第14話 美夜受の下へ

 建たち一行は、美夜受との約束を果たすため、尾張に再び立ち寄った。比売は晴れやかな笑顔で建を出迎えた。

 「建さま、美夜受はお待ちすることに倦んで、もはや耐えられぬまでになっておりました」

 かつてのあどけない面立ちはそのままに、どこか艶っぽい色を差したようであった。

床の中で美夜受は、まるで喜びはねる一羽の兎のようであった。建は美夜受を取り押さえ、抱きしめ、しかしどこか空ろなものを感じつつ、それをかき消すかのように、再び強く美夜受を抱きしめた。

 翌朝、建より早く床を出た美夜受は、建の草薙の太刀を手にとり、御簾のすきまから漏れる朝の光にかざして、そのきらきらと輝くさまをうっとりと眺めた。目覚めた建は、その姿を目にし、心底美しいと思った。建の心に、ふとある思いつきが芽生えた。この太刀を美夜受のもとに預けていこう、そしてまたいつか、この尾張を訪ねるのだ、と。それは、倭への帰還という暗雲を振り払う希望とも思われた。

 建が、美夜受と草薙の太刀をのこして、尾張を発ったあと、族長である父が、美夜受をねぎらうためにやってきた。美夜受は父の姿を見ると、居ずまいを正して、述べた。

 「父上、倭建から太刀を奪いましてございます」

 父は驚いて娘を見た。だが、娘の手からその太刀を、敢えて取り上げようとはしなかった。

 美夜受は、にっこりと満足げに微笑んだ。


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