エピソード0:タケノコ狩りに行こう。1

 「で、これから君達には収穫を手伝って貰いますぅ。」


 応募後、集合場所に来たのは俺を含めて3人だけだった。


流石にこの短期間で未知のバイトを即決する勇者は少ないのだろう。


「えー……ハァ………君達にこれから行って貰うのはぁタケノコ狩りですぅ。」


雇い主の農家が俺達に向けて言う。


中々寝ぼけたような声だ。大丈夫か?


「タケノコは鮮度が命ぃ。と言うことでぇ、サッサと狩っていきますからスピード&効率重視でいきますぅよ………。


あぁ、ノーグは向こうの鍬を使って下さいぃ。」


そう言って横の箱を指差す。


そこには今までかつての農作業でお馴染みの…だった鍬が置いてあった。


「今時鍬使うなんて珍しいのですね。」


眼鏡の青年が珍しそうに鍬を見る。


「ただの鍬じゃないぃ。ノーグだぁ。知らないかぁ?」


語尾をフォークボールの様に落としながら答える農家。


「えぇ、残念ながら私が大学で学んだのはただの農学でしたので…………。」


あー………そうかぁ…農学ね……


農学と生物学はここ数年で一番揺らいだ学問だ。


何せそれまで物言わぬ植物だった奴等が熊や猪を脅かす怪物と化したのだ。


それまでの研究や積み重ねられた知識の大半が打ち砕かれたと言ってもあながち間違いではない。


「ですので今日は存分に現代農業を勉強させて頂きます。宜しくお願い致します(カチッ)。」


眼鏡を押し上げながらお辞儀をする。


「ぁぁー……宜しくぅ。


他にはぁ?」


「オッサン、良いか?」


手を挙げたのは睨んだ眼の不良風の青年だった。


「はいぃ?何ですぅ?」


「俺らはその棒切れで何殺りゃ良いんだ?」


眼光がヤバい。


あと、「何やりゃ…」の漢字がヤバい気がする。


「えぇー………タケノコの有りそうな地面を掘り返してぇ、タケノコを素早く掘ることですぅ。」


普通のタケノコ狩りと同じだな。


この場合、『普通』は物言わなかった頃の。って事だ。


「奴等の殺り方は?」


「えぇ、はいぃー。普通にタケノコの周りの土を手や足で掘ってぇ、鍬で根元から切って頂ければOKですぅ。」


正に俺の知るタケノコ狩りのイメージまんまだ。


「奴等が襲ってきた時は?」


眼光。


「タケノコは襲いませんン。ご安心をぉー。


だからバイトを募集したんですよぉ。」


成る程。でなけりゃバイトなんて無理か。




「ではぁ、行きましょう。」


不良、学生、俺、は農家の運転する小さな軽トラの荷台にノーグと一緒にすし詰めにされてタケノコ狩りへと向かっていった。





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