Folge 84 二人きりの妙
全員がオレの回復を待ってくれた。
待つ時間を利用して談笑していたとも言える。
結局、あれから睡魔に負けて軽く眠っちゃった。
ああ、誰かが頭を撫でている。
ここにいる連中なら、誰が撫でていても嬉しい。
ふむ。
この撫で方なら咲乃だ――いや違う。
咲乃の手に凄く似ているが……。
似ているのに違うというと、美咲!?
美咲とはあまりスキンシップが無い。
そう、実は無いんだよ。
――――思い出した。
片づけの手伝いを約束していたっけ。そのお誘いかな。
風呂の休憩所に長くい過ぎたかな。
「こんなに撫でていいのでしょうか」
「そろそろ起こさなきゃいけないし、美咲ちゃんなら珍しいから」
「咲乃ちゃんが色々しているから、美咲ちゃんもしている気になっていたけど」
「え~、美咲だって……あ、ほとんどしていないね」
「咲乃ちゃんがアタックし過ぎなのよ。いつも凄まじいもの」
「凄まじいまで言われちゃうの!? ……えへへ」
「いや、褒めていないからね。兄ちゃんどうしようか困っていること多いから」
「そうなの?」
「気づいていないんだ。あらら、これは兄ちゃんがどう思っているか」
「嫌だ嫌だ! やり過ぎているのかな。嫌だ、嫌われたくない!」
「すこしソフトにすればいいだけよ」
オレの扱い方について本人の前で語り合わないで。
妙に照れ臭いよ。
でも約束があったから起きなきゃ。
座っていた二人用ソファーで横になっていたようだ。
力が抜けてそのまま横に倒れたんだな。
少し首が痛いや。
「ごめん、寝ちゃったみたいだ」
「サダメちゃん、起きましたよ」
やっぱり撫でていたのは美咲だった。
へえ、あんな感じなのか。
カルラとはまた違う絶妙で優しいタッチだった。
心地よかったな。
咲乃の圧が強いのも気持ちが良く分かって好き。
でも優しさが伝わるのは温かい。いつまでも触れていたくなる。
「お待たせ。戻ろうか」
「うん、風邪ひいちゃうから起こそうってね。でも珍しいから美咲ちゃんに撫でさせてみたのよ。あまりしたこと無いって言うし」
「ありがとね、美咲。嬉しかったよ」
「そんな……こちらこそ嬉しくて。なんでしなかったのかなって後悔しています」
「なんだか美咲って咲乃に遠慮しているところがあるからなあ。いいんだよ、思う様にすれば」
その相手になる当事者のオレが言うのもなんだけど。
実際、あまり接触が無いのも寂しいからなあ。
もう近づいて欲しくなっているから、こういうことが美咲とも増えて欲しいな。
……増えて欲しいのか、オレ。
再びぞろぞろと温泉から別荘へ戻る。
振舞われたアイスを食べたりして風呂上りを改めて満喫。
そこで美咲から片づけの誘いがきたから、二人だけでバーベキューの場所へ向かう。
「風呂の後に片づけなんて、また汚れちゃうのに。美咲は優しいね」
「そんなことないですよ。ただ、せっかくだからみんなに楽しんで欲しいだけで」
「それが優しいんじゃない。今回は本当にありがとね、連れて来てくれて」
「なんだか照れますね。まだお楽しみがありますから」
「そうなの!? 申し訳ないぐらいに盛りだくさんだね」
「ちょうどこの辺りの行事に合わせただけですし、気にしなくていいんですよ」
「美咲……」
ゆっくり二人きりの時間はあったけれども、どれもイレギュラー感が否めない。
ようやく極普通な会話の時間になりそうだ。
「ずばり聞いてしまうんだけど」
「はい、なんでしょう」
「美咲は咲乃よりもオレのこと好き? 好きのレベルとか分からないことだけど」
「――――確かに比べようがないかもしれませんけれど、物凄く好きです」
「あ、ああ。物凄いのか」
「ええ。学校では誰とも離さなかった私がいきなり告白した程ですよ?」
「そうだったね。あの時の勢いは強烈だったなあ」
「勢いで動けてしまうほどに好きなんです」
あの告白を受けたのは自分だ。気持ちを痛いほど感じていた。
なのに一歩、二歩下がったような控え方をされていた。
そのせいで美咲の気持ちが分かりにくかったんだよな。
「それだけ好きでいてくれるなら、これからはさ、もっと……その……近づいてくれないか?」
「……いいんですか?」
「美咲の気持ちが自分にどれだけ響くかを知りたい、というわがままなんだけど」
「サダメちゃんは妹さんとの付き合い方しか知らなかったのですから、仕方ないですよ」
「……確かにそうかも。あいつらとのやりとりしか上手くできないって感じはある」
「それはわかっているので、サダメちゃんにそう言ってもらえたのなら、これからは私なりにもっと動いてみますね」
「こんなヤツだけど、呆れてもいいからさ、よろしく」
「呆れるなんて無いですけど、こうしてお話していたらもっと好きになっていますし」
今の美咲の気持ちを確認できたのかな。
オレの事を好きでいてくれる人を大切にしたい。
――――ただ、それだけなんだ。
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