最期の時。これをどう過ごしたかは言わないでおこう。言わぬが花だ。ここまで色々やったんだ。苦労の1つ二つ変わらない。最期くらいはサービスをしてやろう

 「本当に申し訳ありませんでした。」


 先刻まで略奪者だった奴らが雁首揃えて土下座するなんて誰もが予想しなかっただろう。


 実際大半の住人は娘が連れて来た賊を見て逃げ腰になっていた。娘を人質に自分達を脅そうと考えているのだと思ったようだ。


 「ハン!気に入らね。」


 「悪魔様。どうしたんですか?何か?」


「別に。」


 大半の奴が逃げ腰だった。こいつ等はこの賊が娘を人質にしていた場合、逃げようと考えていたのだろう。煙に燻り殺されず、怪我をする事無く逃げられたのはコイツが俺に魂を売り払ったからだってのに。


 善人は報われないってのは真理だな。


 「我ら盗賊団は今日。こちらの女神に真っ当な人としての命を頂き、生まれ変わらせて頂きました。これまでの事を水に流して下さいとは言いません。ですが、最期に一回だけ、自分達で壊した街を自分達で直す機会をお与えください。」


 人々の前で土下座をしながらそんなことを言い出す。


 「皆さん!こちらの方々はこうして反省して下さっています。どうか、寛大なるご慈悲を。もうこの人たちは悪い人ではありません。私からもお願い致します。」


 娘まで土下座をする。それを見た人々は動揺して騒ぎ始める。


 「マリア。無事だったか!怪我は無かったのか?」


 その喧騒の中から一人の男が出てくる。白いひげの背の高い痩せた老人だった。コイツはさっき逃げる素振りはしなかったな。


 「ビアードおじさま!ご無事だったのですね。はい、マリアは無事でした。」


 一応言っておくと娘の格好は水着エプロンではない。あの格好では悪魔と契約したことが漏れ出る魔力でバレる。それは色々面倒なので俺は今、娘の中で息を殺して最期の挨拶を静観している。


 「ステラとシスターさんも心配しとった。良かった。お前が生きていて良かった!」


 老人は顔を丸めた紙屑のようにしながら泣き崩れる。その後ろから同じく老婆が二人。うち一人は娘と同じような格好をした奴らが駆け寄り、娘を抱きしめた。


 「マリア!無事でよかった!」


 「心配させんじゃ無いよ!もしアンタが死んだら、あたしゃどうしたらいいか!」


 二人とも娘を力一杯抱きしめ心の底から安堵していた。


 「おばさまもシスターもご心配おかけしました。それよりも、こちらの方たちなのですが……」


 「お前が言うんだ。他の誰も文句は言わんだろう。」


 「シスターマリア。貴女の勇気ある行動に反対する者などここにはいないでしょう。」


 「皆!こいつらにはキッチリ落とし前付けさせてやる。街の復興にこき使ってやるよ!文句は言わせない!さぁ野郎共!そうと決まったら早速仕事だ。皆も。怪我は無いんだろ?さぁさぁ!逃げ出したばっかかもしれないが、気を取り直して立て直すよ!」


 海賊も真っ青な強引さで盗賊達はこき使われる事になった。










 それからはあれよあれよという間に夜になった。


 この街は平和ボケこそしていたかもしれないが、立ち直りが早い。異様に速かった。


 この娘にとっては良かっただろう。この分で行けばすぐに復興することが解ったうえで俺に食われることが出来る。


 娘(と俺)は誰にも気づかれないように人気のない街の外に出ていった。


 「手紙まで書く暇を下さって有り難う御座います。私は神の啓示を受けたことにして旅に出る。という事にしました。」


 屈託ない笑顔でそう言った。魂を奪われるというのに他人に心配かけないように細工をした上、奪う相手に礼まで言うか。


 「あぁ、別にいい………。じゃ、始めるか。」


 娘の身体から出て実体化する。


 契約の終わりと共に娘の魂は俺のものになる。本当は騙して直ぐ魂を奪う心算だったというのに、久々に面倒をしたものだ。


 「有り難う御座いました。悪魔様。お陰様で皆さんが笑って暮らすことが出来ます。」


 その代わりお前が永劫笑えない状況になるんだがな。


 「もう、後悔は有りません。遠慮なく……、お願いします。」


 覚悟を決めたようだ。が、笑顔が強張る。


 そりゃ、失敗したとはいえ、身体から魂を無理矢理引き剥がされたのだ。アレが来ると解っていたらそうはなる。が、


 「安心しろ。今回は特別サービスだ。痛み無くお前の魂を引っぺがしてやる。」


 なんだかんだ言ってこの娘は狂気じみていた。が、しかし、久々に、悠久の時の中でも中々の久々に面白い時間が過ごせた。


 それくらいはやっても契約に触れまい。


 「お気遣いありがとうございます。それでは悪魔様。この度は有り難う御座いました。そして、さようなら。」


 貫き手を構える。狙いはコイツの魂。苦痛を感じることなく、一瞬で、カタを付ける。


 「あぁ、さようならだ。」


 ここに、一人の少女と悪魔の物語は終わりを告げた。

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