第3話 熊襲討ち
熊襲は二人兄弟が治めるクニ。南国の者にふさわしく、酒と女をこよなく愛する男たちであった。
彼らはなめし皮の衣をまとい、岩のような体躯の大男たち。なるほど弟橘比売の言葉はいまだ謎めいてはいたが、正面から剣を交えても、小碓の力では敵わぬ相手と見えた。そこで小碓は、美豆良髪をほどき、女性のように長髪を垂らし、すばやく倭比売から与えられた衣に着替えて、侍女たちのなかに紛れ込んでいった。
夕暮れきらぬ頃から、松明は赤々ともえあがり、大宴会が始まろうとしていた。大きな猪の焼けるうまそうな匂いが天までも昇り、強い酒の香が辺り一面を覆っていく。
酒の酌をしていく侍女たち。小碓もまたその中に交じり、さらに陽のおちるのを待った。やがて赤々と燃え上がる松明の上に、金色の満月とその供のような美しい金星が輝くのが見えた。そろそろ頃合いである。
兄・熊襲はかいがいしく酌をする侍女たちのなかに、ひときわ麗しい乙女を見とめた。傍らの者にささやき、乙女をよびいだす。
途端に小碓は、左下から隠し持っていた太刀を振り上げ、瞬く間に兄・熊襲を一刀両断に斬り裂き殺してしまった。
それを見た弟は面食らって逃げ出すが、小碓は機敏にそれを追い、とうとう追い詰めた。観念した弟・熊襲がいう。
「貴様の如き勇者、せめて最後に名をお聞かせ願いたい」
小碓が名のると、弟・熊襲は己が名「建」を小碓に授けた。かくして小碓は倭建となった。
熊襲建をも一刀両断に討ち果たし、倭建はすばやくその場をあとにした。
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