第14話 Re:【延期】日程の延期につきまして相談です
深淵の宇宙空間においていくつも爆発が起こり、光芒がまたたいた。
無音の中で破片が飛び散り数百の艦艇が一瞬で残骸となってゆく。
そんな状態の中、アルファ帝国のリシャール侯とボルドー伯爵は相変わらず壊滅寸前の共和国遠征艦隊を攻め続け、すでに数個の艦隊が壊滅し何人もの提督が戦死または行方不明となっていた。
今や遠征艦隊総司令部直轄の第1艦隊も撃ちまくられ時折、司令官が乗る総旗艦ゼウスにも至近弾がかすめる事態となっていた。
一方、背後に回ろうとしたブルゴン伯爵の艦隊は涼井の艦隊と第8艦隊にはさまれ壊滅寸前だった。
「ブルゴンめ! さっさとあの程度の罠、食い破れないのか!」
リシャール侯は自身の戦艦オー・ド・ヴィの提督席で立ちあがった。
アルファ帝国の戦艦は華美な装飾がほどこされ、まるでギリシャ建築のような様子になっている。
リシャール侯は白に近い金髪をふりみだし、憎々しい表情で見えるはずもない虚空の彼方の涼井に視線を送る。
リシャール侯はいらだっていた。
もう少しで遠征艦隊を全滅させることができるところだった。
しかし涼井の艦隊が後から現れ、いまやブルゴン伯爵の艦隊が壊滅寸前、共和国の遠征艦隊も徐々に混乱をおさめつつあるように見える。
このままでは勝負がどうなるかわからなくなる。
常勝不敗がリシャール侯の二つ名だ。そうなれば領内の貴族たちを抑えられるかどうか……。
――涼井はそうしたリシャール侯のいらだちを知っていたわけではないが、イメージでは把握していた。
徐々に雑になる帝国軍の陣形。慌てたような様子。
入札で完ぺきに相手を出し抜いた時のライバル企業の様子にそっくりだ。
涼井はブルゴン伯爵を追い詰めつつ、冷静にいまの状況の把握を先に進めた。
連絡がつく提督と直接ヒヤリングを行い残存戦力を確認する。
弱っている提督は勇気づけ励まし、相手によっては叱咤激励して士気を高めた。
その結果、まだ第1艦隊、第8艦隊、第10艦隊は比較的秩序をたもっていることがわかった。
ただしすでに4人の提督が戦死確実で第3、4、5、7艦隊は壊乱状態ということもわかった。
第2艦隊においては行方不明とされていたロアルド提督は健在で戦力の8割を喪失したものの残り2割を指揮して第8艦隊を支援していることも判明した。
モニタに表示される状況を見ているとリシャール侯爵は艦隊をまとめてやや後退した。
その分こちらにぶつけられる火力は減ってきていた。
幅広に展開し、こちらが反撃するのを待ち受けているような……罠のように涼井には見えた。
「さぁ来いスズハル提督。反撃に出たら噛みついて一気に蹴散らしてやろう」
リシャール侯は血の気の引いたような怒りの表情でモニタをねめつけて居る。
そうしたリシャール侯を知ってか知らずか、共和国艦隊が迅速に秩序を回復し隊形を変更したのをリシャール侯は確認した。
ブルゴン伯爵の艦隊はちりじりになり本人も行方不明になっている。
その獅子身中の虫を駆逐した共和国艦隊は陣形を整え、第9艦隊が先頭に立った。
リシャール侯は武者震いした。
「いよいよ来るかスズハルめ!」
しかし……共和国艦隊は第9艦隊がこちらに向けて布陣している間に、秩序を回復した艦隊からアルテミス宙域へと遁走しはじめた。さらに治安維持に慣れた第10艦隊が分散しそれぞれを先導する形成だ。
リシャール艦隊が茫然としている間に第9艦隊も気が付いたら徐々に後退し、狭い回廊の奥に布陣しているのが見て取れた。こちらが罠を張るつもりで気が付いたら共和国艦隊が逆に罠を張っている。
こちらから突入すれば先ほどと同じ状態になるのは目に見えていた。圧倒的勝利から敗北ではないにしても引き分けに持ち込まれた、ようにリシャールには見えた。
「おのれスズハル!」
渾身の力をこめてリシャール侯はサイドテーブルのワイングラスをモニタに叩きつけ粉々にしたのだった。
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