第12話 老人

 建は改めて老人を見た。いったいいくつの齢を重ねているのか。真白き髪、真白き頬髯。深い皺。一見いかめしくも見えた老人は、微笑するとすこぶる柔和であった。

 「ご老人、あなたは賢いお方とお見受けする」

 建は声をかけた。老人は首を横に振り、

 「いえいえ、とんでもございませぬ。この通り、火を焚くくらいしか能のない、役立たずの年寄りにございます」

 「そんなこともあるまい。木石に語るよりはご老人、そちに語りたいことがあるのだ」

 「この老体といえども、何かのお役に立つとおっしゃるのなら、何なりと」

 建にはふと、この老人が何かの神の化身のように思われた。

 「あなたを木石呼ばわりしたのは相済まぬことだが、私は木石に語るよりほかに、今は語るすべがなかったのだ」


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