Folge 93 衝動

「こっちにお勧めのポイントがあるんです」


 雰囲気に負けつつ、二人きりになる場所へと移動。

 美咲が連れていきたいという所へ。


「はあ、まだ顔が熱いわ。……どうしてくれるんですか、これ」


 家ではそれなりにしているキス。

 外では勝手が違うらしい。


「どうって。嫌だったのか」


 誰もいないなら平気だと思うけどなあ。

 外で見られていてもされるし、する。


「――――嫌なのではなくて、恥ずかしい……でしょ?」


 その時にしたいと思うなら、キスぐらいはしちゃう。

 よく知らない人とするわけじゃないし。


「恥ずかしいの?」


 好きな人だし、好いてくれているはずだから。

 安心してしたつもりだったのに。

 受け入れてくれたわけだしさ。


「……されるタイミングが不意でしたので」


 森のセッティングが絶妙だったのかな。

 演出ありがとうございます、喜んでいただけましたよ。


「照れちゃいました」

「それって、オレのこと好きだから……だよね?」


 勝手に思い込んでいるだけかも知れない。

 自分の妄想だったらどうしよう。

 そういう不安に駆られることがある。


「もちろん、大好きです。でなければ照れません。ああもう、恥ずかしい」


 だから、ストレートに好きかどうかを聞いてしまう。

 聞くことが良くないことかも。

 などという、新規不安がメンバー入りして煽ってくる。

 少しの不安が仲間を連れてきやがるんだよね。


「それさ、可愛いんだから。またしちゃうよ?」


 その不安チームに打ち勝つための行動。

 それがスキンシップだと思うのさ。

 弟妹との日常になっているのは、正にそれ。


「するんですか!?」

「そんなに驚かなくても」

「あああっ、嬉しいですけど恥ずかしくてでもしたい気ももちろんあって、あああああ」


 すっごい早口。

 次から次へと……まったく。

 オレのツボってさ、みんなに丸見えなの?


「さっきしたから一緒だろ? するから」


 したから。

 したいから。


「はわわわわわ。あ、あの、何故でしょう。今日はなんだか慌ててしまいます」

「こっちからしているからかな、どちらかというと。される方が多いもんな」

「少し分かる気がします。サダメちゃんからしてもらうことが嬉しすぎるんですね」

「それなら」


 したいから。

 したい時こそ。

 するべきだと思う。


「――――何度するんですか? 心臓が凄いことになっています……」

「ごめん。これで一旦やめとく」


 抱きしめて鼓動を落ち着かせてあげる。

 あれ?

 とんでもなく早くなるね。


「あの。気持ちは落ち着くんですけど、脈は激しくなりました」

「だね、逆効果だったか。……治してあげたいんだけどな」


 このまま抱いていたい。

 それはいつでもできる。

 今は鼓動を鎮めよう。


「美咲からしてみる? それなら落ち着くかも」

「そうかも。うん、私からしてみます」


 抱きしめ交代。

 やっぱり、されるのも好きだな。

 寄ってきてくれた人が幸せを感じてくれている感。

 役に立てているようで、好きだ。


「どう?」

「……はい、凄く落ち着きます。受け入れてもらえているのがよく分かって、嬉しい……」


 目的地にまだ着かない。

 立ち止まってばかりじゃ当然だね。

 でもこうして二人きりの時間に浸れている。

 これはこれで、ありでしょ。

 普段に無いシチュエーションがやたらと楽しませてくれるんだ。

 その楽しみを美咲と共有したくてさ。

 咲乃に話したことも伝えなきゃいけない。

 それを待ちきれないような感覚がさせたこと。


 ――――気持ちを伝えたい衝動が止まらない。

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