値
エクラはしゃがんで、目の前の二つの板チョコを見比べた。彼は今、スーパーマーケットに買い物に来ているのだ。となりで買い物かごを手に下げて立っている少女・色が言った。
「早く決めて下さいよ。エクラさん」
「ちょっと待ってな」しゃがんだままエクラが言う。「この二つさ、内容量は同じなんだよ。ただ値段が違う。という事は高い方がおいしいのかな?」
「どっちでもいいですよ。だいたい板チョコなんて同じ味じゃないですか」
「全然違う。……よし!」
と言って、エクラは高い方の板チョコと安い方の板チョコ、その両方を、色が持つかごの中に入れた。
「結局どっちも買うんじゃないですか」
「まあね」
色から買い物かごを受け取ってエクラが笑った。ふたりはレジの方へむかう。
列に並ぶエクラの肩を、色がつついた。
「見て下さい」
色の指さす方を見ると、三十代であろう男が、五十代くらいの頭の禿げた太った男の、手首をつかんで並んでいた。
「手をつないでいる、みたいですね」
「いいんじゃねえの、べつに」
その男の順番が回ってきた。男はかごを渡し、店員は商品を次々バーコードリーダーで読み取っていく。値段が表示される。最後に牛乳パックが読み取られた後、男は繋いだ五十代の男の手をひいて、店員のほうに差し出した。店員は差し出された五十代の男の服の袖をめくった。するとその下からバーコードがあらわれた。店員はそれを読み取った。
三七〇円。
三十代の男は会計を済ませた。
エクラと色は顔を見合わせた。
「あんな商品置いてあったか?」
「見なかったですね」
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