第3話 換装!カータヴァル爆誕!

 ■ カータヴァル ■



 俺が住んでいる本島以外ににも六つの島がある。

 本島含め七つに分かれているからと言って、比べる程の違いは特にない。

 空に浮かんでいるせいで行き来するには、商人が物資を運ぶ際の貨物船や一日に数回ほど動いている島の外縁付近に停泊している民間船を使用するしか方法がないのが難点だ。

 ばーさんのように空を自由に飛べるならそんなものを使う必要性はないが、大抵の人間は空を飛ぶような非常識なことはできないので、一般人には必要だ。

 じーさんとゴリラなら跳躍ちょうやくして飛び越えて行けるかもしれないが。


 ……いやいや、2,3㎞は離れてるんだ。さ、流石に……な?


 奴らならできるかもしれないと感じてる時点で俺の中の常識は日に日に崩れ去っているのかもしれない。

 ばーさんたちみたいな非常識な連中は一先ず置いておくとして、各島々にはそれぞれ祠が建てられているけれど、本島のだけ何だかぼろい。

 誰がどういった経緯を得て、この祠を建てたのかは島の誰も知らないが、それでも神聖な物には違いないので壊したりせず、錆びれているが今でも大事に残っていた。

 と言うか、そもそも祠が建てられているのは森の奥深く、俺が修行で使っている場所付近で、魔物が少なからず生息しているから島でも唯一の立ち入り禁止の札が立っている。

 村の誰も近寄ろうとしない。

 もちろん、アインを除いて。

 好奇心が原動力のアインが魔物がいる危険な場所に行きたいと思わないな筈がない。


 そして、案の定、力ずくで無理矢理一緒について行かされた俺は獰猛な笑みを浮かべ、久しぶりの実戦にテンションがたかぶっているのか「アッハッハッハッハッ!」と高らかに叫びながら、手当たり次第に魔物を素手でほふるアインを目撃することになった。

 そのお陰で本島に棲む魔物は一匹残らず駆逐され、島には平和が訪れたが、あの魔物絶ッ殺すウーマンになったアインは今でも俺の中でトラウマだ。

 アインには極力逆らわないでおこう、と密かに胸に決めた瞬間でもある。

 話が逸れたが、俺が地獄の修行を開始してから約一ヵ月が過ぎたとある日。

 七つの島々、その祠の一つの上空に島を揺るがす程の地響きと共に巨大な赤門が出現した。


「おい、ばーさん!何なんだよアレ⁉」


 修行の最中だった俺は突然起こった異変に戸惑い、隣で赤門を見ても相変わらずの胡散臭い笑みを浮かべているばーさんに慌てて尋ねた。

 赤門から肌がヒリヒリするような当方もない魔力を感じ取り、俺は警戒態勢を取る。


「おやおや、くさびが外れたかの」


「楔?何言ってんだよばーさん!」


「アカリ、アレは鎖門ゲート。祠に封印されていたが現世にその現身うつしみを召喚するために発生したものだよ」


 ……何だろう。俺の聞き間違いかな。泳ぎの特訓してからまだ耳に水が溜まってるのかな。いくら、ばーさんでもこんなチュートリアルの始まりの村にいきなりボスキャラが登場するなんて、そんな非常識なこと言うわけ……マグナカルタに非常識な奴が多いの忘れてたわ。


「──はあ⁉天魔だ⁉何でそんな危なっかしい奴がこの島に封印されてんだよ!」


「昔、この島に祠を作って封印した奴がいるんだよ」


 誰だよ、その迷惑な奴は。


「じゃあ、何でその封印された天魔が復活してるんだ?」


「大方、封印の楔だったこの島(本島)の祠が壊されたからだろ」


 ────ガシャン!!


 え?

 俺は頭を左右に振って、まさかな、と頭に浮かんだ最悪のイメージを振り払いゆっくりと慎重に背後の何故かボロボロだった祠を確認する。

 そこには積木で遊ぶ子供の如く、思いのほか呆気なく崩れ去った祠が無残な姿で横たわっていた。

 神聖さの欠片もないその惨状は正に子供が崩した積木そのもの。

 そのすぐ近くには黒色のボックスが転がっている。

 

「な、な……何だとおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉ──!!!???」


 俺は絶叫する。

 ついこの間まで、無口だが元気で素朴な姿の祠がどうしてこんな目に合っているのか理解できなかったからだ。

 どうして、一体誰がこんなことを……。


「きっと、アインだろ。あの娘、船で出発する前にここで体を動かしていたからの。大方、その時に『最後だし、この頑丈な祠を本気で殴っても怒られないよね!願掛けだ!』とか何とか言って楔にひびをいれ、ついに封印する力に耐え切れず壊れたってところかね」


 ま た お 前 か(怒り)!!!


 いい加減にしろよアイン!!!!

 何でお前が去った後もこっちが被害をこうむらなきゃいけいんだよ!

 願掛けするなら鐘を鳴らす前に鐘の方を潰してどうするんだ。

 てか、アインたちが墜落した原因はこれだろ。

 神様殴ってたんこぶ作ったらそりゃ、罰の一つや二つ落ちて当然だわな。

 マキナちゃん、グレンさん、非常識な妹分ですいません。


「魔力を絶縁するこの祠に魔法は効かないし、生身にしてもオリハルコン以上で生半可な強度じゃないんだがね~」


 俺、そんな拳で殴られ続けてたのか……。

 もう、何だろ。

 怒りも呆れも通り越して、アインの殺人パンチ&キックを受けても今もこうして生きてる俺を誰か褒めほしい。

 今なら、牛の糞だって涙を流して受け取れる自信が俺にはある。


「封印が解けたばかりで、魔力が一点に定まってない。これじゃ、溢れ出る魔力を制御し切れずに暴走して、島丸ごと吹っ飛んじゃうかもしれないね~」


 状況解説は素直に嬉しいけど、そんな呑気のんきに言ってる場合か。

 島から2,3㎞は離れてるここまで魔力の圧を感じるんだ、もしその魔力が暴走なんかしたらばーさんたちはともかく、俺や村の住人みたいに魔力がない奴らは一瞬にして木っ端微塵だ。

 それは御免被る。

 エロ本も読めていないし、可愛い彼女もできていない俺はまだ死ぬわけにはいかない。

 誰か、あの天魔を倒してくれない「お前が行くんだよ」……か……な……やっぱりそういう展開か。

 うん、アイン関係の案件だと聞いた時から何だかこうなる予感はありました。


「それと、このボックスを持っときな」


 ばーさんはそう言うと、祠の近くに転がっていた年代物を空気を纏い、鎖で拘束された黒色のボックスを俺に投げ渡してくる。

 俺は受け取り、手の中にあるボックスに視線を落とす。

 俺の手にすっぽりと収まる大きさで、鎖のゴツゴツした感触が苦にならない不思議なフィット感が無駄に心地いい。

 このボックスの詳細を聞こうと俺はばーさんに視線を向けた。


「そのボックスはここの祠の中に隠されていたものだよ。本当はこの島を出発する際の餞別品せんべつひんとして渡す予定だったが、まぁ、いいだろう。今のお前にはそれを使う資格ぐらいはある」


「このボックスって古代遺産アーティファクトか?」


 ばーさんは俺が魔力がないことを知っているから、このボックスが魔力で動くマジックアイテムではない筈、こんな状況下で俺への嫌がらせはしないだろうと考えると、必然的に魔力がない一般人でも使用可能な代物が多い古代遺産と言うことになる。


「少し違うが、ま、古代遺産だと認識してくれて構わん。大事なのはそれをどう使うのか、じゃからな」


「どう使うだ?」


「ボックス──箱なんじゃから鍵穴があるじゃろ。そこにお前さんが首にかけている鍵を差し込めばの眠りが解かれる」


 ん、眠り?·····変な言い回しだな。

 カータヴァルってのはこの古代遺産の名前か。

 ──って、俺が今驚くべきなのはそんなことじゃない。

 祠に隠された得体の知れないボックスの鍵をどうして俺が持ってるんだ!?

 正確には俺のお袋が、だが。

 この鍵は死んだ親父の遺品で、魔除け代わりになるからお守りとして肌身離さず持つように、とお袋から言われたからずっと持っていたんだ。

 と、言うことはまさかこの古代遺産は親父の────


「ほら、さっさと開口しちまいな」


「あ、ああ」


 俺は時間がないので、取り敢えずこのことは頭の片隅に追いやることにした。

 言われた通り、俺はボックスの鍵穴に鍵を差し込み、ガチャリ、という爽快な音を奏でるとたちまちに拘束していた鎖が砕け散り、中から噴き出した漆黒の霧が視界を塗り潰した。

 その時、俺の背後に死臭漂わせた冷たい透明な骸が出現し、後ろから抱きしめるように覆い被さって来るイメージがふと頭に浮かんだ。


 目を覚ますと、機械人形の重層的駆動装置を象徴する複雑快挙で近未来的な装甲をした純白の鎧を身に纏う俺がそこにいた。

 頭部のモノアイは黒く染まり、関節を除く両腕両足には銀鎖で縛り付けられた拘束具、胸部から腹部にかけて覆う人間の肋骨に似た装甲、腰に帯びたベルト中央に刻まれた棺型の紋様、棺の鍵穴を晒す形で収まっている。

 全体的なシルエットは限りなく軽量型に寄せたスマートなタイプになっているようだ。

 何の因果か、神を祀る神聖な殿舎の前に亡者の魂をその身に宿した嘆きの骸を纏いし戦士がここに降臨した。


「な、何じゃこりゃ⁉」


「それが≪カータヴァル・アークフォーム≫だよ。ヒッヒッヒ!馬子にも衣裳とはこのことだね」


「筋肉がたらんの」


「獣毛が足りんぞ」


 うるせい、こんなガチャガチャした鎧なんて着たことあるわけないだろ。

 それからじーさんとゴリラはいつからそこにいたんだ。

「人類は皆元は裸なんだから何を恥ずかしがる必要がある」を提唱するばーさんに「俺の筋肉を見てくれ!」と逆に魅せつけて来るスタイルのじーさんに元から裸の野生のゴリラに感想なんて求めてロクな返事が返ってくる筈もないけど。

 ん?待てよ、俺が今装備してるのは古代遺産だ。

 ばーさんも俺にこれを装備させて戦わせようとしてるんだから、何かしらの強力な能力が秘められている、それこそ天魔に匹敵する程の……じゃないと、もし本当に天魔とソロでバトらさるつもりだったなら、奴らは本物の畜生ちくしょうだ。

 奴らもそこまで鬼ではあるまい!

 だったら……ふふふ!

 この馬鹿めぇぇぇ!!

 俺にカータヴァルを使わせるなら天魔と戦う直前にするんだったな!


「この阿呆共め!天魔なんかと戦っていられるか!今こそ好機!さらばだぁ!!」


 修行の成果ここに現れり。

 狂人的な足腰を作り上げた俺は勢いよく地面を蹴り、その場から逃亡。

 よし、行ける(盛大なフラグ)!


「阿呆はどちらだ」


「三人から」


「逃げられるわけ」


「「「ないだろ!!!」」」


「ヺ⁉囲まれた⁉」


 そんな……カータヴァルには何か隠された能力がある筈じゃ……。


「残念だったね。その≪アークフォーム≫には何の能力もないよ。所詮、器だからね」


 何か、不穏な言葉が聞こえたが……だったら、このフォームは?


「戦闘には何の役にもたたないよ」


「駄目じゃん⁉」


 その言葉を最後に俺の意識は途切れた。

 刹那、全身の外部と内部から衝撃が走ったが、恐らく手加減してくれたんだろう。

 じゃなきゃ、あの三人相手に俺が生きている理由が見当たらない。

 妙に息苦しいと思いながら意識を覚醒させると、目の前には全長5m越えの全身を炎で形成した赤鬼あかおにが巨大な曲刀を肩に担いで俺を睨んでいた。


「人間如きがオレ様に勝てると思ってんのか?」


 思ってないないんで、俺帰っていいですか?


「いいわけねぇぇぇぇだろ!!!」


 で す よ ね 、 知 っ て た!!



 ■ やったか! ■



 なんやかんやで、勝っちゃった。


 俺が初めて戦った天魔てんまの名前は「覇刃鬼はばき」。

 俺のとは違った極東の甲冑を身に着けた全長50m越えの巨体で、全身を構成する炎は動くだけで周囲の物を炎上させ、胸部の鬼瓦おにがわらの口から発っする炎熱のブレスは一息で周囲の建物や森を焼き尽くす。

 覇刃鬼の炎を纏った刀身が厚い曲刀を振り下ろすと大地が砕け、その下から灼熱の爆風が拡散される。


 実にその名の通り手に汗握る熱い戦いだった……てか熱すぎだ!

 てっきり、力技を駆使するパワー型かと思いきや、炎で円形状のおりを作って、初っ端から一酸化炭素中毒を狙った持久戦を仕掛けて来るとは。

 以外と堅実な野郎でびっくりした。

 ばーさんに教わった中に長時間の呼吸の止め方があることに気付かなかったら今頃俺は一酸化炭素中毒に陥って、アインの手料理ダークマターと同じでモザイクのかかった焦げた黒い物体になっていたことだろう。

 それから覇刃鬼は正面180度に炎の檻で逃げ場のない俺に炎熱ブレスを吐き続け、遠距離から魔力を貯めて、魔力のない者ならかすっただけであの世行きの炎の魔力刃を休みなく連撃してきたりと、やることなすことが鬼畜のそれだ。


 物凄い今更ながら、修行以外での初の実戦が天魔なんて……奴ら狂ってやがるぜ(迫真)!


 対する俺は破壊されないだけのロクに使えないカータヴァルの鎧を装着して武器と言う武器を渡されていない脆弱装備だが、そこはこの一ヵ月で鍛え上げた成果か、素手でひたすら覇刃鬼が倒れふすまで殴り続けた。

 鎧なのに熱さや火傷を普通に負うのは鎧本来の存在理由としてどうかと思うが、覇刃鬼の頭にたんこぶを作る頃には何とか全身大火傷の重症で辛勝。

 やっぱり、無属性で突っ走ったら駄目だな。

 せめて、水属性の武器を持たないと。

 頭にたんこぶができた天魔もとい覇刃鬼にどうして封印されてたのか尋ねてみると、昔俺のようにカータヴァルの鎧を装着した男がいて、団長のそいつと他の仲間たちと盗賊団をしていたらしく、一年にも満たない短い期間だったがそれなりに楽しく過ごしていたらしい。


 ……全長50m越えのそれも天魔を部下にするって、その団長は一体何考えてるだ。こんなのが町中にいたらショッピングするだけで町中が火の海になるわ。


 その後、紆余曲折はあったらしいが最終的には団長の故郷だったここマグナカルタで仲間であるボックスの中に封印されて、深い眠りについたようだ。


 ……へー。ボックスって、天魔の封印の役に立つんだ。それは便利だなー。じゃあ、俺のこの灰色のボックスにも天魔が封印されてたのかなー。だったら、アカリ怖い☆…………はい、現実逃避してました。


 俺、これにコメントしなきゃ駄目か?

 だって俺、今までの人生の中でこんなに悪寒が走ったの初めてだぞ。

 アインにエロ本見つかった時でさえ、肩に「あきらめろ」って誰かに叩かれた幻覚見たり、ここまで重傷じゃなかった。

 精々、「あ、あと……あとちょっとだけがんばろうぜ!な!」程度だったのに。


 ……胃が痛くなってきた。胃薬買っとこうかな。


 あ、ああ~それとばーさん……頭からエリクサーぶっかけるのやめてくれ。

 ありがたいけど、それ、飲むものです。



 ■ 天魔が仲間になりたそうにこちらを見ているようだ ■



 覇刃鬼は俺に「じゃあ、また後でな!」と謎の遺言ゆいごんを伝え、封印されていた赤色のボックスの残し、粒子になって消滅すると俺もベルトの鍵穴を再び鍵で閉じてカータヴァルを解除し、その日の夜は家に帰って死んだように寝た。

 翌朝、あのばーさんじーさんゴリラの人外衆の修行と昨日の覇刃鬼から不穏なことを聞いてから胃痛が止まらないので、早朝に他の島に逃亡するためいつもより早く起床し、一階のベランダにある庭まで出る。


「ふぎゃ⁉」


 すると、足底に何やら固いものを踏んだようで、気になって下を確認したら、何とそこには昨日倒した筈の姿形が変わった人間サイズになった覇刃鬼がそこに寝そべっていた。

 俺は昨日から既に頭の容量が限界で、ハッキリ言って今にも現実逃避したい衝動に駆られるが見て見ぬふりできる範疇はんちゅうを超えているのでとりあえず、顔面を三回程踏んだ。


「ふぎゃ⁉……って、何回踏むんだよてめぇは!!」


「チッ……現実だったか」


「今、てめぇ舌打ちしたよな。四回もオレの顔を踏んづけて、チッ、って言っただろ!」


「それで、何で昨日倒した筈のお前がここにいるんだ?」


「何、だと……!それよりも先にオレに謝りやがれ!」


「それで、何で昨日倒した筈のお前がここにいるんだ?」


「゛あ゛あ !? 同じ台詞を繰り返すんじゃねぇ!」


「それで、何で昨日倒した筈のお前がここにいるんだ?」


「だあぁぁぁもッ!分かったから!説明するから!何度も同じ台詞を繰り返すな!ちょっと怖いだろうが!!」


 と、半ば自暴自棄になりながも覇刃鬼は戦闘同様、以外と丁寧に説明しくれた。

 話が早くて助かる。

 こちとら体力は回復したけど、精神疲労はまだまだ休養中なんだ。

 面倒臭い案件は早々に解決しときたい。

 その後の覇刃鬼の無駄に分かりやすい説明をしてれたお陰で、だいたいの状況は把握できた。

 要は、今の縮んだ姿は天魔としての本来の力を人間体まで堕とし、若干顔の骨格がゆるくなっているのは無駄に力を消費しないようにエネルギー効率を良くしたエコ体らしく、俺との闘いの後消えたのも、単に魔力枯渇で一度霊体に戻って、今の今まで魔力を蓄えていたからだと。

 エコ体で顔の厳つさがマスコットキャラみたいにゆるくなるなんて、それでいいのか天魔。

 天魔の封印もただ単にぶっ倒したらいいわけではなく、覇刃鬼たちが封印されたのも『そういう力』を持っていた術師がいたからのようで、本当の意味で倒したいのならば天魔の存在自体が消滅するまで攻撃するしかないようだ。

 理解したけど、何で俺の家にいるの?


「ああ?そりゃーお前、数十年ぶりのシャバの空気だぜ?自由になったんだから、天魔の役目とか忘れてパーッと過ごしてぇーわけよ!そう考えたら、懐かしいもんを持ってるお前の所にいた方が面白そうだからに決まってんだろ!」


「え、住むの?」


「おおう。これから、よろしく頼むぜ」


 おい、勝手に決めるな。

 お前がここにいたら絶対にトラブルに巻き込まれる気がするから、今すぐに出てってくれ。

 覇刃鬼にそう伝えようとすると、目の前に突然現れたばーさん。


「何で、ばーさんがここに⁉」


「ああ、そのばーさんにお前の修行を手伝うなら、ここに住んでいいってさ」


「ヒッヒッヒ。泣いて喜びな。天魔に稽古をつけてもらうなんて、世界中探してもお前ぐらいさ」


 でしょうね。


「昨日の疲労は取れたかい?……その顔を見るに、取れたようだね」


 このばーさんどこに目ーつけてんだ。

 現在進行形で溜まってるんだよ。

 さっきから、ずっと胃が痛いっつーの。


「だったら、戦闘準備しな」


 へ?


「そろそろ、次が目覚めるよ」


 は?


「お?この感じ、あの触手野郎か」


 覇刃鬼の言葉がトリガーとなったのか、別の島から強大な魔力が溢れ出る。

 腹を抑えながら、俺は空に現れた覇刃鬼の時とは違った青い鎖門ゲートを見上げた。

 それを見て俺は、


 ……帰ったら、胃薬買いに行こう。


 俺はそう心に強く誓った。




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