エピソード0:タケノコ狩りに行こう。14

 目の前には不思議な光景が見えた。


 幻想かもしれないと思った。


 不思議なんだもの。


 頭を打ったんだもの。


 そう思うよ。皆も。








 目の前には、土の汚れがそこら中に付いた、動き易そうな服に身を包んだ中年の男が立っていた。


 その男の両手には草を刈る鎌がそれぞれ四本ずつ、手の甲に爪の様に付いていた。


 その男は俺と青竹の目の前に立ち、青竹に向けて鎌を突きつけていた。


 「お前、立てるか?」


男は俺を気に掛けつつ、青竹から視線を外さなかった。


「えぇ…………っ。大丈夫です。」


頭が少し痛いが、大事無さそうだ。


「馬鹿なことして………素人がタケノコ狩りなんて無茶だ。」


「すいません。」


極悪農家ヤローに騙されたとはいえ、ノコノコやって来たのは俺の馬鹿。


謝る他無い。


「………別に良い。


素人がここまで誰の助けも借りずに来る訳がない。


大方、お前も騙されたクチだろう。」


ここからでは表情が見えないが、どうも叱責という雰囲気ではない。


「ったく…素人生け贄に収穫なんざ農家の片隅にも置けん。」


やっぱ生け贄か。


あ、ヤバい。忘れてた。


「助けて頂き有難う御座います。 ………貴方、ですよね?助けて下すったのは。」


手に装着された鎌の爪。


俺を締め上げていた部分の青竹の切断面。


他に誰がやった?という話だ。


「あぁ、タケノコ狩りついでに………な。


まぁ、青竹は青竹で収穫しないと不味いんだがな。」


「えぇ………と………僕は………逃げても大丈夫ですか?」


流石に『加勢します』とは言えん。


「逃げても良いが………帰るアテは有るのか?」


……………………………………… 俺、アンチクショウに逃げられたばっかだった。


帰るに帰れん。


「加勢します。………出来ます?」


得物の扱いは素人。


対農作物のエトセトラもズブの素人。


ズブズブの素人。


何が出来る?




「そこに鉈(切断式狂暴農作物収穫機:not agricultural cutter)が有るだろ?」


分厚い刃に木の持ち手。


片刃ノコギリのような刃物がそこに有った。


「これ……ですか?」


「それだ。それを使ってそこらにいる動く竹を叩き斬れ。少しでも動いたと思ったらやれ。


繊維方向に斬れば簡単に叩き斬れる。」


「所謂破竹の勢いという奴ですか?」


「そういう事だ。あと、他のタケノコに傷を付けるな。他の青竹も襲い出すぞ?」


「解りました。」


「あと、捕まるな。」


「解りました。有難う御座います。」


再度動き出す青竹。


鎌の男は青竹目掛けて駆けていった。





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