世穿大剣の初陣

「この陣に入ればここから出られるわ。」


茶と菓子を一通り味わわせて貰った後、某は魔剣を土産に帰路につこうとしていた。


「至れり尽くせり。感謝致します。某、この恩に必ずや報います故。」


「良いの良いの。さっきも言ったけど、こんな所で一生を終えるより、外で存分に暴れた方が本望でしょう?」


ウインクしながら彼女は微笑む。


「さぁ、戻すわよ。」


そう言って何かを唱え始めた。某の足元の魔方陣がそれに呼応して光始める。


「感謝致します。賢者殿。」


「どういたしまして。『帰還リターン』。」


光が更に強くなる。


思わず目を瞑った次の瞬間。


瞼越しの光が消え、目を開けると自分の家が目の前にあった。


















次の日


















「砕っ!!」


鞘に納められた魔剣を振るい、やってくる狼の群れを薙ぎ払う。


西の草原。




ここには様々な種類の魔物が日中にやって来る。


狼・毒蛇・怪鳥・バッファロー・猪・山羊……




種類はバラバラ。


強さはマチマチ。




しかし、今、某に必要なのはそんな環境である。


一本の剣であらゆる環境、あらゆる相手を想定する。


それが剣士の心構え。




たとえ龍を殺せても、スライム一匹に翻弄されては意味が無い。 そこで今日。某は草原で魔剣の試し振りをしていた。




無益な殺生を避けるべく、今は鞘に納めた状態で剣の間合いと柄の感触に馴らしていた。




「にしても………実に良い。」


思わず唸る。


先程から狼の群れを相手にしているが、いつも以上に苦もなく撃退が出来ている。


もうそろそろ抜刀してみるか…………。




















 「グモォォォォォォォォォォォォォ!!!」


 突進してくるタックルボアー(通称:猪)を躱していく。


 タックルボアーは体長3m級の猪で単調な突進のみを武器とした魔物である。


 しかし、このあたりの魔物の中では強い部類に入る。


 理由は簡単。




バキャッ ドサ ズガーン!




後ろの方で木が折れ、倒れる音。その後に岩が砕けるような音がした。


 後ろには予想通り。木がへし折れ倒れてその先に砕けた岩に頭を埋めた猪が居た。




 まぁ、この猪が強い理由は単純に力が強いからだ。


 魔法だろうと岩だろうと無視して突進してくる。


 しかもそれらを喰らっても勢いが全然死なない。そのまま突進して砕く。


 だからこの魔物を知る人間は絶対突進を正面から受けない。


 絶対に躱す。


 幸い、突進は一直線で、突進に予備動作がある為回避出来る。






 しかし、今回、某はこの剣を使ってあることを考えていた。


 猪の突進を正面から受けて叩き斬ってやろうと考えた。


 世穿大剣は魔剣。耐久はSSS。物理攻撃力もSS。


 並の剣なら砕かれるのが関の山だが、これなら折れる事などあるまい。


 後は某の剣の腕次第。


 剣は魔剣。しかも製作者は世界に名を轟かす『大賢者』その人。


 これで猪風情に後れを取ったらそれは某の未熟さ故。




 「ブルルルルルルルルル」


 猪は岩に刺さった牙を引っこ抜き、こちらを向く。


 ドシュドシュ。


 前足を蹴る。やる気は満々。双眸には闘志が滾っている。




 某も背中から伸びる柄に手をやる。


 この巨体を待ち構えて斬るのは得策ではない。


 やるならギリギリまで引き付け、抜刀と同時に上段から叩き込み、脳天に直撃させるのが最善手。








「グゥモオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!!!!」


 前足が地面に穴を穿つ。


 確かに地面が少し柔らかい。が、穴を穿つには余程の力が必要だ。


 某の構えを見て、獣の本能が本気を出させたのだろう。


 凄まじい速度で某目掛けて突進してくる。


 柄に掛けた手に力が入る。


 少しでも抜刀が早過ぎれば無事では済まない。


 少しでも抜刀が遅過ぎても無事では済まない。


 チャンスは一度きり。


 刹那の瞬間。


 柄を掴む手に更に力が入る。


 間合いのギリギリ迄引き付ける。


 間合いに一歩。猪が入って来た。




 この間。未だ時計の秒針一つ分も刻んでいない。






 手に力が入り、上腕の筋組織の一本一本が引きちぎれそうになる。


 一歩踏み込み、力を足から腕に、そして、刀へと流し込み、最高の一撃を振り下ろし






























 世界が暗闇に包まれた。







































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