第15話 Re:Re:【延期】日程の延期につきまして相談です

 アルテミス宙域会戦、もしくは帝国辺境宙域会戦は終わった。

 共和国艦隊は相当数の艦艇を失い、提督にもかなりの戦死者・行方不明者が出てしまった。

 帝国も提督の戦死者こそいなかったものの多数の艦艇を失い、戦力的には痛み分けとなった。


 一方、共和国は帝国に長年占領されていたアルテミス宙域の奪還には成功した。

 後から救援に現れたスズハル提督の功績だと推す声も多かったが涼井はそれを固辞してあえて遠征艦隊の功績ということで議会には報告をしてもらうこととなった。


「……よろしいんですかな?」

 主席幕僚のバークが涼井の報告書を前に、確認のような雑談のような雰囲気で話しかけてくる。

「構わん、善処を頼む」

「今回はスズハル提督がいなかったら共和国はボロ負けだったー、って人がたくさんいるみたいですよ?」 

 リリヤが不思議そうな表情でこちらを見る。

 涼井は艦橋の提督席に深く沈み込み、こめかみを押さえた。


「……あくまで個人的に、だが」

(出た、最近多い提督の立場を離れた独り言的な)

(提督もずいぶん雰囲気が変わりましたなぁ、もっと厭世的だったのに)

 リリヤとバークがひそひそと話す。


「……確かに今回は私の施策が当たった。それによって共和国軍は何とか全滅をまぬがれ帝国軍を撃退し、さらにはもともとの目的のひとつだったアルテミス宙域の奪還にも成功した……だが」

 涼井は続ける。


「もしも今回の功績を私一人のものにしたらどうなると思う? 一番血を流したのは誰だ? あれだけの作戦なのに後からホイホイ現れた私が第一功となれば当然に嫉妬の的となる。出る杭は打て。それより今回の功績など遠征軍にあげてしまえ。そうすれば彼らは感謝する。貸しイチだ。変に英雄になるよりは同僚に感謝されたほうが今後やりやすいはずだ」


 涼井に徹底的にしみ込んだジャパニーズサラリーマンの思考がそうさせていた。


「なるほど確かに。そういえば50年ほど前の戦役の英雄・ロン提督も天才的でしたが英雄の名をほしいままにしたがゆえに嫉妬を買い最後は暗殺されたと言いますな」

 バークは納得したようでうんうんと頷く。


「だがそれよりもこれからが大変だ。一件痛み分けだが実戦力はこちらのほうがかなり低下している。帝国の逆襲がはじまればとんでもないことになるぞ。そのための対応策を考えるほうが大事だ」


 涼井は報告書を送った後、数日して大統領エドワルドや宇宙艦隊司令長官ノートン大将、国防大臣エドガーにホットラインをつなぎ色々と協議を重ねた。ノートン大将は窮地を救われた上に今回の遠征軍の面目もたったことで大変喜んでおり非常に協力的になっていた。


 現在の状況としては共和国は多数の提督と艦艇を失いぼろぼろになっている。アルテミス宙域に戦力を集中して防衛するほかはない状況だ。

 それを踏まえて共和国内閣からの提案としてはスズハル提督の現在の艦隊に遠征軍のうち比較的健在な第8と第10艦隊を加えてアルテミス宙域を統括してほしいというものだった。


 それを涼井はあっさり断った。

 そうなれば英雄スズハル提督という虚像が大きくなり賛否の的となる。

 さらにすでに治安維持艦隊、沿岸警備隊含めているとはいえ、さらに健在な艦隊を加えてしまえば、共和国艦隊の中で最大勢力となる。そんな立場の上がり方をすれば周囲の嫉視が激しくなる。涼井はそう踏んでいた。


 涼井からの提案としては第8と第10艦隊に、数は減っても善戦した第2艦隊の残存部隊を加え、第2艦隊司令官ロアルド中将を大将に格上げ、アルテミス方面艦隊としてアルテミス宙域を防衛させる。

 それ以外の艦隊はいちど戦力回復や補修に宛て、涼井の艦隊は遊撃部隊として共和国領内を遊弋して起動防衛に任ずる。さらに以前投降してきたカルヴァドス伯爵をあらためて共和国に迎え入れ彼の戦力を涼井の艦隊に加えたい。


 この提案はノートン大将と大統領エドワルドのプッシュもあってすんなりと議会も通った。

 以前と比べて謙虚になったスズハル提督を称賛する声も出てくるようになった。

 そういう意味では涼井は名よりもかなり強力な実をとったことになった。


 しかし一方、帝国内部ではここ連続でスズハル提督に敗北とはいわないまでも勝ちきれないリシャール侯爵に対する反目の機運が持ち上がりつつあったのだった。

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