第4話 居候が増えて、借金も増えました
■ イケメン死すべし。慈悲はない ■
アインが祠を壊したお陰で、天魔とかいうやべぇ奴らと戦うことになった俺、道草・アカリは昨日覇刃鬼と死闘を繰り広げたにも関わらず、胃痛と精神的疲労が治りきっていない状態のまま第二の天魔が召喚された島に向かわなければならない。
病人にこの仕打ち、病人の俺をもっと気遣え。
当然、「誰が昨日死にかけたのに、起きてすぐにまた戦わなきゃなんねェんだよ!」とその場から逃亡を図ろうとしたがばーさんに呆気なく気絶させられ、気付くと目の前に竜巻が迫っているこの状況……一体どういう状況だよ!
呆然として立っていると、キィィィィィィィイ!と雄叫びを上げる怪鳥が巨翼を上下して野性的な瞳を鋭くさせ、竜巻を展開しながら俺の方に突進してきたので、即座に後ろに飛んで回避したが風の余波で吹っ飛ばされる。
何事だと思い、怪鳥の影が潜む竜巻の中心へと目をやった。
……こいつも天魔なのか?、
──そう考えた瞬間、竜巻が俺に向かって急速に接近し始め、回避しようと走り出したが、タイミングが遅かった俺は無残にも竜巻に飲まれることに。
竜巻の目に放り込まれた俺が目を開くとそこには牛角の生えた冠を被り、腰から羊の毛皮で織られたもこもこな茶色のカウナケス(ロングスカート)を巻いた上半身裸の怪鳥に跨る巨大なイケメンがいた。
銀髪オッドアイの爽やかフェイスが
「ぷっ!冴えない顔。イケメぇぇぇぇぇぇぇぇンの僕を見ろ!遍く広大な天地を歩み続けて
「おい、出会い頭に人の顔を見てディスんじゃねェよ!」
この若干田舎臭のするイケメンは「エンリル」と呼ばれる風と牧場の天魔は、下は履くくせに上半身は乳首から腹筋の割れ目まで恥かし気もなく裸体を晒すナルシストの露出狂だ。
怪鳥アンズーに
全長35mの天魔と50mの怪鳥に跨っての組み合わせはそれだけで圧迫感と威圧感が凄く、警戒心が強い上に遠距離からちまちまと矢を放ってきて、一々50本も叩き落すのも面倒臭くてイライラする。
じーさんの修行で魔力ブーストされた1000本の矢を全て叩き落とすまで帰れません〜じーさんの愛情を添えて〜 をクリアした俺にしてみれば50本を叩き落とすのは容易だが、いかせん、リリースが早過ぎて50本プラス200本が実際の射数だろう。
ちまちまちまちま、イヤラシイ攻撃しやがって……。
……お前も覇刃鬼と同類か!
そう言うと、『あの単細胞の馬鹿と一緒にしないでくれ給え!』と何故か怒らせてしまったが、姑息な戦闘スタイルが同じなので俺からしてみれば似たようものだ。
天魔ならもっと正々堂々と戦えってんだ。
脳筋戦法しかできない俺にとっては遠距離戦法を終始一貫するこのイケメンに苛立ちを覚える。
攻撃しようにも空を駆けるエンリルを捉えられず、鎧が仕事放棄しているカータヴァルを装着したところで大して戦況に響かなかった俺は、ここに来る前にばーさんから教えてもらったことを思い出し、いつの間にか腰のベルトに取り付けられていた赤いボックスに赤い鍵を差し込み、
すると、ボックスの中から勢いよく放出した炎が俺の全身を包み込み、カータヴァルは進化する。削がれ落ちた骸の右腕に赤の魔法陣が浮かび、そこに炎で形作られた赤い装甲──『バーニングアタッチメント』は、その手に荒々しい鬼の風貌をした炎が憑依した
荒れ狂う暴風の中心に右腕に鬼を纏い̪し炎の戦士が誕生した。
その瞬間、獰猛で活発な焔の嵐が放たれた魔力の数百本の矢を飲み込むと一欠けらも残さず灰燼に帰した。
俺が属性を『炎』に
バーニングシミターを振りかざして炎の魔力刃を放つとエンリルと怪鳥は地面に叩きつけられ、その隙をついた俺は空に逃げられないようゼロ距離のインファイトを維持し続け、ひたすら滅多切った。
エンリルもイケメンのくせに必死に距離を取ろうと俺の攻撃の合間を縫って矢を放ってくるが全部切り伏せる。
なに⁉ と驚いていたが、じーさんの弓指導に比べれば破れかぶれの矢を見切るなんて造作もない。
最後は、バーニンシミターの柄の鎖を
弓?
弓など引かせなければいいよな(ゲス笑)。
「な、何故……イケイケの僕が……⁉」
「イケメンに人権はねェェェッ!!」
「り、理不尽……だ……ダ、ボォア……⁉」
エンリル、これが相性の力だ。
覇刃鬼曰く、この姿は≪カータヴァル・シミターフォーム≫というのは属性が『無』の≪アークフォーム≫から『炎』に変換した近距離型のフォームで、他にも多々フォームがあるらしい。
ここに来る前にばーさんと覇刃鬼に教えてもらったが、この島に封印された天魔を倒すと『アブソーブ
属性には相性があって、炎→風→土→水→炎、光→闇、闇→光の相性関係を持ち、無属性は他属性に分別できない魔法を指し、この属性にだけは相性というものがない。
強化魔法や重力魔法などもこれに該当する。
無属性は初期の≪アークフォーム≫が該当するので、覇刃鬼からもらった炎の鍵とボックス、そしてエンリルから手に入るであろう風の鍵とボックスを加えると、残りは四つ。
四……嫌な予感しかしないんだが。
残りの属性全部天魔と戦えとか言わないよな……?
二人目の天魔との戦闘で、身体の傷はエリクサーで治せるからとかいっても俺の心と胃が今にも張り裂けそうなんですけど……。
大至急、俺に胃薬を……⁉
天魔との戦闘が終わった俺は、これでやっと一息つけると胸を撫で下ろすがばーさん「明日には次の天魔が復活してるかもね」なんて言うのやめてくれません?
マジでシャレにならんから。
三日連続で戦闘なんてしたら俺の心と胃がどうにかなってしまうに違いない。
このままじゃ過労死するかもしれなぞ、俺!
この年で過労死だぞ!
いいのか!
いいのか!!
…………いや、ばーさん、これフリじゃないから。
■ 居候が一人増えました ■
「お邪魔してるよ」
「じゃあ帰って下さい」
「ひ、酷い!」
予感はあったが、予想通り倒した筈のエンリルが当たり前のように家に居た。
「酷いじゃないよ。なに、人の家で勝手にくつろいでんだよ」
「おばーさんに、君に修行をつけるならここに居てもいいって言われてね。折角、復活したんだ、シャバの空気を存分に楽しみたいじゃーないか」
あの、ばーさんまた勝手なことを。
家の主の俺に無許可でOKするなんていつから家の所有権がばーさんに移譲したんだ。
「うるせいよ。ここは俺の家だ。ここのリビングもトイレも風呂も木の模様も、ここに住んでるダニから埃の隅々まで全部俺の物なんだよ。つまり、俺がここの
「それにしては国が小さいな。僕がいた牧場の半分以下以下だ」
以下以下、それは言い過ぎじゃね?
せめて、もっと柔らかい言い回しでイカイカにしてくれないか。
「国ってのは最初は小さいもんだろ。よちよち歩きの赤ん坊からピストン運動できる大人へと成長するように人も物も国も大きくなるんだ。国然り親然り息子然り」
「オイ!それ、大きくなってるの股間の息子だけだろ⁉国家が作られるより股間からとんでもない山が作られてるぞ!」
「ほら、人生山あり谷ありって言うだろ?大きくなったり小さくなったり。そう、まるでピストン運動のように。……あれ、これって人生山あり谷ありに似てね?」
「似てないよ!人生の教訓を夜の訓練と同列に扱うな!それに谷って、ただ股間が縮こまってるだけのミニソーセージだろ!」
こいつ、天魔なのにまるで歴戦のツッコミ者のようなツッコミをするな。
イケメンフェイスに騙されていたが、もしかするとエンリルはツコッミの天賦の才を持っているのかもしれない。
だが、イケメンというだけで俺にとっては敵以外の何物でもない。
クラスの人気者からお前って地味だよな、って言われる気持ちが分かるか?
ああ、傷ついたよ。
少なくとも、授業終わりに森の木に斧で切りかかるくらいには。
「地味は地味だが、変態属性の地味男だったか。まぁ、残りの四人も僕ほどのイケメンフェイスではないが、個性的な面々ばかりだからね。このぐらいのいい加減さも必要かな……?」
誰が、地味男だ。誰が。
新しい言葉を作るな。
俺の新しいあだ名になっちゃいそうだろうが。
それと、残りの四人って何?
え?これから増えるの決定なの?
個性的な面々って、絶対トラブル引き起こしそうな問題児ばかりの予感がするんだけど……。
「とまぁ、これからここでご厄介になるんだ。ちゃんと、自己紹介しないとね。う、ごほんごほん!ん、風と農業を司る天魔随一のイぃぃぃぃケぇぇぇぇぇメぇぇぇンンンンン~~!の僕ことエ」
「ああ、そういうにのは結構なんで」
「え?え、ちょ、ちょ待」
この野郎、平然と二人から六人に増やすな。
女の子ならともかく、野郎もとい天魔を養うだけの
そもそも覇刃鬼みたいに何平然と家に居んだよ。
ここは俺の家であって、天魔共の控室でも休憩所でも何でもないぞ。
覇刃鬼は庭で寝てるし、サイズダウンしたエンリルは庭にテーブルと椅子を持ち出して紅茶を口に含みながら優雅にくつろいでるし。
正直、これ以上こいつらと関わるとロクな目に合わない気がする。
既に合っているが、これ以上の面倒事は勘弁だ。
普段の修行だけでもへろへろなのに、こいつらの面倒なんてみてられないし、誰に何と言われようともこいつらはばーさんたちに引き取ってもらおう。
俺がエンリルにそう言おうとすると、突然ばーさんが瞬間移動してきたと思えば、ばーさんは俺にだけ聞こえるように耳元で話し始めた。
え?今回の被害で負った村の請求書?
ばーさん何言ってんだよ。
それは俺じゃなくて、こいつらがやったことで「天魔の責任は主人の責任。それにお前がもっと早くけりをつけれていれば、ここまでの被害が出ることもなかったしの」って、俺はいつの間にこいつらの主人になったんだ!?
それをばーさんたちが負担する代わりにこいつらの世話しろって……そんな横暴な。
そうは言うが、覇刃鬼とエンリルが封印されてた村の人たちやこの島の人たちがこいつらを見たら何て言われるか。
「アインちゃんがいなくなったと思ったら、また変わった奴らと同棲か!がんば!」
「覇刃鬼!今度、うちの飯食って行けよ!いい魚仕入れたんだよ!」
「木の伐採助かったよ!ありがとう覇刃鬼!」
「あら、あの上半身裸の人中々のイケメンじゃない!」
「まあ、ほんと。イケメンだから目の保養になるわ」
「農業に詳しくって、うちの畑も助かったのよね~。イケメンだし」
「お宅も!今時の子にしては、しっかりしてるわ。イケメンだし」
「被害にあったけど、死人も重症人も出てないからね。そんなことよりも、覇刃鬼君とエンリル君の歓迎会だ!」
「「「宴だ!!!」」」
「ガハハハ!もっと飯持って来い!」
「僕のイケイケオーラに酔いしれな!」
「キィー♪」
そうでもなかった。
逆に大歓迎ムードだ。
覇刃鬼はそのノリのよさから村の男たちと意気投合して今はガブガブ浴びるように酒を飲んで、エンリルの周りは奥様方の包囲網が完成されててホスト状態だぞ。
対しては俺は村の人たちの受け入れの早さにさっきから口が開きっぱなしだ。
……そういえば、ここの人たちはアインの無茶苦茶な騒動で耐性がついてるんだった。
アインが残した爪痕はこんなところにもあった。
改めてアインの影響力の大きさを認識した俺は、はぁー、とため息を一息。
その夜の宴は一日中続いた。
宴代?俺持ちだけど何か?
■ 天魔とかいう穀潰し ■
それから数日が経ったが、俺の生活は夜のレスリングが第二ラウンドに再突入したかのように一向に激しさが収まらない。
──というか、前より激しさが増してるんですが。
第一ラウンドで体が温まったのか、ピストンが激しい!借金が激しく増える!
家に居ても大して家事をせずごろごろしてる覇刃鬼、食費の6割をアンズーの餌に充てるエンリル、買っておいた大量のお菓子を深夜に盗み食いする覇刃鬼、俺の朝食には牛の餌を出すエンリル、イライラするとすぐ炎を噴出してボヤ騒ぎを起こす覇刃鬼、常時服装がふんどし野郎と化した上半身裸のエンリル、この前食い逃げした覇刃鬼、ケンカしては周囲に被害を被って借金をぶくぶく太らせる覇刃鬼とエンリル。
……なんだこいつら。
天魔って『秩序の番人』とか言われているそうだが、家でぐうたらして、昼から馬鹿みたいに酒を飲んで、飯食っては寝てを繰り返しては遊んでばかりで、やることといえば精々金を消費することしかしない こ の 穀 潰 し が 秩序の番人?
はっ、秩序の番人(笑)の間違いだろ。
ゴリラでももう少し役に立つぞ。
半ば脅されて、二人を居候させてるけど覇刃鬼を見てると一向に不安しか沸かないんだよな。
エンリルが注文した無駄に高い材料を使った俺の朝食を美味そうに食べるアンズーは家の唯一の癒し枠だ。
「美味いか?」
「キィー♪」
可愛いーなお前。俺の癒しやで。
アインが家に居た頃は目覚めのジャンピングプレスを食らっては二度寝(気絶)して、いつの日か睡眠が永眠に変わってるんじゃないかと毎朝頬をつねっては「俺、生きてるかな?」とチェックするのが日課だったな。
最終的には「お兄ちゃんが起きないなら、私、ぎゅ~ってしますから!」と謎の張り切り具合に危機感を感じた俺は翌朝、アインの馬鹿力で抱き着かれ、骨がミシミシと軽快な音を鳴らっているのに気付いた時は死を覚悟したが、今もこうして生きている。
その頃に比べれば、目覚めのジャンピングプレスも毎朝死を覚悟することもない今の生活は俺にとっては十分平穏な日常の分類に入るかもしれない。
俺はテーブルについて作った野菜のスープ、トマトサラダ、エッグトーストを、アンズーにはエンリルが無断で買ってきた高級魚ギョギョを出し、これみよがしに口いっぱいに頬張り始める。
「……ズズー、うん。美味い」
「キュー」
アンズー可愛い。
「しかし、お前のご主人はどうしてああまでナルシストなのか」
「キュ?」
エンリルに何故常に上半身裸なのか訊いてみると、風の流れを直に肌で感じ取れて心地よく、魔力の自然回復にもなるからと言っていたが、じゃあ真っ裸にならないでいいのかと再び尋ねて「イケメンだからさ」とドヤ顔で返されたら一体どんな反応をしたらいいのだろうか。
朝食を食べ終え、知り合いの牧場で採れた濃厚なミルクで胃薬を喉に流し込んだ俺は今日は珍しくばーさんたちの修行がない日だったことを思い出し、何となく目に入った鏡の前で自分に見惚れているエンリルを何となく殴り飛ばした。
「グボォ⁉」
そういえば、昨日の夜から覇刃鬼を見かけてないな。
俺は床にめり込んだエンリルに覇刃鬼がい今どこにいるのか尋ねた。
「覇刃鬼は?家に居るのか?」
「は……覇刃鬼なら村の人たちと飲み会に行ったまま、まだ帰ってきてないさ。それより、体引っこ抜いてもらっていいですか?壁にジャャャストフィィィットして抜けないんですけど」
「゛あ゛あ ぁ?」
飲み会だと?
まてまて、覇刃鬼が小遣いがほしいと言うから初めてということもあり取り合えず5000バリスをあげたその日に博打で大損して、10万バリスの借金背負って帰ってきて、あいつは金を持っていない筈だぞ。
隠し持っていたとしても俺が即刻返済の足しにしているから覇刃鬼は今一文無しで遊びに行く金なんて持ってない。
なのに、飲み会だと?
…………まさか。
「金は?」
「タンスの隠し扉に入ってたお金をちょろちょろっと借りたって、言ってた。……いや、だからこれ!頭が抜けないって言ってるでしょうが!」
「それ、俺のへそくりィィィィィィィ!!」
「僕の話を聞けェェェェェェェェェェ!!」
あんのクソ天魔、遂に人の金にまで手を出しやがったな。
俺は慌ててタンスに隠していたへそくりを確認すると、ちょろちょろっとどころではなく、変わりに置かれていたのは『借りるぜ!てへぺろ☆』と気持ち悪い文章が書かれた紙を残して、50万バリス丸ごと無くなっていた。
「最悪だ!!あいつ50万バリス丸まる持って行きやがったあァァァァァァァ!てか、てへぺろなんてどこで覚えてきやがった!帰ってきたら殺す!すぐ殺す!千股を削いでアンズーの餌にしてやるぅぅぅぅッ!!」
食っては寝て食っては寝てを延々と繰り返し、仕事も家事も手伝わずに怠惰を貪り続けるこの穀潰し。
たとえ、天魔であろうと越えてはならない一線がある。
お前はその一線を悪ぶることもなく平然と越えた。
てめぇみたいな借金を作って、あまつさえ人の金を盗んで飲み会に行くようなニートは俺がゴキブリ諸共駆逐してやんよ!。
俺のそんな願いを神様が聞き届いたのか、
「アッハッハッハッハッハ!!ひっく……!たっだいまー!やっぱり人の金で食う酒は最高だな!酒に背徳感がアクセントになってこれがまたうまい!人の不幸は蜜の味とはよく言ったもんだぜ!ひっく……!ん?何だあかりじゃねぇーか。どしたよ、そんなところで突っ立って。ああ、お前も酒が飲みたいんだな?で も 、駄目でーす!何てったってこのオレ様が全部飲んじまったからな~残念だったな!」
「駆逐してやんよ!!」
「ぐはぁ──⁉な、何しやがる!は、離せ!そ、その両手に持ったククリナイフで俺に一体何しようてんだ!お前の金を無断に使ったのは悪かった。だから俺ににじり寄って来るな!あ、あ、来るな。来るなあァァァァ────────!!??」
翌日、家の前で二日酔いに悩ませながら『私は穀潰しです』と書かれたカンペを持った天魔が一日中正座させられた姿があった。
その日から覇刃鬼のお小遣いは10バリスとなったそうだ。
「ん、゛ん~~~!!……ッ、ふぅー。抜けない」
こいつはいつまで壁にめり込んでんだよ。
■ 修行 ■
「ほら、ぼさっと突っ立てないで反撃おし」
「この状況を見て、よくそんな慈悲のない言葉を言えるな!」
俺は今、危機的状況に陥っていた。
ばーさんが覇刃鬼とエンリルに俺の家に居候する条件として、修行する際に二人も参加し、俺を鍛える手伝いをしろというなんともありがた迷惑は条件が現在進行形で遂行されていた。
酸素を焼き尽くさんとする獄炎の炎が間髪入れずに濁流の如く襲い掛かり、怪鳥の翼はためかせ一発必中を旨とする強弓からマシンガンの如く連射される野獣の矢が降り注いでる。
炎の濁流が自分に到達する前に地面を砕き、鍛えられた足腰を緩やかにそして機敏に跳躍して炎から逃れ、それを見計らったような矢の豪雨がコンマ数秒で被矢するのを確認した後、砕いて宙に舞った岩石を足場として即座にその場を離脱。
着地した瞬間に悪寒が走った俺は瞬時にバク転。
先程自分がいた位置には垂れ落ちた汗の雫を蒸発させた覇刃鬼の愛用の二刀の著大な
汗から冷や汗に変わった俺に、天命刻まれし粘土板を錬金術で再構築したトンプゥシマティの弓が空気を穿ち、螺旋状に風の加護を与えられた矢から一度に50発同時発射する≪ゲイルバニッシャー≫を空中でも回避行動ができるよう習った空中水泳術を用いて紙一重で回避した。
一瞬でも集中を切れば即座に灰燼に肉片に帰す緊張感溢れる修行とは形容できない修行もどきを朝さから行っている。
一度勝ったらからといって、再戦すれば必ず勝てるわけではない。
同じ敵で同じ格好で同じ度量でも、その全てが寸分たがわず再び出会うこともない。
それは違和感となり、戦闘行為には必ず±が発生することを忘れてはならない。
「チッ!ささっとオレ様に斬殺されろ!」
「さっきから、お前は何でそんなにマジなんだよ!」
「チッ!ささっと僕に他殺されるがいい!」
「思いっきりお前らが犯人だわ!お前ら自体が今証拠そのものだぞ!」
「「殺す!!」」
こいつら……聞いてないな。
鬼瓦の口が開き、集束していく魔力がキャパシティの限界を迎え、宙を加速していく覇刃鬼の怒号を表現した≪必殺・炎雷鬼丸砲≫に追随するエンリルの風魔法≪クルーガルベール≫が直線に進む荒々しい熱線を包み込み、炎の温度を更に上昇させ熱線を扇状に薄く伸び広がらせる。
「殺す気か⁉」
「てめェを倒せば、ばばぁから小遣いもらえんだ」
「君を討ち取れば、愛鳥アンズーが僕の元へ帰って来てくれる筈」
全部私怨じゃねェか。
「上等だよ。もう一度お前らにゲンコツ食らわしたらいいんだろ!」
そう言って、俺は接近する炎弾と矢を殴り飛ばす。
こちとら、一度はこいつらを倒したんだ。
家でゴロゴロするニート共に負ける道理がどこにある!
「ゴリラかよ、てめェ」
「うるせェ」
ばーさんじーさんゴリラの修行を受けてたらいつの間にかこうなってたんだよ!
人体改造とかしてないよね(震え声)?
後々、物語の終盤らへんで実は改造人間でした!なんて展開やめろよ。
フラグじゃねェからな!な!
「今回は特別に武器を使っていいから、≪アークフォーム≫のままでじーさんとの修行の成果を見せてみな!」
「なら、武器を寄越せよ!」
じーさんの厳しい指導のお陰で、今の俺はほとんどの武器をそつなくこなせるようになり、前衛、中衛、後衛のポジションも一様全て担える程度の力量はつけた。
じーさんで教わった武器をゴリラとの実践訓練で使用して、俺がフルボッコされることでその武器への理解も深めることもできた。
毎度、装備した武器をものの数分で粉砕するのは勘弁してほしい。
そのせいで、じーさんに「何故、粉砕される前に相手を倒さない!」などと理不尽な説教を受けているんだぞ……。
あの歩く珍獣に相手に……勘弁してください……。
「ああ、ついでにアカリ宛てに請求書が届いているよ」
「な、なななななな何だとッ⁉」
「え~何々、『道草・アカリ様。この度はガナレット島限定、高級秘蔵酒“龍酔丸”計5セット御購入ありがとうございます』だってさ」
「俺はそんなもん頼んだ覚えないぞ!」
「オレ様だ」
「貴様ああああ!!」
「ほう?0が五つもあるの」
「嫌だッ!!聞きたくない!!」
何で島の被害額より高いんだぁぁぁぁあ!!
耳を塞ぎ、心も塞ぎ、残酷な現実を振り払おうとするが、脳を掠める家に積まれた請求書の束の山がそれを許してくれない。
50万バリスも酒に溶け、全財産を失って島の被害損額を払おうとばーさんに掛け合って天魔を倒すとそれに比例して借金から差し引いてくれることになった。
足りない分はツケにしてくれるらしい。
だが、覇刃鬼とエンリルの金遣いの荒さは日に日に借金を膨らませるばかりで、もう天魔一人を倒したところで返済できる額を超えている。
この前計算したら、8プラス0の数が五つだったのは俺の計算間違いだと思いたい。
「それもこれも、お前ら穀潰し共のせいだ!」
「あの酒は期間限定品なんだぞ!」
「てめェは期間限定に釣られる主婦か⁉」
「ああ、僕が通販で買った服もあるので、会計よろしく」
────ぶち
「ッざけんな!!この野郎、さっきから聞いてればぺらぺらぺらぺら好き放題言いやがって。自分で払えや────!!!!」
アイン、お兄ちゃんはお前がいなくなってからも胃が突貫工事で今にも貫通しそうです。
ホント、どうしてこうなった⁉
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