第1艦隊を基幹として寄せ集めと表現するだけまだ聞こえの良い第13艦隊を追加し、彼ら増援組はアルテミス宙域へと急いだ。
第1艦隊 ノートン大将 ニールセン大佐(副司令官)12000隻
第13艦隊(新編) リアン准将 5500隻
前線となるであろうアルテミス宙域にいるロアルド提督の艦隊は3個艦隊36000隻。
合計で5万隻強と、帝国軍第一梯団をかろうじて上回る戦力にすぎなかった。
それでも向かうしかなかったのだった。
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