第13話【延期】日程の延期につきまして相談です

 アルファ帝国における辺境であり、共和国におけるアルテミス宙域でおきた会戦は、まさに帝国が勝利を手中におさめつつあった。一列になって次から次へと狭い回廊から飛び出してくる共和国艦隊を待ち受けたリシャール侯爵の艦隊が狙い撃ちにするという状況だった。


 そこへのっそりと涼井の指揮する艦隊が増援に現れたのだった。

『す、スズハル君……』

 ノートン大将はすがりつかんばかりの表情を見せる。


 その様子を涼井は提督席で眺めながらくいっと眼鏡を直した。

「リリヤ、状況は?」

「はいー、ちょっとお待ちください!」


 ぱちぱちと副官のリリヤが目の前のコンソールをいじり、情報をいくつか涼井の目の前にも表示する。

「そりゃあもう惨憺たるありさまですね。ボロ負けです」

「……それは感想だろう。状況は?」


 どうやら共和国艦隊は無策に飛び出していき、先頭の第2艦隊をはじめ、第3~第4艦隊までほぼ壊滅。

 さらに今回の大攻勢の計画を立てたマイルズ中佐も行方不明とのことだった。

 そしてまさにリシャール侯爵の命令でブルゴン伯爵の艦隊が主力の背後に回りこんでいる形勢だった。


「どうやら間に合ったようだな。……こういう炎上案件において普通のことをするだけで感謝されるシチュエーションは正直、サラリーマンにとっては美味しいのだ」

「さらりーまん?」

 リリヤが怪訝そうな表情になる。

「いや軍人にとってだな。まぁいい、ブルゴン伯爵は我々に背後を見せている。撃ちまくれ」


 涼井は、もともと託されていた第9艦隊に加え、治安維持のための第12艦隊と沿岸警備隊全てを任されていた。沿岸警備隊自体は準軍隊組織ではあり、数だけでいえば5個艦隊に匹敵する勢力だ。

 そこから戦闘に用いることが難しい軽装甲、軽装備の船艇やパトロール艇を除き、軍艦構造の艦艇をかきあつめた。

 治安維持のための第12艦隊と編合し、何と2個艦隊近い戦力を涼井はひねりだしたのだった。

 

(……経費削減のためにプリンタの用紙まで見直したあの時に比べればまだマシなものだ)

 涼井はそのためのワーキンググループを編成し、リリヤやバークも含めて数週間で作業を完了させ、悠々と遠征艦隊が侵攻している間に、合計3個艦隊となった戦力で追従したのだった。


 もちろん独断専行だけでは軍法会議モノだ。

 そこは大統領エドワルドとの呼吸の一致があった。

 

 涼井は治安維持関連の艦隊を指揮下に置くにあたり、治安維持のための出動については国防省の省令で発令できることがわかった。エドワルドと話し、涼井は今回の大規模遠征とは別に、帝国による後方かく乱の可能性を理由にした治安維持のための名目で出動したのだった。

 涼井の指揮する3万6000隻もの艦隊は途中で多少の共同訓練、指揮所演習を繰り返しながら、帝国のかく乱の可能性・・・・・・・・・・があるアルテミス宙域へと向かった。


 そこで涼井艦隊は帝国軍と交戦し混乱をきたしている共和国軍をたまたま発見・・・・・・した。

 帝国軍は距離も近く自衛行動・・・・をとらざるを得なくなった。


 こうして涼井は堂々と遠征艦隊の救援に現れたのだ。

 もう少し意固地なタイプの軍人であれば絶対とらない行動だ。

 

 ともあれ、涼井の艦隊は背後を見せていたブルゴン伯爵の艦隊にむけて斉射を開始した。

 無数の光線がブルゴン伯爵の艦列に突き刺さる。

 同心円状の爆発をいくつも起こし、夜空にきらめく。


 この世界の艦艇は構造上、推進機関の関係で背後が特に弱いようなのだ。

 さすがのブルゴン伯爵の艦隊も反撃のために身をよじるかのような動きを見せたが、混乱の中、まだ無傷に近い第8艦隊がブルゴン伯爵を盛んに攻め立てはじめた。


 こうして帝国辺境宙域の会戦における第二幕が切っておとされたのだった。

 

 

 

 

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